※盛大なネタバレな上に途中から順番が分からなくなっていますが、こんな感じでした。なお、桑野法月回千秋楽のみを観ているので、その他の回や松島松田回とは印象が違うと思われます。



『朝彦と夜彦1987』 作:菅野彰 演出:中屋敷法仁



山田朝彦、30歳。理系の高校教師。相対評価から絶対評価に成績の基準が変わったことで、どう成績をつけたものかと悩みつつぶつくさと独り言を垂れ流している。

「お茶を濁して10段階の3をつける」
成績のつけ辛い生徒に対する朝彦の結論は決まっている。だが、そうではない教師もいた。朝彦の高校時代、彼の同級生は美術教師により「1」をつけられたのだ。彼の同級生…山田夜彦は1をつけた教師に食ってかかった。

「僕は障がい者になりたい」
右から左に同じものをパクることが出来ない。夜彦はそう訴えた。どうしてもデフォルメしてしまう。これは障がいだ。僕に1をつけるアンタ、いや先生は、差別主義者だと。

「親友だった」
朝彦は夜彦についてそう語る。しかし、突然現れた17歳の姿の夜彦はその言葉を否定する。一見おちゃらけた様子で、だがしっかりと前を見据えて。

朝彦と夜彦が男子校に通う高校生だった頃。たまたま同じクラスで出席番号が1番違いになっただけの、家族でも親戚でもない二人。教師は何でもない二人の関係を『何か』だとして、朝彦に学校を休みがちな夜彦の世話を見るように言いつける。
生真面目な朝彦は言われた通りに夜彦を訪ね、夜彦が遮光カーテンを閉め切った部屋で体を縮こまらせている様を見る。戸惑いながらも役目を果たすため夜彦とコミュニケーションを取ろうと努力する朝彦。クラスではひょうきんで笑い上戸な夜彦が、朝彦にだけは闇をまとったままに接するようになる。

「懐かれた」
朝彦は夜彦に対していい印象は持っていなかった。だが、夜彦を放り出すことは培ってきた長男気質が許さなかった。全く合わない二人。けれど、学校の屋上と夜彦の部屋の中とで沢山の言葉を交わしていった。
朝彦は不眠症の夜彦のために、目を閉じてミルククラウンを思い浮かべ消していくという方法を教えたこともあった。夜彦は目を閉じても真っ暗にならないだの、ミルククラウンの形が歪むだの、消しても次のミルククラウンが出てくるだのと並べ立てて結局は上手くいかなかったが。

「A型なんだ」
現在。30歳になった朝彦は、宅配業者のおじさんを一人クビに追い込んでしまっていた。ネット販売が主流になり、支払にカードが使えるようになったが、おじさんはそのシステムについていけていなかった。朝彦を含む教師たちはそれを仕方がないことだと割り切っていた。あの仕事を辞めたら次は見つかるまい、と。しかし、些細なきっかけで朝彦は溜まりに溜まったストレスを爆発させてクレーマーと化してしまう。それは朝彦自身望むことではなかったが、抑え切ることも出来なかった。
17歳の夜彦は30歳の朝彦を慰めるが、朝彦の後悔は止まらない。

「死にたい」
高校2年生の夏。朝彦は成績が落ちたことで悩んでいた。学校に来なくてもノートさえ見れば自分よりもいい成績を収める夜彦になど自分の悩みは分かるまいと、つい口にしてしまった。それまでは決して口に出さないように気を付けていた。なぜなら躁鬱の激しい夜彦が、その言葉だけは言わずにいたから。

「生きろ」
夜彦は9歳の頃、父親を自殺で亡くした。父親が汚い工場で愚かにもビニールテープを使って首を吊り、一思いには死ねずにみっともない姿で死んでいく様を夜彦はその目で見てしまった。その上、呪いの言葉まで受け取ってしまった。享年29歳。夜彦はその死に様を見て、自分も30歳までは生きられまいと思うようになった。

「坊や 強く生きるんだ」
父親が自殺した頃の夜彦の担任は音楽教師だった。その担任は、夜彦のクラスメイトたちに『小さな木の実』を歌わせてみせた。夜彦は気が狂いそうになった。クラスメイトたちが一斉に口を開いて歌わされる様を嫌悪した。しかしそんなことは表に出さずに礼を言った。夜彦はこの時から、嘘つきになった。

「そうか、頑張れよ」
年上の嫌なヤツがいた。夜彦を小突いてくる嫌なヤツ。彼は鉄棒の傍に座り込む夜彦にこう言った。その言葉には嘘が無かった。夜彦はクラスメイトたちを殺してやりたいとまで思ったけれど、彼は生かしておいてやろうと思った。

「どんなご病気で?」
夜彦が中学生の頃、彼女が出来た。歌わない子だった。夜彦はその子にならば、父親のことを明かしてもいいと思った。だが、出来なかった。

「ドスン」
そして朝彦と夜彦が共に過ごす高校生の頃。万引きで校長に呼び出された生徒が、逃げ出すために4階から地上に飛び降りた。凄い音がした。その音が、夜彦が保っていた微妙な精神のバランスを大きく崩してしまった。あまりにもはっきりとした死の音に、夜彦は囚われてしまった。

「生きるのか、生きるのやめるのか」
いよいよ追い詰められた夜彦を見かねた朝彦はそう問いかけた。死にたいと言わない夜彦に、言ってしまえと促しても言わない夜彦に。そうして夏休みの最後の日、朝彦と夜彦は手を繋いで屋上から飛ぼうと約束した。思い余っての心中と思われるかもしれない、それでもいいと朝彦は笑った。

「どうして来なかった」
30歳の朝彦に17歳の夜彦が問う。待っていたのに、と。校門をくぐるのは見えた。屋上の扉の前まで来たことも分かった。けれど、朝彦は扉を開かなかった。正しくは開けなかった。その日の朝に、死にたくないと思ったから。
朝が来た時に未来のことを考えてしまって恐ろしくなる夜彦は、前日に晴れやかな顔を見せた。最も恐れることが無くなるから。けれど、朝彦はそうではなかった。朝が来た時に「朝だー」と思う朝彦には、死こそが恐怖そのものだった。

「子どもに死にたいと思う朝を残さないか」
30歳になった朝彦には気の強い妻と二人の子どもともう一人、来年生まれる予定の赤ちゃんがいる。朝彦の思い描く予定調和の未来を目にした17歳の夜彦は、語気を荒くして朝彦に問う。朝彦は夜彦の望む答えを本心から発し、満足した夜彦は姿を消す。

「17歳のお前が来ていたよ」
17歳の夜彦と入れ替わるように、声のトーンが低くなり皮肉な表情が板についた30歳の夜彦が現れる。朝彦と17歳の夜彦が交わした会話を、時には全く同じように、時には異なった返答で繰り返す。

「殺してやりたいと思った」「その方がずっといい」
17歳の夏、夜彦は31日間の不眠を引きずったまま炎天下で朝彦が扉を開けるのを待っていた。しかし朝彦が扉を開けるよりも早く夜彦は熱中症で倒れ、目を覚ました時は病院に運び込まれていた。夜彦は怒りに燃えた。そんな過去を語る夜彦を見る朝彦の目は、凪いだ海のように穏やかだった。

「夜彦の30歳の誕生日だ」



笑いどころとピー音入りそうなところはバッサリカットしたので割と短く済みました。80分がこんなに短いわけがない!魅力を全て伝えられるわけがない!!
でもいいんです、これで興味を持った人が再演を望めば私も恩恵に預かれる。