子どもの頃、ケンタッキーを食べる日は少し特別だった。

今みたいに「お腹が空いたから買って帰ろう」というものではなかった気がする。
誕生日・クリスマス・親戚が集まる日。
何か理由がある時にだけ食卓へ並ぶ。

だからケンタッキーの箱を見るだけで少し嬉しかった。あの赤いパッケージを見ると、「今日はいい日なんだな」と思った記憶がある。

不思議なもので、味より先にその時の空気を覚えている。
テーブルの上に並んだチキン。
家族の会話。
テレビの音。
そういうものが全部セットになっている。

大人になると、その特別感は少しずつ薄れていく。
お金を払えばいつでも食べられるし、店舗もたくさんある。食べようと思えば今日だって食べられる。
むしろ昔よりずっと身近な存在になった。

それなのに、なぜか時々あの頃を思い出す。先日も仕事帰りにケンタッキーへ寄った。特に理由はない。
夕飯をどうしようか考えていた時、たまたま店が目に入っただけだ。
注文して商品を受け取る。席へ座り、一人で食べる。子どもの頃には想像もしなかった光景だと思う。

でも悪くない。むしろ結構好きだ。
昔みたいなイベント感はない。

その代わり、自分の好きなタイミングで好きなものを食べられる。
それはそれで大人の特権なのかもしれない。

一口食べる。やっぱり美味しい。
もちろん昔より舌は変わっている。
食べる機会も増えた。それでも、どこか懐かしい気持ちになる。
食べ物には記憶を引っ張り出す力があるらしい。

ケンタッキーもその一つなのだと思う。
食べながら店内を見渡す。
家族連れもいる。
学生同士で来ているグループもいる。
一人のお客さんもいる。
それぞれ違う時間を過ごしているのに、なんとなく楽しそうに見える。

もしかすると今の子どもたちにとっても、ケンタッキーは特別な日の食べ物なのかもしれない。そう考えると少し面白い。

帰り際、期間限定商品のポスターが目に入った。昔はオリジナルチキンしか見ていなかったけれど、今は随分メニューが増えているらしい。

次は何を食べようかなと思いながら、ケンタッキーメニューを少し眺めてみた。
もっとも、どれだけ新商品が増えても、結局オリジナルチキンを選んでしまう気がする。

子どもの頃から好きなものは、案外変わらない。