今年のアカデミー作品賞など5部門を受賞したという『アーティスト』を観てきました。
これだけ勲章をもらっておきながら、なんとなく目立たないのは、この映画サイレント&モノクロという
一風変わった作品だからなのでしょうか。以下ネタバレを含みます。
 
ストーリーの舞台は1926年~1932年のアメリカ。サイレント映画のスーパースターだったジョージが主人公。
ヒロインは作品の期間中、駆け出しの女優のタマゴからハリウッドのトップスターに成長するぺピー。
歴史の移り変わりとともに、この二人の立場は逆転していきます。それは世界恐慌を挟んで世界中の
価値観が一転してしまった時代。映画の世界では同時に、サイレントからトーキーへ革命がおこった時代
でもあったというわけです。ジョージはサイレント映画の衰退とともに没落していきますが、そんな彼を
彼が人気絶頂の時に出会い、わずかに心を通わせたぺピーがいつしかいつでも彼を見守り、最後には
救ってくれます。時代に人生を翻弄されながらつながっていた2人の心。じんときましたね~。
 
ストーリーだけ見ると、ドラマ性やテーマ性ではアカデミー作品賞として深みに欠ける印象もあります。
到ってシンプル、サイレントだとそうせざるを得なかったのかもしれません。ただ一つ一つのエピソードは
丁寧に描かれていてどこかで見たような?映画のワンシーンを切り取ったような普遍性があって、
それだけに、主人公とヒロインが心を通わせるシーンでは、普通の映画よりも何倍もぐっとくるような
感動が味わえました。パクっているのとは違って、丁寧に描き直しているという印象です。
 
ぺピーがジョージのスーツに自ら袖を通し部屋で一人、ジョージに抱きしめられることを想像するシーン。
家事から焼け出されたジョージがひとつだけ抱えていたフィルムに写っていたのは、かつてのぺピーとの
共演シーン。それはNGを重ねるうちに、芝居を忘れてしまうほど互いに想いを寄せてしまった、そんな
二人の恋の始まりとなった素敵な思い出を含むもの。このシーンでは鼻の奥がつんときました。
 
サイレントならではの演技も出演者全員見事でした。よくこれだけの役者を揃えて演技をさせたなあ、と
監督の手腕というか、製作にかけた関係者の情熱も推し量られました。サイレントで重要な音楽も、音源が
きれいなので作品全体から古臭さを払拭するのに一役買っています。この「音」の演出も見事で、
主人公がトーキーに対して受け入れられた最後のシーン、初めてせりふをしゃべります。また、トーキーの
出現で迫るサイレント映画界の落日を予感したジョージが見た夢の中で、彼の声以外はすべて実際の
音がしている、という演出も明確で印象的でした。はたまたジョージが自殺を思い留まるシーン、駆け付けた
ぺピーとの二人きりのシーンはまったくの無音。期待通り、明確で素晴らしかったと思います。
 
キャラクターの根本的な明るさもとてもよかったです。ジョージに、ぺピー。ぺピーは最高ですよ。
周囲の人々。犬。こういう作品好きなんですよね。戦争に向かっていく時代の中で、なお明るいというと
同じくアカデミー賞の、『ライフ・イズ・ビューティフル』を思い出しました。
 
全体的にシンプルで分かりやすく、テーマ性やドラマ性に於いてはともすれば「ありきたりで物足りない」
作品になってしまうかもしれませんが、しかし本作がとりあげている映画としての諸要素は、絶対に否定
できない根源的なものに違いありません。それをモノクロ&サイレントで高々と謳いあげた本作に、ポンと
アカデミー賞をあげてしまうアメリカ映画界っていうのは、そこは大事にするんだな、と言いますか、改めて
こういうものなんだと気付かされ、感心した次第です。
 
サイレント&モノクロでオスカー、面白くないわけがなかったです。静寂に包まれる映画館、その非日常を
味わえるという点でも、本作が作られた価値は大いにあると思いました。素晴らしかったです。ブラボー!!
 
80点/100点中…元の期待値が高すぎて…。やや低めに査定です。もったいないかな??