チャップリンに通じる 岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ』 | 茶々吉24時 ー着物と歌劇とわんにゃんとー

 

  みのおエフエム 「図書館だより」

 

私がパーソナリティを担当している

大阪府箕面市のコミュニティFM みのおエフエムの「デイライトタッキー」。

その中の”図書館だより”は箕面市立図書館の司書さんが選んだ本をご紹介するコーナー。

私は司書さんのコメントの代読をし、そのあと自分の感想も付け加えます。

 

本日(2024月4月3日)放送の番組では、岡本雄矢さんの『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』をご紹介しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

  岡本雄矢さん『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

 

著者 岡本雄矢さんは1984年北海道生まれの芸人さん。

吉本興業所属でコンビ「スキンヘッドカメラ」で活躍中なのだと、著者紹介文に書いてあります。

 

ごめんなさい。私は「スキンヘッドカメラ」と聞いても、どなたのことかわかりませんでした。夫に聞いてみても「知らない」と言います。

すぐに検索してみました。お顔を拝見した夫は「ああ、知ってるわ!」と。

ごめんなさい、だけどやっぱり私には見覚えがありません。

それは私がテレビをほとんど見ないせいかもしれません。

 

冒頭からめちゃくちゃ失礼なことを書きました。

でもそれはこの本を紹介するにあたって、前振りとしてわざと書かせてもらったことです。

(岡本雄矢さん、本当にごめんなさい)

「ダウンタウン」の浜ちゃんだったり、「サンドイッチマン」の伊達さんであれば、

老若男女ほとんどの人が「知っている」というでしょう。

そうではない岡本さんは、そろそろ「若手芸人」の枠からも外れていらっしゃいます。

誰の人生にもトホホと思う場面、悲しいなぁ、辛いなぁと思う場面はあると思います。

だけど、そろそろ中堅になった芸人さんだと、もっと多くのトホホがあるだろうことは想像に難くないのではありませんか?

 

一生懸命考えたネタが受けない。舞台に立つためのノルマで負担したチケットがさばけなくて「お金を払って舞台に立っているってどうなの?」と思う自分がいる。切ないです。

若い頃は「芸人です」というと周囲から「夢があっていい」とか、「かっこいい」「応援しているよ」と言ってもらえたのに、いつの頃からか「いつまで夢を見ているの」「そろそろ堅実な仕事に就いたらどうだ」と言われるようになったりします。自分の生き方を否定されるって辛いです。

 

岡本さんはあるとき、短歌を作りました。

日々直面するトホホな場面、センチメンタルな出来事を短歌にしてみたら、周囲の人がクスッと笑ってくれたのですって。それが高じて、詠むとなんでも”不幸短歌”になるという特徴を持つ「日本にただ一人の歌人芸人」となったのでした。

 

私の世代は、短歌と聞くと俵万智さんを思い浮かべます。

短歌って季語がいらないんだ!と実感し、こんな日常を詠んでいいんだと目から鱗が落ちたのは俵万智さんの『サラダ記念日』のおかげです。

その俵万智さんが岡本雄矢さんの初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』に熱い推薦文を寄せたそうです。俵万智さんのお墨付きをいただいていらしゃるんですね。すごい。

 

さて『センチメンタルに効くクスリ』では、いくつかのトホホな場面ごとに作品を分類して紹介しています。

 

はじめに

恋と青春のトホホ

芸人という名のトホホ

すぐそこにあるトホホ

家族だからトホホ

人生のトホホ

(岡本雄矢さん『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

もくじより引用)

 

印象的だった作品をご紹介しましょう。

「恋と青春のトホホ」からは対照的な2首をピックアップします。

 

ほら見て!と空を指差す爪のなか今年最初の花火が上がる

彼女と見に行った花火大会。

花火を指差す彼女の指先、ネイルがとても華やかで、それこそが花火に見えた、というもの。

いやー、綺麗ですねぇ。

そして二人の仲がまだ熟していない感じなのが伝わってくるのも良い。

 

しかし、次の作品は物騒です。

ちょっとだけ待ってて殺してくるからと受話器の向こうミリグラムの死

これも彼女との一コマ。

電話している時に彼女が口にした「ちょっとだけ待ってて殺してくるから」の前には

「あ、虫がいる」という言葉があったそうです。

夏なのでしょうか、開けていた窓から虫が入ってきた、いやーん、というシチュエーションで彼女はさらっと「殺してくるから」と言っちゃうわけです。

きっと岡本さん自身、蚊が腕に止まったらパチンと叩き潰しちゃうのでしょうが、かといって、電話越しに彼女から「ちょっと待ってて(虫を)殺してくる」と言われると、微妙な気持ちになったんですって。彼女からそういうことを聞きたくないなって。

 

この2首が同じ彼女との出来事なのか、その辺りは書かれていませんでしたが、ふとした瞬間が鮮やかに切り取られています。

やはり言葉を操る芸人さんだからこそ、適切な言葉を五七五七七に整えることができるのでしょうね。

 

紹介した2首は比較的軽い内容ですが、仕事や人生に関するトホホにはズーンと重いものもあります。だけど、「トホホは短歌で成仏させるの」というサブタイトルの通り、悲しいとか情けないといったネガティブな感情を客観視して表現することで気持ちがスッと楽になるのがわかる気がしました。それは見ている側、読んでいる側にも感じられることです。

 

喜劇王チャップリンの言葉「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇だ」に通じるものを感じました。

 

この本の中には、本当に色々なトホホが収められています。表紙の「コアラのマーチ」に関する一首もお見逃しなく。

 

最後に、岡本さんの作品の中で最も共感できた一首をご紹介します。

「人生のトホホ」で紹介されているもの。

 

なんのため生まれなにをして生きるのか唐突な問いで始まるマーチ

『アンパンマンのマーチ』の歌詞の話です。

明るい曲調に惑わされがちですが、『アンパンマンのマーチ』は哲学的。

私は初めてこの歌詞をじっくりと聞いた時「こんな難しいことを子どもに言ってわかるの?」と思ったものです。でも「子ども騙し」に子どもは騙されません。

大人が「子どもだったらこんなもので喜ぶだろう」と安易に考え、手を抜いた作品に良いものはないのです。アンパンマンの生みの親であり、この歌を作詞した やなせたかしさん、さすがです。

 

なんのために生まれてきて、どう生きていけば良いのか、そんなの大人の僕にもわからないよ、と考え込む岡本さんに激しく同感。私もこの歌詞を聞くと今でもそう思います。

 

こんなふうに、同感できる作品も、他人事としてケラケラ笑える作品も、色々あって面白い。読み終わるとなんだか元気になれました。

人の作品でもこれほど効くのだから、私も今度ネガティブな感情が芽生えたら短歌に変換してみようかな。

 

 

 

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