15世紀のヨーロッパ、ワラキア公国君主のヴラド三世を題材にした、戦いに満ちた物語。

15世紀中期。南にヨーロッパを席巻するオスマン帝国、西に大国ハンガリー。

ふたつの強国に挟まれた小国・ワラキア(現・南ルーマニア)にひとりの若き公が戴冠する。
その名は、ヴラド三世。
国内政治は貴族に支配され、外交は大国の情勢に左右される中、ヴラドは故国・ワラキアを護るため、その才を発揮していく――。


ヴラド三世は吸血鬼ドラキュラのモデルとなった人だそうだが、この漫画は吸血鬼伝説が焦点ではなく、
小国の君主として国の内外と戦わなければならなかった1人の男が描かれている。

以前に書いた「アルカサル」に感じが似ているかもしれない。
この時代の流れかもしれないが、主人公が子供時代から大人になっても、内も外も、ずっと何かと戦わざるを得ない運命にある。そしてその戦いは、たいがい大量の血を見ることになる。

倒したと思ったらまた別の相手が現れて、ひと時でも気を抜いたらこちらがやられるであろう緊張感から逃げられない。
そのような選択しか選ぶ余地がなかったんだなあとも思うし、休むことのできないしんどすぎる人生だとも思う。

さて、この主人公であるワラキア公国君主の若きヴラドだが、戴冠した頃は国内での貴族の力が強くなりすぎていたために傀儡君主であった。

そこから密かに少しずつ味方を増やし、傀儡から脱していく道のりは計略の連続だが、
古い慣習を塗り替え改革していくさまは、オセロの石を次々にひっくり返していくようで面白かった。

味方となったのはそれまで政治に関与できなかった小貴族や身分の低い者たちで、
ヴラドに感じるところがあって従うようになり、ヴラドも彼らのことは信頼していた。その関係がよかった。
やはり信頼できる腹心がいないとそういうことは成し遂げられないものだろう。

ヴラドは終始冷静で無表情に描かれているが、時々腹心の前で表情が緩んだり、稀に激情を顔に表したりするのを見られるのは、漫画ならではの楽しみ。

数年で国内を掌握したヴラドだが、隣国の覇者オスマン帝国から侵攻される。
周囲の国の援軍を得られず、軍勢に大差がある中で奇襲を決行し、決死の戦いで遂にオスマン帝国を撤退させたのである。戦国時代の織田信長の戦いなんかを思い出す。

5巻ではヴラドは、その戦いの傷が良くなく体調を悪くしているし、オスマン帝国の侵攻がなくなったわけではなく、いつまた始まるかわからない。
腹心は多くが死んでしまい、かなり痛手を負っている状態である。
そんな中ですっかりオスマン帝国の家臣となっているヴラドの弟が、ワラキア君主の座を狙いヴラドの下に送り込まれてくる。

あー、弱っているのに、休めない…
宿命かもしれないけれど、安寧は約束されていない。
史実から言って平和な結末は見込めないんだろう。わかっているけど、見たくないとも思う。
一番気になるところで終わってるから続きがとても気になる。

ちなみに「ドラクラ」とは「竜の子」の意味らしく、ヴラドの父が「竜公」と呼ばれていたことからとか。
なんてファンタジックな名前なんだ…
中世ヨーロッパって竜とかそういうものと一緒に生きていた精神世界なのかなぁと思ったりして、個人的に気に入ったポイントである。