大阪二児餓死事件(大阪二児置き去り死事件)をご存知でしょうか。

2010年、大阪市西区のマンションで2児(3歳女児と1歳9ヶ月男児)が

母親の育児放棄によって餓死した事件です。

この母親は、玄関の鍵はもちろんのこと、

2人の子どもを閉じ込めた部屋の扉を

外側から目張りして出られないようにした上で、

1ヶ月以上家に帰りませんでした。

夏場に、飲み物すらない部屋で亡くなった2人。

どれほどひもじく、暑く、苦しかったことか。



私ははっきりと覚えています。

子どもに恵まれなかった私は、こういうニュースを見聞きすると、

息が詰まるほどの怒りと悲しみを覚え、なかなか忘れることができないのです。

 

この事件をモデルにした山田詠美さんの小説『つみびと』を読み終えました。

 

 

 

人物設定などの細部を変えているとはいえ、

内容はほぼ実際の事件をなぞっていて、

読むのは本当に辛かったです。

 

だけど「事実をなかったことにはできない」

「どうすればこの子たちは死ななくて済んだのか」

を考えさせられ、読むのをやめることができません。

 

また、ひどい親だと思いつつ、

シングルマザーとして必死であがいていたこの女性も、

本当は幸せになる道があったのではないか、とも思いました。

 

この小説は3っつの視点で書かれています。

 

一つ目は、亡くなった4歳の子ども 桃太の視点。

二つ目は、桃太の親 笹谷蓮音 23歳の視点。

三つ目は蓮音の母親 下田琴音 44歳の視点。

つまり、親・子(逮捕された女性)・孫、

三世代それぞれの独白です。

 

琴音・蓮音母娘はどちらも、幸せな子ども時代を過ごせていません。

よく、児童虐待は連鎖するといいますが、

私はそれをDNAの問題だとは思いません。

私はこんなふうに思うのです。

一番身近なお手本である自分の親に大切にしてもらえなかった人は、

ぶっつけ本番で育児をするのと同じなのではないかと。

愛情がないのではなく、どうすればいいのかわからないのかもしれないと。

 

自分の育った境遇から立ち上がり、幸せな家庭を築ける人、

シングルマザーになっても育児を全うできる人と、

不幸にしてこのような事件を起こしてしまう人とは、

人生のどの分岐点で、どう違って道が分かれるのか、考え込んでしまいました。

 

この事件を起こしてしまった蓮音は根っからの悪人ではありません。

幼い頃から、母親をはじめ周囲の人に愛されたかったという思いには

心痛むものがあります。

そして、蓮音は自分が生んだ子どもを愛していました。

でも、「どうにでもなれ」と思ったのも本当。

一人の中に、いろいろな面があるということです。

ここまで極端ではないにせよ、

私にも白い部分と黒い部分はあります。

おそらく誰もが良い面ばかりではないと思います。

歯車が少しでも違うように噛み合っていれば、

彼女もこんな事件を起こすことはなかったでしょうに。

だからと言って、悲惨な状態で亡くなった子どもたちを思うと、

全く許せるものではありませんが。

 

山田詠美さんは、琴音と蓮音の視点で書く時と、

桃太の視点で描くときに文体を変えておられます。

桃太の時だけ、ですます調の、一種おとぎ話のような

語り口なのですが、それが余計に悲しいです。

 

ずっと悲しい気持ちで読んでいたのですが、
終盤のある場面で、大泣きしてしまいました。

 

蓮音の事件が大々的に報道されて、

その悲惨な全容な明らかになった時、

佐和は号泣して崩れ落ちたという。

彼女は息子を幼い時に亡くしている。

「だったら私にくれよお、くれーっ、って

 叫んで泣きわめくんだよ。たまんなかった」

(山田詠美さん『つみびと』 P364より引用)

 

私は子どもに恵まれませんでした。

不妊治療をし、一度だけ妊娠したものの早期流産。

児童が虐待されて亡くなるニュースを見るたびに思っていました。

「この世に神様はいない。

 もし私のところに生まれてきてくれたら……」と。

 

「だったら私にくれよお、くれーっ」と泣きわめく”佐和さん”は、

まさに私自身なのです。

同じことを何回思ったことか。

 

こんなニュースを聞くたびに

「私のところに生まれてきてくれたら、

こんな目には合わせない。大事に育てる」と思っていましたが、

『つみびと』を読んで自信がなくなりました。

私がちゃんと子育てできたとは限らないと思ったのです。


私は子どもに恵まれなくて良かったのかもしれません。

子どもを産み育てられた(現在育てておられる)

すべての女性を心から尊敬します。

 

 

 

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