2010年南アフリカワールドカップの開幕戦、南アフリカとメキシコのゲームを見ながら、いっしょに
部屋にいた妹がふと「お兄さん、私結婚するんだよね」とつぶやいた。
兄はすでに正月くらいに家族から聞いて、そうらしいということを知っていたが、妹は半年待って、
ワールドカップの開幕戦を見ながらのタイミングで、サラリと兄に報告をしてきた。ワールドカップが始まった、
兄のテンションが最高潮のときにサラリ、である。それほど、妹は兄が恐かったのかな、と思った。
兄、座りなおして妹の正面に対坐し、
「それは……おめでとうございます」
深々と頭を下げた。そういう兄妹関係では、ある。
TVでは南アフリカのシャバララがアフリカ大陸初のワールドカップの、大会初ゴールを豪快にマークした。
ブブゼラの異様な音が響き、躍動する黄色いユニフォームのバファナ・バファナの中心選手は、英・プレミア
リーグで活躍する司令塔、スティーブン・ピーナール。編み込みのドレッドっぽい長髪が、スピードある
プレースタイルにマッチしいていて、カッコよかった。
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今日、妹が赤ちゃんを生んで退院してきた。俺は朝から妹を病院に迎えにいった。
池袋からタクシーで、澄み渡った青い冬空の都心を通り抜け、見なれた下町の我が家に、生後6日の
赤ちゃんが到着した。泣かずに騒がずに、ひとまずミッション成功。
ふっと部屋に落ち着いて、点けたTVのプレミア・リーグ、エバートンvsチェルシー、ピーナールがあのときと
変わらない髪型、スタイルで右サイドをかけぬけていた。それで、妹が結婚を報告してきた開幕戦の夜を
思いだした。ピーナールはそんな風に、日本のサッカーファンに見られていることなんて知らないだろうけど、
俺にとっては印象的な選手の一人になった。