2024年4月23日 (火曜日)小説 細雪を読んで

 小説「細雪」は日本が戦争へ向かう中、大阪船場の旧家である蒔野家の美しい四姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子を中心にそれぞれの物語を繰り広げていきます。

 蒔野家はかつての勢いが衰え、時代の変化に直面しています。本家の長女である鶴子は、夫の転勤により東京に移り住んでいる。一方、次女幸子は兵庫県の芦屋に夫と暮らし、残る妹たちは関西を離れることを嫌い、本家に同行せずに芦屋に居候しています。

 

 幸子は母親代わりに二人の穏やかな結婚を願っているが、槇岡家は、没落したとはいえ旧家であり関西上流階級の伝統と格式にとらわれ、とうさん(雪子)の結婚がうまくいかない。とうさんは適齢期を過ぎ30歳代になるが、姉妹の中で一番美しいく純粋でおとなしい性格。こいさん(妙子)は活発で奔放な気質で、様々な問題を引き起こします。このことでとうさんの見合いがまとまらず、船場の古き良き時代の価値観と、四女妙子新しい感覚との間での葛藤が物語を彩り、幸子の苦悩する様子が描写されています。

 また、家族を思いやる心、情景などの描写、船場独特の感覚や姉妹間の絆としての言葉遣い、しぐさが、作品に鮮やかな彩りを添えて、物語の中で重要な要素として描かれています。

 私は、幸子を(中姉なかあんちゃん)未婚の二人の姉妹を、雪子が(娘とうさん)、妙子(こいさん)などと呼ばれる関西の言葉が好きです。四姉妹の物語が京都の花見や岐阜での蛍狩りなど四季の美しい風景と共に織りなされる絵巻物のような作品です。  

 終盤には、とうさんは公家華族に繋がる男性との結納が決まり、中姉ちゃんは安堵するのですが、とうさんの本音は、嫁ぐことにあまり期待がなく望んでいないように思えます。できればこのまま姉妹と関西で穏やかに暮らすことを、心のどこかで望んでいたのではないでしょうか。女性の機微な心と登場人物の人間味を浮き彫りにしています。

「」内の青部分は小説の最後の文章です。

 

 雪子は数日前から腹ぐわいが悪く下痢が続いていた。お色直しの衣装が出来てきたのに

「雪子はそんなものを見ても、これが婚礼の衣装でなかったら、と、呟きたくなるのであった。そう云えば、昔幸子が貞之助に嫁ぐ時にも、ちっとも楽しそうな様子なんかせず、妹たちに聞かれても、嬉しいことも何ともないと云って、けふもまた衣えらびに日は暮れぬ嫁ぎゆく身のそぞろ悲しき、という歌を書いて示したことがあったのを、図らずも思い浮かべていたが、下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた。」

 

 このように最後は、「下痢が続いていた」と「何なに?」と読者に考えさせるような文で終わっています。

 

 映画では、市川崑監督の1983年の「細雪」がなじみが深い、岸恵子、佐久間良子、吉永小百合、古 手川祐子が姉妹役として出ており、長女の夫には伊丹十三、幸子の夫に石坂浩二。そのほかにも小坂一也、岸部一徳、桂小米朝、元プロ野球の江本孟紀などのそうそうたる俳優陣が出演しています。もう一度原作と比べながら観てみたいとみたいと思っています。