本日は、法的側面からの指摘をいたします(要約版)。以下、違反の可能性が高いと指摘するものです。

 

<不平等>

〇「アチーブメントテスト」である「英語スピーキングテスト」を都立高校の入試に活用するという道理のない方策をとることから、、国立・私立の中学校の生徒にとっては、「英語スピーキングテスト」は都立高校の入試そのものであるにもかかわらず、「戦略的不受験」が認められ、公立中学校の生徒には「アチーブメントテスト」でありながら「戦略的不受験」は認められないという、逆転した差別的取り扱いが生じる。

*すなわち、都立高校を受験しようとする都内の国立・私立中学校の3年生は受験するか、もしくは受験せずに「仮想得点」が付与される特例措置を受けるかの選択ができるが、公立中学校の生徒には、国立・私立の中学生のような「選択権」はなく、受験しなければ「0点」になる。

また、都外の中学生は、「英語スピーキングテスト」を受ける機会がなく、否応なく「不受験者」となる。

これは、公立中学校の生徒にとって、「社会的身分による差別的取り扱い」であり、憲法第14条、憲法第26条及び教育基本法第4条に違反する。

 

〇現実として、中学校での授業時間で、「スピーキングテスト」に対応できず、ベネッセの「スピーキングテストGTEC」で訓練できる中学生とそれができない中学生との間の経済的格差による不平等が存在する。

英語の1年間の授業は116時間であり、英語の4技能を均等に授業すると年間29時間しかない。ほとんどの中学校で、タブレットによる「問題説明と解答・採点と指導」の授業が実施されておらず、結局、費用をかけて「英語スピーキングテストESAT-J」用の塾で訓練することになる。

*「英語スピーキングテストの都立高校入試への活用」が、9月22日の東京都教育委員会で正式に決定されるや、受験産業では、「英語スピーキングテストESAT-J対策講座」が商機となっている。

 

<公正、適正ではない>

〇「英語スピーキングテスト」の得点を4点刻みにしていること、また、採点はブラックボックスで公平性を確保できない。「英語スピーキングテスト」の採点者の有している資格や受けている研修などの具体的属性が全く明らかにされていないこと、「英語スピーキングテスト」を受けない者への得点の付与に合理的根拠が全くないこと、「英語スピーキングテスト」を受けない者への「仮想得点」の付与により英語学力検査の得点と総合得点との間に逆転現象が起こり得ることなどは、教育基本法第16条第1項の「教育は、公正かつ適正に行われなければならない」に違反する。

●学力検査の採点は、採点者の具体的な氏名は公表されないものの、志望する都立高校の校長が責任者となって、校長、副校長、主幹教諭、指導教諭、主任教諭、教諭及び日勤講師(非常勤教員)からなる「採点委員会」が行う。採点の責任者は都立高校の校長であり、責任の所在は明確。

●他方、「英語スピーキングテスト」の採点は、東京都教育委員会の目が届かないベネッセの子会社「株式会社学力評価研究機構」のフィリピンの現地法人で行われるとされている。

採点の責任者は東京都教育委員会なのかベネッセなのか、実際に採点する会社は何という会社で、誰が採点をするのかも分からない東京都教育委員会は、どのような体制で「採点が公正に行われ、採点ミスもないことを確認できるのか」、その仕組みもわからない。

 

<不当な支配>

〇東京都教育委員会が、区市町村教育委員会を通じて公立中学校に「英語スピーキングテスト」の結果を授業に活用するよう強制することは、教育基本法第16条第1項の「教育は、不当な支配に服することなく」に違反。

最高裁判決(北海道旭川学力テスト最高裁判決)文部省の学力テストは、地方教育行政の組織及び運営に関する法律第54条第2項の「文部科学大臣は地方公共団体の長又は教育委員会に対し、都道府県委員会は市町村長又は市町村委員会に対し、それぞれ都道府県又は市町村の区域内の教育に関する事務に関し、必要な調査、統計その他の資料又は報告の提出を求めることができる。」による「行政調査」であるとして、「不当な支配」に該当しないとしている。

つまり、文部科学大臣が、その管轄外の教育委員会(中学校)に対して、「個々の生徒の成績評価を目的」とし、「調査結果」を教育活動上利用すべきことを強制することは、「不当な支配」に該当し、違法性が高いということである。

都道府県教育委員会と区市町村教育委員会との関係は、「都道府の教育委員会は、市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言又は援助を行うことができる。」というものである。

都道府県教育委員会が、区市町村の中学校に対して、「個々の生徒の成績評価を目的」とし、「調査結果を教育活動上利用すべきことを強制」することは、「必要な指導、助言または援助」の域を越えて、教育基本法第16条の「教育への不当な支配」に該当し、違法性が高い。

*七生養護学校東京高裁判決(平成23年9月16日)によれば、「不当な支配」の主体は,教育について公の権力を行使する権限を有する者に限られないとされており、かつ、文部科学大臣や教育委員会も「不当な支配」の主体となり得ることが示されている。

 

<結論>

直前になって「英語スピーキングテスト」の結果を活用しないことにすれば、混乱する。訴訟を引き起こすのではないか・・・という懸念について:

むしろ、「英語スピーキングテスト」が都立高校入試に活用された場合、平等性・公正でない入学試験が実施されたことによって実際に不利益を受けた受験者、例えば、「英語スピーキングテスト」の不受験者の扱いによって合格するはずだった受験者が不合格となった場合等に、損害賠償請求訴訟と合格者である地位の確認を求める訴訟を起こすことができると考えます。

なお、損害賠償請求訴訟の被告は、東京都になります。

 

(次回は、立憲提出の条例案について記します。)