前回の続き。

今回がこの連載の最終回となる。

 

今回はこれまでの補遺である。

島田陽子さんの出演作品については、既に折に触れ記してきた。

後になってから、過去の出演作を見返した経験から、時系列描写では取り上げていないものがある。

それらを取り上げることにする。

 

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『おさな妻』(1970~71)

主演は麻田ルミ。女子高生が突然母を亡くし、保育園でアルバイトを始める。そこへ自分と同じく母を亡くした園児と仲良くなり、その父親とも親しくなって、やがて結婚。タイトルから想像される淫靡な内容は皆無。

明朗に健気に、主人公が妻、母、女子高生の三役をこなしていく。

島田陽子さんの本当のデビュー作は、世間で言われる『続・氷点』でも『仮面ライダー』でもなく、本作が正しい。

但し、少々やさぐれ気味の、荒んだ化粧の女子高生役で、ほんの数話だけの出演。後の「いい子」のイメージはまだ確立されていない、いわば試験運用。

 

 

『仮面ライダー』(1971~73)

同じ所属事務所の先輩・藤岡弘のバーター出演。

『十字仮面』という名の企画当初は、主演:近藤正臣で、島田陽子さんは緑川ルリ子役の予定だった。

結局、企画が変わり、ルリ子役は真樹千恵子に決まっていたことから、島田陽子さんはその親友・野原ひろみ役で、初期回に出演。

大人しい雰囲気で、ライダーガールズにはあまり合わなかったかもしれない。山本リンダたちが現れ、入れ替わるように退場。

尚、シリーズ後半で中田喜子さんもライダーガールズの一員として出ているが、島田陽子さんとの共演はない。

 

 

『続・氷点』(1971)

オーディションで選ばれた事実上のドラマデビュー作。

主役・辻口陽子役。血のつながりのない兄・透役は近藤正臣。

”正編”は1966年放映の、ご存じ内藤洋子版。5年経っているため、キャストが一新された。

『続』は陽子が真実を知り、自殺未遂を遂げるも、一命をとりとめるところから始まる。

ビデオソフト化され、幾度となく再放送のある”正編”に対し、映像化にも再放送にも恵まれない。フィルムが現存しているのならば、島田陽子さん追悼で放映してもらえないものだろうか。

尚、”正編”で新珠三千代さんが養女・陽子を徹底的に苛め抜く役で、高評価を博したのも有名。

 

 

『火曜日の女シリーズ いとこ同志』(1972)

知る人ぞ知る「火曜サスペンス劇場」の原型となったミニドラマシリーズの内の1本。後の「湯けむり何ちゃら」とか「旅情サスペンス」とか、お決まりの断崖絶壁などの緩い内容ではなく、内外本格ミステリーを大胆に脚色した意欲作多数。

本作は横溝正史が原作だが、金田一耕助は省かれるという超大胆設定。

奇想の天才・佐々木守氏の仕事である。

島田陽子さんは主演。原作の宮本音禰に相当する一条百合役。

高杉次郎(演:佐々木剛)という謎の青年に強引に迫られ、本当に嫌そう。

初々しくて本当に可愛らしい。

島田陽子&佐々木剛といえば、『仮面ライダー』が反射的に浮かぶが、先述の如く、一文字隼人は本郷猛の後を継ぐ「2号ライダー」なので、実は殆ど共演がない。

 

 

・映画『初めての愛』(1972)

後に東映社長となった御曹司・岡田裕介氏はこの頃俳優をやっており、本作の主役。その恋人・坂本光代役で出演。

上記『いとこ同志』と全く同じイメージで初々しいが、澄んだ瞳で真っ直ぐ見つめられると、思わず姿勢を正したくなる雰囲気が、この頃の島田陽子さんにはあった。

ラスト、岡田氏演じる悠一に、雷鳴轟く中、意を決して身体を許すも、その直後悠一は事故で還らぬ人に…。悲劇のヒロインである。

小椋佳氏が主題歌を手掛けている。

 

 

『光る海』(1972~73)

石坂洋次郎原作。三人の若者たちの物語だが、「性の解放」というテーマもあるためか、結構際どい用語が頻発。沖雅也、島田陽子、中野良子の3名が、若者たちを演じている。

当時のテレビ誌で島田陽子さんは、「タマタマボール」なんて平気よ、と答えている。

 

 

・映画『喜劇・日本列島震度0』(1973)

私にとり、長らく幻の作品であったが、昨夏、ラピュタ阿佐ヶ谷で上映されたので、コロナ禍を押して観に行った。

日本列島に大地震が起きるかもしれない。人々が恐れて大騒ぎする喜劇。

島田陽子さんは地震研究所所員役だが、地震の危険を主人公たちに映像で語り掛ける場面しか出番のないチョイ役。

どおりでスチール写真がないわけだ。

 

 

『銀座わが町』(1973~74)

NHKによるホームドラマ。週1の1時間もの。銀座の老舗天ぷら屋と、同じく銀座の老舗レストランが犬猿の仲で…という筋。

両家のつなぎ役となる娘が島田陽子さんの役どころ。初期のイメージそのものの、健気ないい子である。

豪華キャストの数々に目がくらむ。

残念ながら、一部の回しか現存していない模様。

 

 

・東芝日曜劇場『愛といのち』(1972)

10年前、「スカパー!」で放映され、視聴機会を得た。

当blogでも当時記事にしている。(→『愛といのち』)

結婚を控え、幸せの絶頂にあった娘が、若くして胃ガンにかかってしまう。母はそれを娘に告げず、恋人は残された時間を彼女と共に過ごそうと結婚式を挙げるが…。

若かりし島田陽子さんの、数多く存在した役柄であった薄幸の美女役。

1時間の短い枠だが、見ごたえあり。角隠しの花嫁衣装が懐かしいが、若々しくて綺麗な花嫁さんだけに、早世することを思えば、逆に哀しい。

 

 

『くるくるくるり』(1973~74)

東京の花街の人力車屋が舞台。島田陽子さんはその家の娘・光子役で主役。恋仲の辰夫は光子を嫁にほしいと、光子の父に申し込むと、人力車夫になるのが条件だと言われ、辰夫は長距離トラックの運転手をやめる。

辰夫役は萩原健一氏。スチール写真からは、いなせな若衆の爽やかなホームコメディのさまが窺える。

 

 

『花ぐるま』(1973)

NHKドラマ。「テレビドラマデータベース」の紹介文をここでは引用させていただく。

京都洛北の芹生(せりょう)の里で育った一人の清純な少女が、水の流れそのままに、健らかに育ち、結婚して母となり、みごとな女性として成長していく半生を描く。

往年の島田陽子さんのイメージそのもの。できるものなら見たい。

 

 

『誰のために愛するか』(1974)

原作は曽野綾子のエッセー。映画版もあるが、これはTVドラマ版。

島田陽子さんは主役。因みに映画版のヒロイン役は酒井和歌子さんだがストーリーは全くの別物のようだ。

こちらは異母姉妹を中心とし、愛の悩み、苦しみなどを経験して真の愛に至るという筋らしい。

 

 

・映画『流れの譜』(1974)

3時間に及ばんとする松竹の大作映画だが、名画座でも近年上映された気配なし。屯田兵の血を引く軍人一家三代の生きざまを描いた大河作品とのことで、松竹系役者揃い踏みといった感じだが、原作が懸賞小説応募作品らしく、非公開。島田陽子さんが一体どんな役なのかも不明。

 

 

・映画『砂の器』(1974)

超有名作なので、ここでは細かい筋は省略。

島田陽子さんに限って言えば、「紙吹雪の女」こと高木理恵子役。

銀座のクラブのママで、物語の鍵を握る1人。

中盤、和賀英良(演:加藤剛)とのシーンで胸をはだけるという、初のヌードシーンがあった。

先に挙げた『愛するあなたへ』に当時のことが書いてある。
(上半身)初ヌードの場面に直面し、悩んだ挙句、監督に、
“胸も大して大きくないし、肉感的な体ではないし、脱げないと思います”と申し出たら、野村芳太郎監督から
“この役は悲しい女の役なんです。人を愛し、裏切られ捨てられて、最後は死んでしまう。
そういう女の胸は小さいほうが悲しいんですよ”
そう言われたものの、覚悟を決めて…というわけにはいかず、
撮影前日は眠れなかった。

普通の20歳の娘なら、これが当然の感覚ではないだろうか。

 

”女の胸は小さいほうが悲しい”…本年2月に物故された水島新司氏の『野球狂の詩』のヒロイン・水原勇気を思い出した。

 

二十歳にして銀座のクラブのママ役…って、幾ら昔でも若すぎる気もするが、地味な着物を纏った既に大人の雰囲気が、十分それらしく見える。

 

尚、物語後半、高木理恵子は身籠っていた和賀の子を路上で流産し、白いワンピースを深紅の血で染めながら、医者の元へ駆け込むが、手当が遅く、亡くなってしまう。

ここでも島田陽子さんは、薄幸の美女役であった。

 

 

『華麗なる一族』(1974~75)

幾度となく映像化されてきた山崎豊子の有名作。

少し前に主人公を長男・鉄平に置き換え、木村拓哉主演で連続ドラマ化されたのも未だ記憶に新しいが、2021年にはWOWOWで再び万俵大介を主人公に戻し、中井貴一主演で放映された。

映画版も同じ1974年公開。豪華キャストであった。

この1974年TVドラマ版は、内容的には最も充実している。

島田陽子さんは、物語に波紋を投げかける次女・二子(つぎこ)役。

父・大介(演:山村聰)の愛人・高須相子(演:小川真由美)が強引に推し進める閨閥結婚を拒否し、兄・鉄平(演:加山雄三)の友人で技術者の一ノ瀬(演:大和田伸也)を慕い、後に駆け落ち同然で結婚に向かう。

兄が役員を務め、一ノ瀬が働く阪神特殊製鋼の現場へ足を運び、お嬢様の格好のまま頭にヘルメットを被って足場を上っていく島田陽子さんが可愛い。

尚、二子役は、映画版では酒井和歌子、キムタク版では相武紗季、中井貴一版では松本穂香が務めたが、時代が下るにつれて、二子が単なるじゃじゃ馬娘にしか見えなくなっているのは贔屓目か?

1974年TVドラマ版だけが、映像ソフト化されておらず、視聴を切望する作品だったが、近年「スカパー!」で放映。漸く視聴機会を得た。

 

 

『ほおずきの唄』(1975)

東京下町の剣道場を舞台とするホームドラマ。

近藤正臣氏との共演。スチール写真からすれば、和服姿の島田陽子さんが頻出するようだ。近藤正臣氏との並びで、いつも幸せそうで楽しそうな顔をしている。

 

『君の歌が聞きたい』(1975)

笹沢佐保原作。

嘗て集めたスチール写真からすると、村野武則氏によって、幸せに暮らしていた娘が、重大な秘密を知らされ、苦悩する模様。

シリアスな表情の陽子さんも良い。

 

 

・映画『吾輩は猫である』(1975)

仲代達也氏が苦沙弥先生役を演じた本作だが、猫がそのままなので、実写映像化しても、原作の面白さは再現できない。よって大した作品ではない。

島田陽子さんは、苦沙弥先生の姪・雪江さん役。原作よりもマドンナ度が上がっている。雪江さんに限って言えば、物語後半の行水の後ろ姿が見どころと言えようか。見事に美しい背中が拝める。

 

 

・映画『夜霧の訪問者』(1975)

サスペンスもの。

若手写真家グループのリーダー役の森田健作は、仲間でモデルも兼ねている江津子(演:島田陽子)といずれ結婚しようと思っていたが、ある霧の深い夜、山野という若き社長(演:清水章吾)が仕事の依頼にやって来る。

山野は江津子を度々食事に誘い、江津子は山野に魅かれていく。

実は山野には過去の銀行強盗事件にまつわる秘密があり…という筋。

島田陽子さんに焦点を当てて言えば、物語途中で楽しそうに回転展望レストランで食事する場面、山野の要請で金髪になるが、それが恐ろしく似合わないこと、冒頭とラストシーンで、写真のモデルを務めるべく、気取ったポーズを取るところである。

松竹が制作、公開したが、期待されたほど人気を博することはなかったようで、映像ソフト化はなし。

大分前に一度だけ、松竹系「スカパー!」の衛星劇場で放映されたことがある。

 

 

『花ぼうろ』(1976~78)

花戸筐氏が原作、脚本を務めた雲仙の老舗温泉旅館の若き女性経営者を主人公に据えた奮闘記。

新珠三千代さんが主演を務めた『細うで繁盛記』のリメイク作品。

島田陽子さんは主役で、温泉旅館の若女将なので、和装も、そして洋装も存分に魅力を発揮している。

評判が良かったため、放映がどんどん伸び、事務所の強い意向で島田陽子さんが途中で降板することとなった。

人気ドラマで主役が途中で降りるなど、前代未聞のこと。

当時のTV誌の筋書きを読むと、確か若女将が途中で海外へ女将修行か何かで行ってしまうという強引な展開となったようだ。

尚、花戸筐氏の著書によると、島田陽子さんの最終収録日、花束贈呈もあったそうだが、何ともしらけた雰囲気で、彼女も逃げるように帰ってしまったとある。

確か別の雑誌で、花戸筐氏は、島田陽子さんの途中降板に対し、恨みつらみを述べていた記事を読んだ覚えがあるので、後味の良い退場劇とは言えなかったのかもしれない。

 

『愛染かつら』(1976)

NHK版。新藤恵美主演の1974年「ライオン奥様劇場」版は、以前DVD-BOX化され、そちらは視たが、やはり私にとっては、この1976年版が大本命。

視聴を切望していたが、先ほど調べてみたら、NHKアーカイブズのサイト内にダイジェスト版の動画を発見。

島田陽子さんのかつ枝さんの、歌唱シーンを生まれて初めて拝むことができた。島田陽子さんのよい追悼となった。

 

 

『愛の哀しみ』(1976)

病魔に見舞われながら、結婚し、息子を授かり、若くして旅立って行った娘の、実話を元にした物語。無論主演。

これも薄幸の美女役である。

余計なことかもしれないが、数回前に記した”雪駄履きでのウェディングドレス”は本作であった。

何故か本作のことは、島田陽子さんの出演歴を示すWikipediaから記述が漏れている。

 

『お菓子放浪記』(1976~77)

これもWikipediaから漏れている。

主人公の孤児が感化院に入れられ、指導員に厳しくしごかれるが、唯一心を癒してくれるのは、若く美しい富永陽子先生(演:島田陽子)の弾いてくれる「お菓子と娘」というメロディーだった。

美人で"冷たそう"と言われる一方、優しく物柔らかな雰囲気があったから、スチール写真を見る限り、こういう役もよく似合ったことだろう。

「木下惠介・人間の歌シリーズ」の内の一作。同シリーズには「スカパー!」で再放送されたものもあり、本作の放映がないか、チェックは入れているのだが…。

2011年に『エクレール お菓子放浪記』というタイトルで、同じ原作が映画化された。この時の陽子先生役は、早織という若手女優であった。

 

 

『情炎・遥かなる愛』(1977)

若き女性外科医を主人公とするメロドラマ。相手役は若かりし中尾彬氏。

そのベッドシーン(ちゃんと服は着ています!)のスチール写真を、ライバルと競り合って勝ち取ったのも、今は良き思い出。

 

『おおヒバリ!』(1977~78)

学園もの。

主人公は北大路欣也氏演ずる杉山賢一で、生徒への暴力事件ゆえ、学園をやめていたが、乞われて教師に復職する。

島田陽子さんは同僚の化学教師役。「トラピスト」とあだ名されている。

理事長の甥・伊沢(演:古谷一行)と婚約していたが、男気ある杉山に魅かれていく。

 

 

『もう一人の乗客』(1978)

個人的に視聴を熱烈希望している作品。

極端なバラエティ路線に転換する前の、フジテレビ放映作。

島田陽子さんは主演だが、実は二役で、メインは旧来の清純でお淑やかな、結婚を控えた美女役だが、もう一人は麻薬中毒の荒んだ娘役。

メイクも釣り目で濃くし、髪を逆立て、別人に化けるが、自らの腕に麻薬を注射する衝撃シーンもあり、旧来の「優等生」、「いい子」のイメージを覆す熱演ぶり。

「いい子」の側の陽子さんを脅迫する悪い奴の役で、『西部警察』・谷さんでお馴染みの藤岡重慶氏が出ている。

犯人当ての懸賞があった。

ビデオ収録でテープが現存していないのでないなら、日の目を見させてもらえないだろうか。

 

 

『愛の視線』(1978)

『おおヒバリ!』同様、北大路欣也&島田陽子コンビによる作品。

本作は冒頭で島田陽子さん演ずるお嬢様が、自宅近くの家の建築現場で、見知らぬ男どもに暴行されそうになり、それを救った男性とやがて恋愛成就を遂げるという筋。

当時のTV誌に、その暴行シーンの写真が掲載され、すぐ後で触れる『広き迷路』同様、若き島田陽子さんのセクシーショットとして、一部ファンの知るところとなる。

尚、北大路欣也氏演ずる男性が、在日韓国人という設定で、物語終盤では、民族衣装に身を包む島田陽子さんの姿も認められる。

放映時期から、これもビデオ収録で、既に映像が残っていないのかもしれないが、韓国に異常に忖度する現在の放送メディアのあり方を見るにつけ、本作が日の目を見るのは、まず絶望的だと悲観せざるを得ない。

内容を推察できるのは、当時のテレビ誌の記事と、このノベライズ本のみである。

 

『結婚のとき』(1979)

平岩弓枝ドラマシリーズの一作。料亭の娘が父の店を手伝うべくシドニーへ。偶々知り合ったパイロット(演:渡瀬恒彦)とのロマンスを描いたドラマ。

これもバラエティ偏重に転ずる前のフジテレビ放映作品。

すぐ後の”国際派女優”の称号を思わせる、世界に拡がる役である。

昔はフジテレビも多数文芸ドラマを多数放映していたのにねぇ…。

どうしておちゃらけテレビに成り下がった?!

 

 

『広き迷路』(1979)

三浦綾子原作というのが意外過ぎるサスペンス作品。

デパート勤務の平凡な女性・冬美が、客として来店した男・加奈彦と婚約し、幸せを噛みしめるが、加奈彦は出世の邪魔になった冬美を殺害。

ところが冬美にそっくりな女性が現れて…という話。

そっくりさんのほうは、確か眼鏡をかけ、髪型も雰囲気も違っているが、温泉旅館であわや浴衣の胸をはだけそうな姿で加奈彦を誘惑する写真が当時のTV誌に掲載された。本格的なヌード解禁前の若かりし島田陽子さんのセクシーショットとして、一部のファンの間で有名だが、ビデオ制作らしいので、残念ながら恐らく映像は残っていないのであろう。

つくづく当時のビデオ収録が恨めしい限りである。

(当時高価だったビデオテープは、放映後、他作品収録に使いまわされ、上書きされていた。)

尚、新潮文庫の原作末尾の解説で、大学教授がこのTVドラマ化作品について触れているが、主演の島田陽子さんのことを「彼女の清純華麗なキャラクターが生かされ、多くの話題をあつめた」とある。昭和62年の文章だから、後で悪く言われ出す前のものだが、今でもこういう形容が残っているのが、ファンとしては嬉しい。

 

 

・ドラマ人間模様『ふたりの女』(1979)

何とモーパッサンの作『女の一生』を日本舞台に置き換えた作品。

こういう文芸ドラマは今やNHKでも減ってしまった。

 

 

・NHK銀河テレビ小説『陽炎の女』(1980)

確かジェームズ・M・ケインの「郵便配達は二度ベルを鳴らす」原作ではなかったか。保険金目当てに夫殺しを目論む美貌の若妻が主役のサスペンスドラマ。

初期の土曜ワイド劇場にも、こういう海外ミステリーの翻案作品が多数存在した。「火曜日の女」→「土曜日の女」から続き、フジテレビの『ライオン奥様劇場』位まではその系譜があったが、その昼1時からの帯番組が、小堺一機の『いただきます』に化けた頃から絶滅状態になってしまった。

緊張感のないぬるま湯みたいなミステリーもどきさえ、ほぼ消滅してしまった今、本格ミステリーなどお呼びじゃないのかもしれないが、そんな現在のTVドラマ事情が全く物足りない。WOWOWドラマにだけ期待。

 

 

『名もなく貧しく美しく』(1980)

耳の聞こえない女性と、目の見えない男性の結婚生活を描いた作品。

相手役は篠田三郎氏。こういう真面目なドラマもなくなって久しい。

今やNHKドラマでさえ、大半がバラエティ路線。

 

 

・土曜ワイド劇場『映画スター殺人事件 花嫁のさけび』(1981)

当時、「江戸川乱歩美女シリーズ」以外にも土曜ワイド劇場を見ていた筈なのに、視聴しなかったのが惜しまれる作品。

近年、昔の土曜ワイド劇場は「スカパー!」で再放送される機会が増えているので、本作も放映してもらえないだろうか。

島田陽子さんはヒロインで、憧れの映画スターの妻の座を射止めた平凡なOL役。やがて殺人事件に巻き込まれていく。

何故か本作もWikipediaから漏れている。

 

 

・NHK銀河テレビ小説『歳月』(1983)

日本が出口のない泥沼の戦争へ突入していく時代を描いた文芸ドラマ。

デビューしてほどない中井貴一氏が主役で、島田陽子さんは中井氏から思慕の情を向けられる、歳上の美しい女(ひと)という役どころだった。

機会が得られるならば、是が非でも見てみたい作品。

テレビドラマデータベースの紹介記事に、そう思わせる記述があるので、以下引用させていただく。(→『歳月』

 

戦前から戦後にかけて、千葉県の醤油の町を舞台にしたしっとりとした文学ドラマ。美しかったメロディー、そして、島田陽子さんの美しさと出征してゆく中井貴一さんの軍服姿のりりしさ…。妹に慕われながらも、美しいその年上の姉に惹かれてゆく青年を中井さんが好演していましたね。…(中略)…最近のドラマにはない、文学のかほりのするステキなドラマでした。もう1度、見たい。」

 

…放映時期は、悪女役だった『赤い足音』と入れ替わるように、1983年11~12月。

嘗て島田陽子さんには、悪女役と、憧れの美しき歳上女性役とを、ほぼ同時に演じ分けた時期もあった。

先の戦争を描き出すには、こうした楚々とした欲のない、薄幸の女性を演じられる女優が絶対に欠かせないと思っている。

痩せているとか、すらりとしているとか、ましてや事務所が売り出したいとか…そんな基準だけでは、到底成し得ない、文学的香気漂う世界の佳人。…追憶の島田陽子さんには、確かにそんな雰囲気があった。

もう、時代が変わってしまっただけなのかもしれないけれど…。

 

女優としての演技の力で、当時あった"梶原一騎事件"の下世話に湧く一部大衆を黙らせたのだと思っている。

 

 

(かなり時代は下って…)

 

 

花の生涯 井伊大老と桜田門』(1988)

正月12時間ドラマ。舟橋聖一原作。井伊直弼(演:北大路欣也)を主人公とした歴史もの。

島田陽子さんの役は村山たかという実在の女性。安政の大獄の時、反幕府勢力の動向を伝える女スパイだったという。井伊直弼と情交を結んでもいたらしいが、本作では、それほど明瞭に示されているわけではない。

仕える主君の命を受けて、或いは自身の目で、「これ」と見込んだ主人公を、独自の動きでサポートする美女という、ヒロイン役であった。

 

 

・​​​『氷点 第一部/第二部』(1989)

テレビ朝日開局30周年記念作品。島田陽子さんは、20年の時を経て、ヒロイン陽子の生母・三井恵子役で出演とされるが、資料があまりに乏しく、当初予定されただけで降板したのか、実際の出演に至ったのか不明。

スチール写真は存在している。

 

 

『悪霊島』(1991)

片岡鶴太郎が金田一耕助役を務めた「横溝正史シリーズ」第二弾。

島田陽子さんは妖艶美女・巴役。

「鵺(ぬえ)の鳴く夜は気をつけろ」

謎の言葉が真相を解く鍵。

クライマックスシーン。洞穴での巴様の告白は恐ろしい。

 

1980年代前半頃は、片岡鶴太郎といえば、深夜番組でエッチなことばかり言うタレントのイメージがあったが、ボクシングのプロテストを受け、それ迄の小太り体形から減量。又、棟方志功役を機に水墨画、陶芸に目覚め、急速にイメージチェンジを遂げていく。

本作は、丁度その時期。今に通ずる鋭い目線の演技は、決して"お笑い芸人の余興"などとは言えない。

 

 

西村京太郎サスペンス『上野駅殺人事件』(1993)

上野駅で青酸カリによる無差別連続殺人事件が発生。犯人は8千万円を要求してくるが…。さあどうする、十津川警部?!というもの。

十津川警部役には渡瀬恒彦氏。

当時の紹介記事には、「島田陽子がソープ嬢に挑戦」と煽情的な惹き文句が書き立てられていたが、別に”行為”に及ぶ場面があるわけではない。

風俗嬢だが素直で意外と純真な性格のゆき役。

ゆきは十津川警部の捜査に協力するようになり、最後、犯人逮捕の後、故郷の青森へと寝台特急・北斗星で旅立ってゆく。

十津川との友情を信じていたのに、見送りに来てくれないとしょげるゆきだったが、発車間際に十津川が走り寄ってきて、餞別に口紅をプレゼントする。

ホームを出た「北斗星」の車内で、満足気に口紅を取り出し、眺めるゆきの横顔が美しかった。

サスペンスとしては面白味を感じなかったが、「ソープ嬢に挑戦」という煽りの割には、島田陽子ファンとしては満足できた作品。

西村京太郎のDVDマガジンで、奇跡のDVD化。

但し、「スカパー!」のTBSチャンネルでは、何度も放映されている。

 

 

・映画『リング・リング・リング 涙のチャンピオンベルト』(1993)

女子プロレスもの。引退した長与千種の映画デビュー作で役名もそのまま千種。

幼い頃、女子プロレスのスターだったデビル奈緒美(演:島田陽子)に声を掛けられたことが忘れられない主婦・千種は、プロレスの才能を見出され、上京し、プロレスラーを目指す。

一方、落ち目になっていたデビル奈緒美は、プロモーターから、売り出し中のレスラーにチャンピオンベルトを譲り渡せと強要されるも、デビルはそれを拒否。それを理由に大怪我を負わされる。

色々あった末、千種とデビルのタイトルマッチの日が訪れ、壮絶な試合の末、千種が新チャンピオンに輝くという筋。

原作、脚本がつかこうへいだとはいえ、島田陽子さん、何故、こんな作品に出た?

スチール写真を見ると、ビール瓶で頭を殴られ流血しているし、男のレスラーにレイプされそうになって、胸も露わだし、クライマックスのプロレスシーンでは、本物の元プロ相手の演技で髪も掴まれ、もみくちゃにされているし…。

時期的に内田裕也と別れた後で、やはり自棄になって自分を痛めつける役に進んで志願したということなのか知らん?

こういう方面が一番苦手じゃなかったのでしたっけ?

 

 

刑事野呂盆六2 殺意のマリア』(1994)

今を時めくマルチ評論家・景高水音役で出演。主人公・野呂盆六刑事(演:橋爪功)を得意の話術で煙に巻く。大げさでハイテンションな自意識過剰気味の演技が、ユーモラスな印象であった。

石立鉄男氏が悪徳政治家役で出演。

 

 

裸の大将(78) 清の手品はめぐりあい-福島』(1996)

メリヤス工場に勤める絹子役。

息子と2人暮らしで、息子には父親が亡くなったと話しているが、どうやら何か訳があるようで…。

山下清(演:芦谷雁之助)は、街に巡業に来ていたマジシャン・魔龍(演:Mr.マリック)に弟子入りを許され、絹子の働くメリヤス工場の社長・大橋(演:宝田明)にも気に入られる。

やがて大橋は、魔龍こそ、絹子の夫だと確信し、清の協力も仰いで、絹子たち3人を再会させようと動く。

激しいバッシング騒ぎのさなかでの放映だが、その時期にあって、真面目に堅実に働く健気な母親役。

こういう役もあったことを、有難いと思う。

そういえば、Mr.マリック、消えちゃいましたね…。

 

 

・松本清張ドラマスペシャル『黒の回廊』(2004)

島田陽子さんは、人気旅行ジャーナリスト・江木奈岐子役。

奈岐子が添乗ガイドとして同行する、南仏~スペイン・グラナダを巡る豪華ツアーが企画されるが、奈岐子がドタキャン。

最終的に奈岐子の秘書・悦子(演:賀来千香子)がガイドを務め、奈岐子は最終日のグラナダで合流することで、折り合いがつく。

乗客たちは、皆、金持ちマダムだが、やがて殺人事件が起こり…という筋。

松本清張原作らしく、戦争の生々しい傷跡が大きな因縁となって現れる。

 

 

・土曜ワイド劇場『法律事務所2』(2008)

島田陽子さんは特別出演。

主人公の弁護士・礼門(演:水谷豊)は、愛人殺害容疑で拘留中の男の弁護を引き受けるが、何か引っかかるものが…。

法廷では辣腕で鳴らす検事・波多野都(演:島田陽子)と対決しなければならない…という筋。

真相解明の過程で、特殊な性的志向が鍵となる。

礼門と波多野都が、法廷では相対する立場の者として、激しい応酬を繰り広げるが、何度も顔を合わせる好敵手らしい様子を見せる。

『裸の大将』のような例外は一部あったが、島田陽子さんの役柄は、仕事に生きる年かさのキャリアウーマンくらいしかなくなっていき、限られていった印象を受ける。

 

 

『美人探偵M』(2011~2012)

島田陽子さん最後のTVドラマ出演作品。

東京MXテレビの、深夜ドラマだったと思う。

話自体は軽い、大したことのない探偵ものというよりはコメディドラマで、セクシータレントがせいぜいの見どころか。

島田陽子さんは後半に出てくる政治家夫人役で、どこか浮世離れしたちょっとヘンな雰囲気のマダム役だった。

何故か奇跡のDVDソフト発売も、収録話数が飛んでいる変則編成。

そこにはどういう意図があるのか。

 

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以上のように、島田陽子さんの出演歴を振り返ってみると、映画よりは寧ろTVドラマのほうが活躍の場が多かった。

 

事務所の意向で「清純派」で「いい子」で薄幸の美女役が、ある時期まではステレオタイプのように繰り返し、この方の演ずる役に回ってきた。

 

我が国の歴史を振り返ってみると、うなぎ上りの高度成長期は、大阪万博後のオイルショックを機に陰りを見せ始めたものの、まだまだ都会と地方の格差は今より激しく、女性の扱いも悪かった。

そんな中で明るく健気に振舞う、ブラウン管の中の島田陽子さんの姿は、多くの女性の共感を得、又多くの男性は、確かに女性の理想像の一つを見出していたのだと思う。

 

映画産業が斜陽を迎え、”テレビ映画”と言われたテレビドラマ作品に、最初から主な活躍の場を得たのは、時代の流れの中で自然なことであった。

ただ、こうして後の時代に、ファンとして振り返ろうとした時、ビデオ収録という新技術への過渡期でもあり、上でも触れたように、高価なビデオテープの使い回しにより、恐らく多くの作品が現存しないと思われるのは、非常に残念なことである。

(昔はTVドラマやアニメ、特撮作品等が、ライブラリーとして捉えられてはおらず、専ら消耗品として一度放映されればそれきりであった。前に当blogの別の場所で触れたが、過去の連続ものを箱にしてセットで売るという、今日当たり前になっているビジネスモデルは、我が国では”『うる星やつら』LD50”の成功が始祖をなすものであった。)

 

 

後年、映画への強いこだわりを見せられていたようだが、全盛期の活躍の場は、寧ろTVドラマのほうにあった。私はそう思っている。

 

そのTVドラマは、どんどん衰退し、男も女も本来はアイドル歌手グループの一員だろ、と言うべき、人気だけはある連中ばかりが登用され、何を見ても金太郎飴みたいに同じに見える。

NHKドラマだけが、長らく唯一その傾向から距離を置いていたように思えたが、近年ではそうとも思えなくなってきた上、前に記した通り、島田陽子さんについて言えば、あの「大河ドラマドタキャン事件」の影響なのか、NHKドラマとの縁は切れた。

そんな状況下にあっては、映画に活路を見出すのも自明だとは思えるが、後になればなるほど、ご本人の言葉とは裏腹に、オファーされる役が限られていった印象が強い。

 

いずれにせよ、出演作品の歴史においても、生き方、考え方においても、『将軍 SHOGUN』が良きにつけ悪しきにつけ、この方の最大の転機となったことは間違いない。

 

 

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以上、7回に亘り記してきたが、あまりに長い文章になってしまったので、今どきの需要に迎合し、最後に要約を記しておく。

 

・個人的に島田陽子さんの顔と名前が一致したのは『将軍 SHOGUN』による。

・『犬神家の一族』、『白い巨塔』の再放送も手伝い、好きな女優として意識。この3作によりイメージを形成する。

・"スキャンダル"、"ヘアヌード"、"バッシング"はリアルタイムでは意図的に避け、旧来のイメージの維持に努める。

・1990年代に偶々視聴機会を得た『黒蜥蜴』、『丘の上の向日葵』により、再評価。

・年齢を重ねる中のヌード乱発にいい気はしないが、旧作視聴を機に、「毀誉褒貶」全てを受け入れる心境になり、過去の雑誌記事等に当たるようになる。

・"スキャンダル"に関しては、梶原一騎は捏造、内田裕也はギャップ萌えから、自分が随いて何とか相手の暴走を止めねば…との思いが、いつしか相手に引きずられ、感化を受けたとの見解。

・"金銭トラブル"については判断できないが、悪いイメージを招いたことは事実とは考える。

・ネガティヴな世評よりも、これまでの好印象が強く、ファンを続けてこられた。

 

ざっとこんなところである。

"時間がなく"、"ファースト視聴"がお好みなら、この段だけ読んでいただければ最低限の概要は把握できる。

無論、そんなことは望んではいない。

 

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最後に映画『島田陽子に逢いたい』(2010)について、もう一度触れておきたい。

7日間、レイトショーでしか公開されなかったこの映画。

何度目かの時、私のすぐ前の列に、年配のスーツ姿の紳士と、その家族一行といった雰囲気の6~7人連れのグループが座っていた日があった。

男性1人客というのが大半だったから、関係者か何かかなと思っていた。

上映開始直前、斜め右側の通路に、女性が一人スッと現われ、前列のグループの一番偉いと思しき紳士に声を掛けた。

何だかこの場にそぐわない、すらりとした綺麗なおばさんだな。

そう思っていたが、声を聞いた時、一瞬心臓が飛び出すような思いがした。

それは幾度となく耳にしてきた島田陽子さんの声、喋り方であった。

「わっ…!本人!」

そのまま観ていくのかと思ったら、紳士に「本日はお越し下さいまして…」とお礼の言葉を掛けると、またスッと立ち去ってしまった。

恐らく一般の客で、その紳士の真後ろに居た私しか、ご本人がお忍びで来ていたことには気づいていなかったと思う。

 

『島田陽子に逢いたい』は、東映が実は制作に一役買っていたと何かで読んだことがある。

私の前列の紳士は、もしかしたら、東映の社長になられて久しかった岡田裕介氏だったのではないか。勝手にそう思っている。

 

遂に私は島田陽子さんと直接お会いする機会がないままに終わった。

幾ら年老いても、悪しざまに言われようとも、澄んだ綺麗な声と、あの独特の上品で控えめな話し方は若い頃からずっと変わらなかった。

 

人間、姿形はお金を掛ければ変えられもしようが、声だけはそうそうには変えることはできない。

 

あれほど悪しざまにマスコミから言われようと、往年の美しく上品なイメージのほうが尚まさったから、私自身はずっとファンを続けて来られたのだと思う。

しかし、容姿や見た目だけではなく、思えば終始変わることのなかったこの人の、声と話し方に魅せられていたのかもしれない。

 

あの時、たとえ直接ではなかったにせよ、確かに私は「島田陽子さんに逢」っていた。子供の頃からの憧れだった女性と、束の間の邂逅を果たし得た。そう思うことにした。

 

以前から度々こう仰っていた。

「カバン一つで世界中どこへでも出向いていく。声が掛かればどんな役でも、ワンシーンでも出たい」

天国で存分に鞄一つで世界を駆け回ってほしいと願う。

 

果たし得なかった映画への心残りはあったと思いますが、ここに謹んでご冥福をお祈りいたします。

(完)

 

以上、一部除き敬称略