スコアラーという仕事があるのはプロ野球ファンならばご存知の方も多いと思います。
語源をたどると1954年、南海ホークスが毎日新聞の記者を、対戦相手である毎日オリオンズの
攻略用にスコアラーとして迎えいれたのが始まりとか。新聞記者のつけていたオリオンズのスコアブック
と分析を参考にしたということで、そもそも語感どおり記録者という意味だった言葉が、現在は単純に
それだけの意味ではなく、相手チームの分析・偵察を行ない、相手の弱点を探る人という意味で一般的に
使われます。いわば“スパイ”です。

西武ライオンズの前監督で伊原春樹という人がいます。
この人が、とにかく選手のクセを見抜くことにかけては天下一品でした。3塁コーチを務めていた
87年日本シリーズで、相手ジャイアンツのセンター、クロマティの返球が緩慢なことと中継に入る
ショート川相が、外野へのヒットの返球を中継した時には打者走者を気にして一塁側を見ており、
3塁側をまったく見ないクセを見抜き1塁走者を次の打者のセンター前ヒットでホームまで生還
させた、という伝説のプレーがあります。
また、これももっと最近の日本シリーズで、対戦チームヤクルト吉井のクセを見抜き、直球と変化球で
投球モーションに違いがあることを指摘していたそうで、その内容というのは直球の時はグラブを胸に
持っていったときにあごの部分が隠れ、変化球の時にはあごを隠すまでグラブを胸の上の方までもって
こない、という微妙な違いなのでした(逆かもしれませんが…)。他にもこの投手は変化球を投げる時
には腕の下がりが…とか体の開きが…とか、カウント何々の時は直球でくる…とか、プロ野球とは
そんな話ばかりです。投球前の一瞬での判別、実質0コンマ数秒の間の話なのですがプロの世界では
死活を分けるに十分ということのようです。

野球のひとつの醍醐味はそこにあります。
静と動、弛緩と緊張の時間があり、サッカーのようにミスを前提として不確定性が少なく、理詰めで
観戦できる点は詰め将棋のようです。だから日本人にはより好まれるのかもしれません。
日本の野球が世界一に立ったということは、このような背景を持った日本野球の勝利であった、という
ことが出来ます。アメリカ人がこんなに細かいことをやっているかって!?やっているのでしょうが、
日本人には及ぶまい!!と思うのであります(笑)。

サッカーでも、先のワールドカップでも同じような場面がありました。
ドイツvsアルゼンチンのPK戦で、ドイツのケプケGKコーチがGKレーマンに渡したメモが存在した!
と。すごい!!さすがドイツだ…!!果たしてそのメモの内容は、というと…。
「アジャラ-蹴る足に注意。左下」「カンビアッソ-立ったまま待つ。左隅」と。
素晴らしいです。静と動が介在するPK戦には、これらのデータが活きる可能性は大です。見抜いた
ドイツの勝利にあっぱれと言いたいところです。もっとも、野球よりはかなり単純な気もしますが…。

メンタルはスポーツに於いて重要な要素であり、プロの世界で日常的に行なわれるこのような心理戦
こそ、スポーツのプレーの美しさとは別のもう一つの醍醐味であるといえます。さらに一般的と思われる
心理の裏をかいて、観客を驚かせる選手がいることにますます感動できます。
野球で言えばあらゆるデータをその頭脳に収めるヤクルト古田、サッカーでは妖精ことストイコビッチ
でしょうか。実際に見たときに、プレーがケタ外れというのとは違って、鳥肌が立ちます。
久しく出会っていませんが、古田は神宮球場に行けばまだ会えるようなので、オススメします。