これは数時間だけ繋がった過去と今、そして丸光園とナミヤ雑貨店…ひいては皆月暁子と波矢雄治の繋がりが呼び起こした奇蹟に基づく物語です。到底、東野圭吾作品とは思えない雰囲気を持っています。というのも、私が持っている東野圭吾作品のイメージは『白夜行』やガリレオシリーズに新参者シリーズ、『さまよう刃』などの社会派ミステリーというものだからだ。しかし、調べてみれば10代の頃に食い入るように観ていたドラマ『流星の絆』の原作者は東野圭吾であった。それを知った時にそうか、と思った。『流星の絆』にも命の関わる謎はあったが、主題はそこにはなかった。あくまで性格も特技もまるで異なる三兄弟が悪さをしながら協力して成長していく物語であった。

ナミヤ雑貨店に忍び込んだ3人。強盗犯だが、どうも息が合っていない。そんな3人がただ夜明けまでを過ごすために入ったナミヤ雑貨店で、たった一晩だけに起こる奇蹟の裏側を体験することになる。
そんな序盤の出来事を忘れるくらい終盤になってから、雄治の元恋人である暁子が丸光園を見守っていると言い残したことが明かされる。それを受けて、丸光園出身で親からの愛を充分に受けられなかった3人が丁度あの夜に強盗をしたのも、その相手が迷える子犬・武藤晴美であったことも、身を潜めた場所がナミヤ雑貨店であったことも、全てが必然であったように感じられた。
親とその恋人から虐待を受けた敦也は、恵まれた人間には厳しく当たる。そうでないと分かれば真摯に接するところを見るに、ただの意地っ張りかも。翔太は思ったことがすぐ口から出てしまうけれど、ちゃんと反省ができる。頭が回るお調子者。幸平はやると思ったらやる。ぼんやりしているように見えるがよく人を見ているし、抜けている部分もムードメーカーとして役に立つ。ただ丸光園で育った同年代の3人に見えるが、過去の相談と向き合うためにはそれぞれの真摯さと利発さと客観性を組み合わせることが必要になる。それも運命のように思えた。

ベースはファンタジーだが、それぞれの人生は非常に現実的だ。身分違いの恋は花咲く前に摘まれてしまう。作曲の才能はあっても歌で食べていくことは出来ない「魚屋ミュージシャン」がいて、そんな克郎に救われたことを心に刻んで『再生』を歌い続ける天才セリがいて、そのセリの熱のこもった想いに救われて傍で生きることを決めた「グリーンリバーの娘」がいる。予言のような助言を受けて一代で財を成すも誤解を受けて窮地に追い込まれる「迷える子犬」もいる。誰もが何もかもを得られるわけではない。欠けたものを埋められないままに、その穴を抱えて生きる人々。
自分だけが不幸なわけではないと3人は学んだのではないだろうか。不幸に見舞われない人生はない。だが、幸せは自分の手で掴みにいくことができる。誰かの助けを借りてもいい、彼らがナミヤ雑貨店に悩み相談をしたように。そして、誰の役にも立たない人などいない。波矢雄治が、皆月暁子が、ナミヤ雑貨店に起きた一晩の奇蹟が彼らに教えたかったのはそういうことなのかもしれない。



繊細な演出とスピーディーな展開で感情を落ち着かせる暇もなく、終盤はもうコミカルなシーンでも涙が流れてくるような状態でした。多田直人さん・松田凌さん・鮎川太陽さん・川原和久さん以外のキャストさんは全員一人二役以上をこなしていらっしゃったのですが、そこにも意味があるように感じました。以前観た『タイタニック』にて演出のトム・サザーランドさんが「一等客から下働きまで同じキャストが違う階級の人間を演じることで命の同等さを伝えたかった」というようなことを仰っていたのですが、今回は人生における幸不幸とは何なのかをこの方式から考えることができたように思いました。

これからの大阪公演、楽しんでくださいませ。