阿弥陀クジ | 素人短編小説

阿弥陀クジ

 

 

家から少し行ったところに七十歳以上の年寄りを対象にした寄り合い所がある。間口が三間、奥行が四間半ほどで、便所と粗末な台所がある平屋のプレハブ小屋だ。


どれほど前かは知らないが、昔、ここで地元の善良な商売人が、物好きな専業主婦や年金暮らしの爺さん、婆さんを相手に、わりと高価な電動ベッドや健康食品を売っていたという。

 

商売の方はそこそこ流行っていたのだが、手前勝手な被害届や地元マスコミの“世論遠隔操作”を味方につけ、悪徳商法のレッテルを貼られた末、廃業に追いやられたという話しだ。


その後、商売人は必死に再建を試みたが叶わず、

他の土地に引っ越したらしい。

 

このプレハブ建物は持っていても土地税や建物税が課され続けるので、町の社会福祉法人に寄付していったとのことだ。つまり、その悲しい善意の建築物をその法人が改修し、この場所ができたわけである。

 

ただ、建物の管理まで年寄りたちに任せていると、水は出しっ放し、電気は点けっ放しなんかは日常茶飯事で、酒を持ち込んで昼前から宴会をはじめたり、果ては異性交遊のうわさまで聞こえてくるもんだから、慌てて地元ボランティアを募り、このボランティアを管理人に置くことでなんとか秩序を保っているとのことだ。


わたしは、そんなボランティアなどに全く興味はないが、ウチの六十六歳になる義母がこのボランティアの会員で、今日が管理人の順番にあたっているのだが、のっぴきならない用事ができたということで代わりに管理人を務めにきたといういきさつだ。

 

まあ、朝の九時から午後一時までだからそれほどの負担でもはない。


午前十一時過ぎになると七人から八人の年寄りが集まった。

女も二人いる。

 

…と、ハゲ頭の年寄りがみんなに声をかけた。


「おい、久しぶりにクジやるか、クジ!」


これに、反応して他の連中が半ば面倒くさそうに顔を向けた。


「ああっ、クジ~?」


「アミダかあ?」


「おお、そうよお。

将棋や碁もあまり早くからやってると飽きるし…どうよ?」


「まあな、やるか!」


こんな会話をしながら、その「クジ」とやらが始まった。

あまりワイワイと騒ぎながらやっているんで覗いてみると、なんのことはないただの「阿弥陀クジ」だ。

 

「うわあ~、残念!」


「あら~っ、オメエかあ~!」


「へへっ、いただき!」


「あらま、ははは…。では、もしものときはお願いしますね」


「あんたかあ~。おれは、あんたより長生きできるわけがねえ~」


「そりゃ、そうだあ!」


「ワアッハハハハ・・・」


「さぁ~てと、今日のクジは決まった!

一ヶ月以内にちゃんと手続きしてこいよ!」


「へ、へえ~い」


年寄りたちは、また、それぞれの場所に戻り、将棋や囲碁に興じたり、本を読んだり、編み物をしたり…と、余命を楽む時間へ入っていった。


ただの阿弥陀クジだけであんなに盛り上がるものじゃない…わたしはどうしても納得がいかず、昼過ぎに来た女性管理人との引き継ぎの際に尋ねてみた。


あまり、口を開きたがらなかったが、わたしのしつこさに負けて教えてくれた。


「あたしも他人に聞いた話だから、ホントかどうか知らないわよ。

でも、あたしが聞いた話だと…あの人たち、あの阿弥陀クジで一年間掛け捨ての生命保険に加入する人と受け取る人を決めてるみたいなの。

そりゃあ、あんな年の人たちだから、入れる生命保険なんて限られていて、保険料も一万円くらいで、死んだときの受取金も十万円か二十万円てところらしいけどね…」

 

                                        -了-