徳島地判昭和57年6月21日判時1065170頁は婚約に関する裁判例である。以下事実と判旨を紹介するが、婚約成立に影響すると思われる事実認定については番号を付す(各番号がどのような事実認定に関するものかについては婚約成立に関する判例・裁判例を参照せよ)。
 
【事実】
原告X女は1978年(昭和53年)に大学を卒業して社会福祉法人に勤務していた。Y1男は1976年(昭和51年)に大学を卒業して株式会社に勤務し(①②)、実母であるY2と二人暮らしであつた。
1980年(昭和55年)1月13日、仲人によって互いに紹介され、数回交際の後、双方とも縁談に乗り気となって、同年2月3日、親兄弟列席のうえ正式の見合いをなし、同月20日には結納をかわして婚約した(⑨)。
その後同棲、性的交渉の関係はなかったものの、互いに交際を重ねて将来の生活設計や新婚旅行の行先、日程等を語り合い同年5月5日に結婚式を行うことを約束するとともに(⑥)、その間同YにおいてはXに対したびたびY方の食事の用意や掃除をするように求めたり、自己の親族、知人に対しXを結婚の相手として紹介したり(⑩)、同年4月19日にはXの嫁入道具としてY1の勉強机が欲しいとの希望を呈して翌日にXとともに家具屋に至ってこれを購入せしめ、同年27日にはY2とともにXに対しXの嫁入道具の内容明細を問うて説明を受けたが、ズボンプレッサーがこれに入っていないから買って持参するように指示し、テレビと自動車はXが予定していたそれぞれ小型テレビと普通乗用自動車ではなく26インチの大型テレビと軽自動車とを持参するように指示したので、Xにおいてはこれをいずれも買い求めて準備した。他方Xにおいてはその間に前掲諸物品を含む嫁入道具やその他衣類、身の廻り品を買いととのえ、Y1とともに結婚写真の前写しをなし、同年3月31日には前記勤務先を退職し、貸衣裳の選定、新婚旅行のためのパスポートの申請をなし、披露宴の順序、列席者への招待状の発送、席順の決定並びに嫁入道具を嫁家に運び込む道具入れの日の決定などをY1らと打ち合わせ、右道具入れの日として同年4月29日が約束され、右招待状もすでに発送されていた(⑦)。
しかし同月28日朝、Yらは仲人Aを通じ、何の理由も告げずに、電話一本で、本件婚約を破棄する旨の意思表示をなし、以来右の婚姻をなさなかった。
そこでXはY1およびY2に対して婚約破棄によって生じた損害について損害賠償請求をした。
 
【判旨】
単に将来において夫婦たらんとする合意が存するのみならず、その合意が婚約成立に基づく慣行上の儀式のほか親戚、知人への紹介、結婚披露宴への招待状の発送などという一種の身分の公示行為をすら伴って、各当事者に実質的、形式的な婚姻意思の成立したことを客観的に認めしめるに十分なものがある場合には、同棲、性的交渉その他事実婚類似の関係が何も存しなかったとしても、その不履行(破棄)自体が、通常、相手方によって取得した生活上の利益に対する故意による不法行為を構成すると解するのが相当である。
以上のように判示し、Y1Y2が連帯してXに7795456円とこれに対する1980年(昭和55年)7月12日以降完済まで年5分の割合による損害賠償金の支払を命じた。
 
 本件では①成年か。②社会人か。⑥将来の共同生活に対する現実的に実現可能性がある計画性があるか。⑦原告の将来の共同生活を前提した経済的出捐。⑨儀式的行為の存在。⑩親族等への公示といった事実認定がなされており、かつ判決理由においては少なくとも⑦⑨⑩の要素が判決に影響を与えていることは明らかである。また⑨に伴って実質的婚姻意思が成立していると事実認定しているところから、①②⑥も判断に影響を与えていると理解してよいだろう。
 
H:114, P:1, E: 202, G: 193, D:153