村山由佳『星屑』

村山由佳さんの『星屑』、表紙がとても綺麗です。

キラキラ煌めく無数の光、銀河にも見えるけれど、よくよく見たら、煌めきの正体はライブ会場(おそらく武道館)でファンがかざしているペンライトだったのでした。

『星屑』は昭和50年代の芸能界を舞台にした小説です。

 

 

 

大手プロダクション勤務の樋口桐絵は30代、独身女性だ。

短大卒業と同時に入社して10年以上経つが、いまだにマネージャーというより、雑用係に甘んじている。仕事ができないわけではない。もし新人歌手のプロデュースを任せてもらえるなら、立派にやり遂げる自信はある。だが、女性であること、四年生大学卒業ではないことなどが出世の妨げになっているのだ。

先輩男性社員のお供のような形で出かけて行った自社のタレントスカウトイベント地方大会で、桐絵はとんでもない才能を見つけてしまった。オーディション応募者ではない、先輩に連れられて無理やり入った地元のライブハウスでのことだ。

東京に戻ってからも、その声を忘れることができない桐絵はついに、自腹を切って再度地方に向かう。

そして本人と家族に直談判して、東京に連れて行くことに決めた。もちろん、桐絵には裁量権がないため、東京に連れ出したところで、その子をデビューさせることができるかはわからない。それどころかプロダクションの養成所に入れてもらえるかどうかさえ約束できないのだ……

(村山由佳さん『星屑』の出だしを私なりに紹介しました)

 

 

昭和50年代といえば、数々の歌番組があり、毎年のようにアイドルが誕生していました。

当時は下手だと酷評されていたアイドルの歌を今聴くと、意外とうまいことに驚きます。

「歌手」と名がつく以上、歌がうまいのが当たり前だった時代と言えるでしょう。

この小説の舞台はまさにそんな時代。

本人の歌の才能、人を惹きつける魅力、そして絶え間ない努力と周囲のバックアップがあってこそデビューできるわけですが、デビューがゴールではなく、その後も絶えず努力し続けてこそ第一線にいられる厳しい世界です。

 

この小説はそれを支えるマネージャーの視点で書かれています。フィクションではあっても、事実もこれに近いのだろうなと思えるため、まずは裏事情を知る意味で面白く読めます。

でも、この小説はただ面白いだけではありません。登場人物たちに共感し架空の人物なのに応援したくなってしまうのです。私はその理由を、歌手や作詞家、作曲家、そしてプロダクション側の人間が「仕事だから」「お金になるから」という理由だけで働いているわけではないからだと思っています。

彼らを真に突き動かしているのは「音楽の力」「音楽の神」なのだと、村山由佳さんは小説の中で描いておられます。もちろん損得勘定で動く人たちもいるのでしょうが、そういう人たちは長続きしないのだと。

そしてそれは芸能界に限ったことではありません。誰もが生きるために、お金を稼ぐために働くわけですが、100%それだけかと言われたら、違う気がするんです。綺麗事かもしれないですが、自分なりに働く理由、動機が、やりがいがそこにはあるのだと思います。この小説ではそれが「音楽」ということですね。

 

先ほどのあらすじには、大手プロダクションで大きな仕事をやってみたいと思っていた桐絵と、才能ある一人の少女(女性なんです)しか紹介していませんが、他にも軸になる人物が数人登場し、それぞれの信念や矜持が描かれていて、とても読み応えがあります。

 

周囲に登場する歌手たちは全て別名になっていますが、明らかにあの人がモデルだなとわかる人物が多いですし、日劇レビューの終焉や「ベルサイユのばら」をきっかけとした宝塚歌劇ブームなどの時代背景も描かれていて、昭和に馴染みがある年代の人には楽しくて仕方がないと思います。

 

”スター”は才能だけでは輝けない。才能を見出す人、育てる人、支える人がいてこそ誕生する”スター”。しかもその数は無数であり、輝き続けられるのはごく一部。

読み終えた時、タイトルの『星屑』が腑に落ちると共に、何か清々しいものを感じる小説でした。

 

 

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