646-手造りハウス交響曲 | ikoma-gun(フリムン徳さん)のブログ

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(8年かけて完成した我が家)

 

「手造りハウス交響曲」

 

 「家の中が外より明るい」思わずこんな言葉が口から出てきた。長い間、板を打ち付けていた未完成の家の窓枠に真っ白なスライデイング(アルミサッシ)の窓が入ったのです。今までほとんど光が差し込まなかった家の中に東西南北の12の窓から眩しいばかりの光が入ってきた。外の眺めを見たいための大きめの窓だからようけいに明るい。
 
 夜になると、内壁もない材木まるだしの部屋の窓の横にベッドを置いて、夜空にきらめく星を眺めた。ベッドに寝ながら星空を見るのは贅沢な気分でんなあ。ひょっとしたら、これが金持ちの気分かもと一人で喜んだ。ここブラッドレーの山の中は海抜300メートルで空気が澄んでいる。昼は抜けるような青空が多い。夜の星は降るどころではない、星のささやきが聞こえるほどだ。流れ星は今にも部屋に飛び込んでくるように近くまでやってくる。

 

私の育った太平洋に浮かぶ喜界島の星空、移民していたパラグアイのジャングルの星空もきれいけど、ブラッドレーの星空には勝てない。人にブラッドレーの宣伝をするとすれば、「ブラッドレーの星空を見にきてください」と言う言葉が一番似合うと思う。

 

 このブラッドレーの地に18年前、7万5千ドル(780万円)で28エーカー(3万2千坪)の土地を月賦で買った。嫁はんと二人で、仕事の合間に家を建て始めてもう6年目、まだ完成していない。いつ完成するかわからない未完成の家だ。2年前に大工の私が病で倒れ、それ以来工事は進んでいない。遠くから見ると、小高い丘の中腹に1軒だけぽつんと建つこの未完成の家はよく目立つ。窓が板で打ち付けられたままでもう何年にもなる。完成できずにいる私達よりも回りの人達が気になっているようだ。

 

この前、ハイウエイを挟んだ向こうの丘に住むアメリカ人夫婦がわざわざやって来て、「一体どうして家が完成しないのですか」と聞く。人間は毎日自分の視界に見えるものはたとえ遠くても気になるようだ。

 

 一日でも早く完成させたいのだが、どうにもできない。私は働くことができず、収入といえば身体障害者の年金だけだ。嫁はんが働いて生活を支えている。これまでの蓄えは病院代と家の建築資材につぎ込んだ。残ったのはこの未完成の家と土地だけだ。無一文の状態になってしもうた。これでもし家賃でも払っていたら、到底生活はできない。1千ドル11万円)で買った30年もんのおんぼろのトレーラーに住んでいるからこそ生活できる。アメリカに住んでいる日系人で一番貧乏な人間は私です。自分を貧乏と思っている皆さんどうぞ自信を持ってください。

 

この辺のアメリカ人は大きな土地を持っていて金のない人のことをproperty poor(土地貧乏)と言いまんね。このトレーラーのお蔭で生活できている。ところが、このトレーラーに住むのにもパーミット(許可)がいる。カウンティー(郡政府)はなんでもパーミットと言って金を取る。カウンティーは金がほしいのや。金が要るのや。

 

 4月にカウンティーから来た一通の手紙は嫁はんと私を震え上がらせた。建築中の家のパーミットとトレーラーに住むパーミットが切れたから900ドル払ってパーミットを更新しろと書いてある。パーミットが切れると自分の土地でも追い出しをくらうと言う。これはえらいことです。もし追い出されたら、身体障害者なんかにどこもアパートを貸すはずはない、また家賃を払っての生活なんかできるはずがない。嫁はんと二人青い顔をしながら、悩み、苦しみ、心で泣いた。

 

 生活費がぎりぎりのところに、パーミットを更新する900ドルも金があるはずはない。4日ほど悩みぬいた末に、「インスペクター(建物検査官)のボスに直に会って説得するしかない」。そう決心した途端に、どのようにしたら、インスペクターのボスを説得できるか、アイディアと勇気がもりもりと沸いてきた。

 

相手も家族もある同じ人間、当たって砕けろ、負けてたまるか。「私は一日でも早く家を完成したいのですが、病に倒れて身体障害者の身では生活するのに精一杯です。材料を買う金も、職人を雇う金もありません。どうしたらいいか私自身もわからないのです。あなたの言う通りにしますから、アイディアを下さい」と言う文句を何回も英語で繰り返しながら、モントレーカウンティーのビルディングデパートメント(建築課)ヘ インスペクターのボスに会いに行った。

 

 インスペクターの説得に私の人生がかかっているのだ。でも、私の英語は完璧でないのや。必死の思いで、命を賭けて現状を訴えた。そしたら、へたくその英語でも通じた。顔と顔だから通じたのだ。これが電話だったら、通じない。やはり、英語に自信のない人は顔と迫力で説得せんとあかんのや。彼は私の必死の説得に負けた。同情してくれた。そして、意外なアイディアを教えてくれた。「銀行で金を借りて家を完成したらええ」と言う。

 

そんな考え信じられなかった。カリフォニアでは建物の建ってない土地には銀行は金は貸さないと思い込んでいたからだ。すぐに近くのバンク・オブ・アメリカへ行った。「コンストラクション・ローン(建築貸付)」で貸せると言う。銀行の人に「お金を貸します」と言う言葉をタイプしてもらって、またインスペクターのところへ戻って、そのタイプを見せた。彼は自分のことのように喜んでくれて、その場で、6ヶ月のパーミットをくれた。                                    

 

 この6ヶ月以内に窓をいれてフレーミング・インスペクション(骨組み検査)を受けて、OKになったら、今度は外壁を6ヶ月以内に済ませ、それがOKになると、今度は壁に入れるインスレイション(防音防熱材)を6ヶ月以内にいれる。インスペクターはこのインレーションのチェックはことのほか厳しい。以前、床板を張ろうとしていた時、床に入れるインスレーションを買って来てあったので、それを見せて、「これを入れてから、床を張ったらいいですね」と聞いたら、インスレーションを入れ終わった段階で、もう1度チェックするからと、許可をくれなかった。

 

アメリカはエネルギーセイブに気を使っているんや。インスレーションがOKなったら、内壁の工事をを6ヶ月以内に済ませ、今度は風呂、キッチンを完成させて、OKをもらう、これで終わり。晴れて完成した我が家に住めるのであります。そうしたら、もうパーミット料払う必要はない。ところが、今度は不動産税が今の3倍になるのであります。世の中税との戦いであります。一番、安心して、楽して儲かるのは役所のようであります。

 

 このように工程を何回も何回検査してもらって、やっと、自分の土地に住めるのであります。自分の土地に住めるのは当たり前のことなのに、それがほんまにうれしい。なんやおかしな世の中や。つくづく思った。「900ドルを払って、パーミットを更新しろ」の通知には、絶体絶命に思えた。でも何事も、当たって砕けろや、そして、一番えらいさんに直接会って交渉するのが一番や。

 

なんぼ偉い人でも、おじいちゃんもおばあちゃんも、子供も妻もおる同じ人間や、怖がることはない。ほんまに当たって砕けろや。更新する900ドルも月賦にしてくれと頼んだら、カウンテイーは月賦は受け付けない、900ドルが貯まったら持ってきたらいいとやさしいことまでも言ってくれた。

 

 このインスペクターのボスの優しさと親切を引き金に次々と信じられないことが起きた。息子も娘も建築資金を援助してくれると言ってきた。これで未完成の家も完成の見込みがついたと喜んでいると、日曜日の朝に隣のアメリカ人のポリスが来て「ウインドウ全部をプレゼントするから、早よう家を完成してくれ」、もう安いウインドウ屋を見つけてある」と夢のような話を持ってきた。ウインドウ全部でおよそ2千ドル以上はする。大きな金額だ。

 

彼とは隣近所のよしみで、パーティーをしたり、初美がたまに日本料理を作って持っていったりするくらいの付き合い、信じられない話だ。でも彼のお母さんが日本人だから、日本人同士の血がそうさせたに違いないとも思った。血は水よりも濃い。

 

 朝からの信じられないプレゼントにうきうきした気分で、教会の礼拝で、友達のバブとアルビラに、彼の信じられないプレゼントの話をすると、「よかった、よかった、早ようウインドウを入れたらええ、もし彼がしなかったら、私達がプレゼントしてあげる」とまた信じられないことを簡単に言ってのけるではないか。この人達は日本人の血もないまったくの白人。親切には人種はないのや、どこの国の血もないのや、国境もないのや。

 

どうして、彼らは私と嫁はんに親切にしてくれるんだろうか。私達が彼らに小さな親切にしているからだろうか。「人に親切にすると自分に帰ってくる」と言う言葉は現実に生きている。でも私は彼らの親切の気持ちだけを頂こう。その気持ちだけで十分だ。息子の援助で窓は入りました。息子、娘、銀行が私たちを助けてくれるので未完成の家は今年中には完成するだろう。 

フリムン徳さん 7-14-04