名探偵シャーロック・ホームズの20歳離れた妹、エノーラ14歳。
田舎住まいで世間知らず、お転婆だが自分に自信がなかった少女が都会で自立していく物語。
お嬢様のドタバタ探偵ごっこじゃなかった。(良き)
当時、女性は男性より能力が劣ると思われており、兄であるマイクロフトとシャーロックの認識も例外ではなかった。まして14歳の少女なら尚更である。
彼らはエノーラを前に、頭が足りず良家の子女らしくないと言い放つ。評価が辛辣すぎ…
まだシャーロックの方は、妹に対する秘めた優しさを感じさせる。それが本来のシャーロックかというと違う気もして、少々違和感はあるのだが。
しかし読んでみて、そういう人間らしさを持ったシャーロックもまた良しと思うに至った。
エノーラの自立と自在と自由がこの作品のテーマなのだろう。
兄は兄、私は私と、自信を持って立つようになったエノーラはドレスと結婚が関心のお嬢様ではない。誰の庇護にも入らず独立し、やりたいことをする彼女は自由で異色な存在だ。
でも時々挟まれる孤独感や、1人で立つ重圧が物語を深くしている。
生き馬の目を抜く都会で、いくらかまとまったお金があるとはいえ、少女が1人でやっていけるという都合のいい設定なのは気になるが、それを置いておけば…
女の子がキャピキャピ(←死語)していない、意外と骨のあるお話なのが良く、英国では映画にもなり人気のようだ。
古本は高いし図書館にも少ししかなく、手に取れたのが5巻中の2冊だった。なかなか手に入れにくいようだ。
◯消えた公爵家の子息
エノーラの父は過去に死んで、自由人だった母はある時出ていった。兄によって寄宿学校へ入れられそうになった彼女は、母の残した暗号を解いて隠し金を得て逃走。ロンドンへ家出するが、公爵子息の誘拐に巻き込まれてしまう。
エノーラは状況を繋ぎ合わせて、事件の謎を解明する。
最後に、鉢合わせたシャーロックからそそくさと逃げるところが秀逸。短期間のうちに結構図太くなって、堂々とした逃げっぷりが笑える。兄達の思考の裏をかく潜伏ぶりも面白い。
◯ふたつの顔を持つ令嬢
2巻目はさらに面白くなる。
エノーラがロンドンへ行ったのは、母を探すためだった。やり方は新聞の広告欄に暗号でメッセージをのせること。
それで母との通信に成功したが、暗号をシャーロックに解読されて偽の暗号で呼びだされる。
家出から連れ戻されたくないエノーラは、シャーロックを張り込み、偽の呼び出しを回避。その上、彼が出かけた隙に下宿の部屋に入り込んで暗号の本(大事な母からのプレゼントだった)を取り返すのだった。
ここの辺り、2人が互いの裏をかき合い、出し抜こうとするところがもう面白くてワクワクする。
さらに最後にダメ押しでもう一回、シャーロックがエノーラを捕まえようとする。
シャーロックが本気を出した捜索をかいくぐる驚きの一手とは…
すごく頭が切れるうえ、兄らしい人間味が加わったシャーロックの人間像が魅力的に見えてきて、それを客観的に観察できるのが楽しくて、この物語にハマってしまいそう!
(ワトソンも優しいおじさんで良き)
エノーラの破れかぶれ戦法も面白いが、私はシャーロックのファン、やっぱり視点はシャーロック。
彼の未知なる一面を目撃する楽しみを見つけた。