書籍紹介:『お位牌はどこから来たのか――日本仏教儀礼の解明』 | 奈良の石屋〜池渕石材のブログ

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本日は書籍紹介をいたします。

今回取り上げるのはこちら、

多田孝正『お位牌はどこから来たのか――日本仏教儀礼の解明』興山舎、2008年

 

 

 

 

本書は仏教に関係するさまざまな儀礼について、比較的自由なコラム的な雰囲気で解説された本です。

タイトルでは位牌が前面に押し出されていますが、それだけにとどまらず、そもそも供養とは何なのか、戒名(法名)にはどんな意味があるのか、焼香や数珠は何のために必要か、といったことが専門家の立場から説かれています。

 

コラム的と言いましたが、実際、本書の元になったのは『寺門興隆』という僧侶向けの月刊誌に連載されていたコラムだそうで、そのため読みやすく一般の興味も引くような本になっていると感じます。

コラム記事ですので、扱われているすべてのテーマについて体系的に解説されているわけではなく、エピソード集的なところもありますが、筆者は仏教の教理教学を専門的に修めた方ですので、エピソード的な部分にしても読み応えがあります。

 

仏教はインドで生まれ、中国に導入された後、朝鮮半島を経由して日本に伝わったものですが、今の日本で慣習化している儀礼がそういった東漸の過程でどのように変遷してきたか、という視点で語られるところが多いのも、起源と現状を対比的に知るという点で興味深いです。

我々石屋の仕事からしても、もちろん神道やキリスト教の方のお墓もあれば、昨今では無宗教とおっしゃる方も増えていますが、やはり仏教ベースでお墓を建てられるお客様が大多数でして、仏教のいろいろな側面を学ぶことができるのは、自分たちの仕事をより深く知るという意味でもためになります。

お坊さんが着用する袈裟について語られたところなんかも、非常に面白かったです。

 

「釈尊が弟子らに纏うのを許した物は、墓場に捨てられた布、ごみ捨て場に捨てられた塵芥のぼろ布であった。前者が塚間衣(ちょうかんえ)、後者が糞掃衣(ふんぞうえ)と呼ばれるが、時に混同され、仏教の出家者が着用する布、衣を総称して糞掃衣と呼んだ。

 古い時代、布は貴重品であった。遺体を布で包むのは、死者の尊厳を損なわぬための異常な事態から用いられたことだった。だから布をごみとして捨てるというのも、何かその布に不吉なこと、不浄なことが起こったため、やむを得ず捨てざるを得ない状態に陥った、と考えられる。一般の社会では絶対に用いることのない布で作られたのが、糞掃衣なのである。本来は、便所掃除や穢所で用いられるから糞掃衣と呼ぶわけではない。

 多分、この衣は現在のサリーのような形状で縦一メートル、横三~四メートルくらいのもので、墓場やごみ捨て場から集めた小さな布をつなぎ合わせたものであったと思われる。これを袈裟(kaṣāya)と呼ぶのであり、壊食(えじき)、不正色(ふしょうじき)と訳される。一般社会では、染色された五色などの明確な色を持った布が用いられる。これに対し、その埒外の色、つまり、かつて色であったものが、遺体を包み、塵芥として長い間風雨にさらされ、異常な状態の中で世間に通用することのない色となったものを意味している。袈裟という形があるのではない。袈裟という色があるのである。俗世間と隔絶された異常な状態から作り出されたこのような袈裟は、きわめて神秘的な力を持つものと人々から畏敬された」

(154-155頁)

 

また、焼香についての話なども、インドがいかに香りに重きを置いている文化か、ということについての挿話から比較文化論的な議論に移り、仏教が東アジアに定着する上でどのような文化的適応があったことか、といった面にも思いを馳せます。

仏教という世界宗教の奥の深さを思い知るような読書でして、とても勉強になりました。