一つ前のあらすじは割とバッサリ繋がりさえ分かればいいだろうと思いながら書いた、つもりだったんですが…読み返してみるとかなり性格が悪いことが分かりますね笑。
観た人なら分かるんじゃないかなあ。私が削った部分は「必要ない部分」ではなく「教えたくない部分」だって。宣伝したい気持ちと自分の中にしまい込んでおきたい気持ちのせめぎ合いが見える。昨日の自分に。

そんなわけで始まりますよ、私の妄想炸裂トークが!



まず、私は法月夜彦を観に行きました。キャスト的にもキャラクター的にもそっちが好みだという確信がありまして。ただ、あんなに美しくて儚くて痛くて、途中で目を背けたくなるほどの仕上がりだとは思わず。桑野朝彦に何度も救われました。桑野朝彦は癒し。

終始見事な発音で全く噛まずにまくしたてる法月夜彦と、テンションを上げ下げすると噛みがちになるけれどいい声の桑野朝彦とが、いいコントラストでした。
夜彦は自分でも何が真実か分からなくなるくらいに心から言葉までの距離が遠い。朝彦は多分、数cmしかない。直結。気は遣うけれど、身を守るための嘘はつかない。夜彦と違って。大人になれば身に付けるかと思ったら、我慢しているだけで結局言っちゃう笑。しかもそれを血液型のせいにする。家系のせいにしていた夜彦と何が違うのかな?

今作には「高校教師の朝彦(30)」と「回想での朝彦(17)」「夜彦(30)」「回想での夜彦(17)」「朝彦(30)の元に突然現れた夜彦(17)」の5人が存在するのですが、まず朝彦(30)は間違いなく実在します。そう考えると朝彦(17)も実在するでしょう。むしろしていないとおかしい。…となれば共に高校時代を過ごした回想での夜彦(17)も実在する。お互いの印象はまあ置いておいて。
「朝彦(30)の元に突然現れた夜彦(17)」これは完全に朝彦の幻想でしょう。朝彦は昔のままの姿とか何とか言っていましたが、こちらからすると違和感満載。まあそれは後で触れるとして。ここまではいいんです。スムーズで。
問題は「夜彦(30)」です。この人、実在するの?という疑問は多くの人が抱いたようで。まあ確かに、夏休み最後の日の朝以降の話は回想じゃないんですよね。朝彦(30)と幻想の夜彦(17)と夜彦(30)が語った思い出話なんです。そこで、もしかしたら幻想の夜彦(17)のみならず夜彦(30)すらも朝彦(30)の幻想で、実は夜彦の享年は17歳だったのではないかという疑問が浮かぶわけですね。分かります。

序盤、朝彦(30)と幻想の夜彦(17)が会話をします。その会話を、最後に出てきた夜彦(30)と繰り返すのですが…ここが味噌かなあと。朝彦(30)は幻想の夜彦(17)と夜彦(30)に同じ問い掛けをするのですが、二人の返答には違うものもあるんです。それは夜彦の年が変わったから、と考えることも出来る。ただ、幻想の夜彦(17)と回想の夜彦(17)との違いに引っ掛かる朝彦(30)に対し、幻想の夜彦(17)は自分は朝彦の望んだ夜彦なんだと言っています。となると、幻想の夜彦(17)と夜彦(30)との返答の違いは、朝彦(30)が望んだ夜彦と実在する夜彦との差と考えた方がいいように思えるんです。この考えを成り立たせるためには、夜彦(30)は実在しないと話にならない。だから私は「夜彦(30)は実在する」という結論を出しました。

基本的にこの話、朝彦視点で進むんですよ。台詞の量だって出番だって朝彦の方がずっと多い。回想も朝彦視点。夜彦(30)が実在すると考えれば、最後の数分間しか出てこない夜彦(30)だけが朝彦を通さずに見られる夜彦なんですよね。皮肉屋で斜に構えていて文句ばっかりで自分勝手で、でも、朝彦(30)を傷付けない。幻想の夜彦(17)は出てきた途端に朝彦(30)を責め、ことあるごとに突っ掛かっていたのに。でもよく思い返してみると、回想の夜彦(17)は結果的に朝彦を傷付けることにはなったけれど、幻想の夜彦(17)のように直接朝彦を攻撃してはいないんです。ただ自分のことしか考えられなかっただけ。そこに朝彦(17)が踏み込み過ぎただけ。

ちょっと話は変わりますが、3人の夜彦の違いは大きかったです。
回想の夜彦(17)は、躁の時は耳障りなほどに弾けた声で、鬱の時は地の底から響くような声だったり絡まった感情を事細かに早口でやけに明快にまくしたてたりする。基本的に話は聞いていない。自分の意見が無視された時だけは突っ掛かる。
夜彦(30)は、落ち着いた声になっている。躁のようだが、異常にハイにはなっていない。ちゃんと薬を飲んでいるのだろう。しっかり受け答えが出来る状態で、相手の気持ちを汲むことも少しは出来ている。
幻想の夜彦(17)は、基本的に躁ではあるが驚くほどクリアに喋る。回想の夜彦(17)の躁状態での語り口はその場しのぎだったが、幻想の夜彦(17)は明確に話しかけてきている。朝彦の反応を見て、返答を待っている。当時は服薬していなかったはずなのだが。鬱に切り替わったのかな?と思っても、クリアさは変わらない。回想の夜彦(17)は姿勢から変わるから同じ声は出せなかったのに、幻想の夜彦(17)は真っ直ぐ立ったままだから変わらないんです。

幻想の夜彦に抱く二つの違和感「朝彦を攻撃している」「きちんとコミュニケーションが取れる」から、この夜彦は夜彦ではないのでは?と思いました。朝彦には、昔、親友ときちんと向き合えずに逃げ出してしまった後悔がある。その相手と数時間後に会う約束をしていて、しかもそれは二度と訪れない待ち続けた瞬間で、でもそれを迎える心の準備が朝彦には出来ていなかったのではないか、と。30歳という大きな壁を越えようとしている夜彦と会うのに、朝彦はまだ17歳の頃の後悔を乗り越えられずにいる。そんな時に突然、夜彦の姿をした何者かがやってくる。お節介で、何でもかんでも踏み込んできて、ボディタッチが多くて、向き合いたくないことに向き合わせようとしてくる、まるで17歳の頃の朝彦のようなヤツが。

結局、朝彦と夜彦は何だったんでしょう。「何か」ではあるけれど、そもそも本人たちが何なのかを突き詰めようとしていない。凡庸に生きようとする朝彦と、どう足掻いても凡庸には生きられない夜彦と。共に死ぬことは出来たかもしれないけれど、共に生きていくことは多分、出来ない。ある程度の距離を置いて、お互いの世界がほんの少し触れ合うくらいが関の山。それでも、たった一歩離れれば永遠の別れになりそうな危うい距離を保ち続けるくらいの想いはお互いにある。君たちは一体何なの?と聞いても、答えてはくれないんだろうな。それに、通り一遍の安易な言葉で括りたくないような気もする。…うん。君たちは「何か」だ。それでいい。



…長っ!これあらすじより長いんじゃないの!?バカみたい!!
でも意外と疲れていない。割とサクッと辿り着けたからかな。これが当たりか外れかはどうでもいいんです、実のところは。あの場で朝彦と夜彦とを本気で愛せたことが一番の収穫。いい80分だった。涙すら出したくないくらいの、本当は全部呑み込んで眠れなくなりたいくらいの…まあおやすみ3秒なんですけど笑、それくらい大事にしたい二人でした。出会えてよかった。

おはよう、朝彦。おやすみ、夜彦。またね。