……おや? 何やらポストに投函が……。

 

………………。

そこ代わってください、お願いします。


という訳で、アカツキ先生とやってきたSolitarioも終了しました!
次回もご期待くださいませ(*´∇`*)
 「あの子、使えそうね」

 ゼフィーナが男から逃げている最中、イブリースは少女の残していったぬいぐるみを抱えて薄く笑っていた。
 彼女にとって人を助けるのに、無計画などはあり得ない。助けるには、その労力にあった代価を、後に相手が払える相手かどうかを見極めなければ。
 そして、クマのぬいぐるみを置いていった少女には、どうやらそれだけの能力があるようだった。

「エキドナ」
「はい、ママ」

 

 イブリースがそう呼ぶと、ふっと後ろに紫色の長髪を揺らして、大人びた雰囲気の美少女が姿を現した。
「彼女……どういった子?」
 イブリースがエキドナと呼んだ少女は、軽くうなずくと、少し低めの声音で説明を始めた。
「この近辺で有名だった暗殺者、シベリス夫妻のご息女で、名前はゼフィーナ。両親とは違い、頭脳派タイプのようです」
「ふふふっ……ちょうど、欲しかったタイプの子じゃない。私の目に狂いはなかったようね」

 イブリースはそのままふわりと屋根から飛び降りると、その瞳をゼフィーナが逃げる方角へと真っ直ぐに向けた。
 その瞳の奥には、深くて暗い、どこまでも続く闇が渦巻いている。
「あの子の能力、才能はおそらくは別にある……ふふふ、大いに利用させてもらうわよ」

 私は、あの日から、この世界に復讐を誓った。
 私をこの世界に、この闇に押し込めた全てを、どうしても赦せなかったからだ。
 両親の事など、とうの昔に忘れてしまった。顔も、もう思い出せない。どうせもうこの世にいないとほくそ笑む。
 ただ唯一覚えているのは、弟の事。まだ小さかったあの弟は、今は一体どうしているのだろうか。
 それでも、この後に出てくる思考に、いつも私は薄笑いを浮かべてしまう。私もここまで闇に落ちてしまったのだと、自嘲したくなるのだ。

「私が不幸で、向こうが幸せなんて、私は絶対に許さない。闇に落ちるなら、どこまでも深く落ちればいいのよ」
「……ママ?」

 その思いを、今はゼフィーナに重ねた。今はそう……これでいい。

「エキドナ」
「はい」
「いずれ貴女には、彼の事を調べてもらうわ」
「彼……?」
「ええ、私の生き別れの弟」
「弟……」
「ふふふ……まぁ」

 イブリースはそう言って不敵に笑った。それはいつもの、企みを含んだ笑み。
 全てを闇に沈めんと燃える、魔女の笑いだ。

「ゼフィーナが使えるようになったらの話だけど、ね」

 ぬいぐるみは、その笑みも言葉も知らぬまま、ただ雨の降りしきる路地を見つめ続けていた。

「Solitario」END
 牽制の発砲を繰り返して、私は必死に逃げていた。が、格闘センスに限って言えば相手の男との実力差は歴然。
 何度も接触しては必至の抵抗で距離を取って、また接触されて……そんなやり取りを繰り返していたが、どう考えても相手の男は私で遊んでいる。
 でも、それは相手が本気を出したら、私はひとたまりもないと言う事実でもあって。
「しゃっ!!」
「……はっ……!」
 飛んできたナイフを避けたものの、避けた方向の背後に殺気を感じて、慌ててしゃがんだ。頭上をナイフが3本飛んでいく。
「へぇ……」
「……っ!」
 そうして再び走り出したものの、そろそろ本気にならないといけなかったのか、走る軌道、避け方まで把握したようなナイフの嵐が襲ってきた。
 私は必死に避けたり、銃で叩き落としたりと抵抗するも、遂に体制を崩して、屋根から転がり落ち、バシャッと冷たい路地に倒れた。
 雨でぬれた路地の道。そのコンクリートは私の体温をあっという間に奪っていく。
「くっ……」
 起き上がろうとして、右肩にピシッと痛みが走るのを感じた。それでも何とか上半身だけ起こした所で、目の前に男の足が見えた。
「まだ逃げるの?」
「……はぁ、はぁ……」
「痛いんだ。かわいそうに。……でも、すぐに楽にしてあげるよ」
 視界に入る男の楽しそうな顔。悔しさと恐怖で、私の瞳からは涙が溢れていた。
 死にたくない。まだ、私は死にたくなんかない。死ぬわけにはいかない。
 男が手にした銃口が、私のこめかみに向けられる。見下す眼光は、ギラギラと冷たく濁っていた。

「ばいばーい」

 男の言葉にぐっと瞼と閉じた。来るだろう痛みに耐えるように。
 でも、心の中では「こんな所で死にたくない」と叫び続けていた。

 誰でもいい……誰か、誰か……私を助けて……っ!!

 バンッ!!

 響いた音に、私はすぐに違和感を覚えた。私に届くはずの痛みはなく、代わりに届いたのは顔に液体のようなものが飛び散った感覚。それは雨じゃない……もっと温かくて、どろりとしているもの……。
 次いでドサリと倒れるような音も耳に届き、ゆっくりと瞳を開けると、さっきまで私を追い詰めていた男が、目の前で死んでいた。
「…………」
「平気?」

 

その男の姿から視線が離せないでいると、路地の先から声がした。落ち着いた声音の、女性の声。
 銅像のように動けないままの私。何故だか、怖くて顔をあげる事が出来なかった。
「はい」
「……あ」
 そうしていると、女性の声と共に私の視界いっぱいにクマのぬいぐるみ……ティセラが強引に映り込んだ。
「大事なものなんじゃないの?」
「……」
 私は『大切』という言葉に動かされるように、そっと手を伸ばしティセラを受け取った。そしてティセラをそっと抱き締めて、見上げる。
「貴女、これからどうするつもり?」
「……」
 声が出なかった。
 20代前半と思われる、女性の微笑んだ顔が、私の瞳に映っている。
 その何処か優しくて、でも凛として芯の強そうな眼差しは、憧れの存在だった母に、とてもよく似ていた。
「言葉も出ない?」
「わた、しは……」
「貴女、シベリス夫妻の子供でしょう?」
「……」
「そんな警戒しなくても良いわ。私は貴女を助けたいだけよ。……でも、そうなら、もうこの街からは離れた方が良いでしょうね」
「……分かってます。私は……逃げ続けなきゃ」
「……嫌?」
「それは……」
「ふふふ、だったら……『こっち』の世界にいらっしゃい。私の元に」
「…………こっちの、せかい……?」

 これが、私の恩人であるママ。
 バタフライの創設者であり『地獄の魔女』と呼ばれる脅威の殺し屋、イブリースとの出会いだった。