皆様、あけましておめでとうございます。

しばらくご無沙汰しておりましたこと、深くお詫び申し上げます。
そして本年もよろしくお願いいたしたします。




さて、今回は当時の僕の気持ちを振り返ろうと思います。
出来事ばかり追いかけてつづってしまったので、少し抜けていた僕の気持ちや、
身近な人との出来事を書きます。

僕の周りの友人や親、由里への気持ち、自分自身への気持ち…
もう半分も思い出せないですが、こんなにも人とのかかわりを深く考えたのは、この時が初めてでした。




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あの日、
由里が襲われた日、
僕は自分の無力感に苛まれるとともに、

誰かに話したくても話せないというジレンマに陥っていた。

当時の僕は、

mixiで知り合った人とリアルな関係を持つなんて、不謹慎だ
と思っていた。まるで出会い系のような感覚で考えていた。

だから、親友にすら話すのは恥ずかしかったし、
親に相談しようものなら、何と言って怒られるのかも想像できなかった。


だから僕はこの出来事に、一人で立ち向かわなければならなかった。

「僕が由里を守る」

そんなうぬぼれた考えで毎日を過ごしていた。

…もうここまで読んでくださった読者の方々は薄々お気づきかと思うが、
僕はだんだんと由里のことが好きになっていた。

これが前回最後に書いた、変化、である。

実のところ、正直自分ではこの気持ちを認めたくなかった。

なぜなら、自分がそんな出会い系のような出会いで人を好きになるなんて、
それこそあり得ないことだと思っていたし、そんなことは恥ずべきことだと思っていたからだ。
一番動揺していたのは僕自身だった。

けれど、気持ちはごまかせなかった。


とどめはある日由里から僕へ送られてきた写メだった。
由里の趣味は軽音。ギターを自宅で弾いている姿だった。

…恥ずかしながら、僕はこの写メだけでも恋に落ちていたと思う。

由里は僕が想像していた以上に、本当に可愛い女の子だった。
結構な衝撃だった。

もう、僕は本当に由里のことが好きになってしまったんだ。
そうやって、もう自分の気持ちに抗うことなく、好きだと素直に認めるようになった。



僕はいつも由里のことばかり考えていた。

由里と会ったらどこへ行こうか、
由里の誕生日には何をあげようか、
由里は何をしてもらったら喜ぶだろうか、
どうやったら少しでも由里を楽にしてあげられるだろうか…




嘘をつくのが下手な僕は、友人に

「なんでそんなに節約してんの?」

って言われても、

「山口にいる女の子に会いに行くため」

なんて口が裂けても言えるはずがなかったし、
まだあどけなさが抜けない大学生だった僕は、恋バナをするときでも、

「彼女いないの?」
「好きな人いないの?」

なんていう質問にも、どもることしかできなかった。
山口に好きな人がいるというのは、世の中で自分しか知らない秘密だった。

しかし、いつまでも秘密に出来るはずがなく、僕はひょんなことで、
大学で仲の良かった二人に話してしまうことになる。

大学で仲がいいと言っても、まだ一年もたっていない。
中高ともに過ごした親友との仲とは比べ物にならないぐらい薄っぺらい関係だ。

でも、当時の僕は、二人が学校で一番仲のいい友達だと信じて疑わなかったし、
向こうだって同じように思っていると思っていた。

東京で一番信用できる友人。

信じていたから、少しぐらい、
少しぐらい話したっていいじゃないか。

そう思って、ことのあらましを話した。
話すのは正直恥ずかしかったし、馬鹿にされるとも思っていた。

しかし、予想外に、一人は
「大変やなあ…」
と労いの言葉をかけてくれた。
(彼の名前は南藤 正則(仮名)。実は地元がほぼ同じだった。今でも彼と会った時には、仲よく話したりしている。)


もう一人の反応は冷たいというか、無関心なものだったが。


こうして、僕は正則には少し心を許し、以後少しずつ相談をするようになった。

しかし、この由里の事件は、僕の判断を鈍らせ、結果として彼との仲をぎこちないものにしてしまった。心を許したのが度を過ぎて、後に甘えになってしまうのだ。

ちょうどいい友人関係というのは、甘えがあるとおそらく成立しない。
信頼と甘えは別ものなのだ。

そんなことも分からず、僕は正則との仲を違えてしまうことになる。
僕はこの時初めて知りました。

レイプの恐怖は二次的に続くと。

それはもちろん、フラッシュバックや、日々の生活の崩壊もそうです。
これは一般的にも言われていることです。

しかし、僕が言いたいのは、もっと直接的な恐怖です。



由里は、自宅付近でレイプされました。

夜にです。

ということは、例の男たちは、普段からその付近によくいる人かもしれません。

外出すら怖かったでしょう…。





しかし、それは起こってしまいました。

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その日は、部活がオフだったので、僕は夕方には家に帰っていた。
風呂も済ませ、あとは由里と電話する。

今日もいつもと同じように、一日が終わろうとしていた。


しかし、いつもならテンポよく交わされるメールが、今日は夕方からきていなかった。

普通なら、なんでもないと、気にも留めないところだが、なんとなく悪寒がした。



…まさかな。



由里からのメールを待っていたら、電話がかかってきた。
まだ日も暮れていない。

よかった。

僕はホッとして、電話をとった。


「(…え?)」



由里は泣いていた。



「由里、大丈夫?なんかあった?」



僕はあの日のことを思い出していた。

電話の向こうから伝わってくる彼女の雰囲気が、あの日と全く同じだったからだ。

僕は、何もしゃべらなかった。

自分の無力さを呪った。




落ち着いて、彼女は話し始めた。

「…さっきね、帰り道にね、あの時の男の人の一人に偶然会っちゃって…」

「…うん」

「…またされそうになった」

「そうになった?ほななんともないんか!?」

「…通りがかった人が助けてくれて…家まで送ってくれたの」


僕は安堵ともつかない、奇妙な感覚に襲われた。

由里の身に何もなかったのは、本当によかった。

だけど、夕方なのに、そんなことがあり得るなんて、これからどうしたらいいんだ?

僕は彼女に何ができる?




「由里、ほんまなんもなくてよかった。」

「…」

「傍におってやれんで、ホンマごめん」

「…怖いよ」

「…」

「もうどうしたらいいのか分からない…!」

それは僕も一緒だった。

「もう死にたい、死にたいよ!!!」

「そんなこと言うなよ!」

「ねえ、知ってる?女の人って、レイプされたら、一回死ぬんだよ?生きてるけど、生きてる感じがしない…もうこんなに苦しいんだから、死んだ方がましだよ」

レイプされるということを、他人事でしか聞いたことのなかった僕に、
彼女の悲痛な叫びは突き刺さった。

本当に痛かった。

でも、一番痛かったのは、由里の方だったろう。


「そんな、勝手に死なれたら、俺が困るんや」

さっきまで半泣きだったのに、僕は恐ろしく冷静な声で話し始めた。

「…なんで翔が困るの?」

「…俺は、由里がおらんと、もう生きていけへん。」

正直な気持ちだった。

知り合って間もなかったけれど、僕は確実に由里に惹かれていた。

「え…?」

「それに、由里が死んだら、困るんは俺だけちゃう。由里の家族や、友達、皆が悲しむんや!由里も苦しいと思う、けど、由里が死んだら皆同じぐらい苦しくなるんや。」

「…」

「俺は由里に生きといてほしいよ」

「…」

「せやから、死ぬとか言わんといてくれ。…な?」

今思えば、ずいぶんと自分勝手なことを言えたものだと思う。
苦しいのは、由里たった一人なのだから。

でも、由里には死んでほしくなかった。
必死の説得だった。


「苦しかったら、俺が半分背負うから。」





「うん…分かったよ…」

僕の真剣な気持ちが伝わったんだろうか?
由里はおとなしく聞いてくれた。




こうして、僕たちはまた少し、二人で壁を乗り越えた。










…僕の中で徐々に変化が現れたのは、このころだったのかもしれない。
事後報告だったが、その日のその電話の後、彼女は中学校の時の教師のもとで介抱されていたそうだ。

(場所がどこだったのか、実家がそんな夜遅くまで帰らないことを許していたのかは分からなかった)

なぜそんなことがあり得るかと言うと、
世間一般には禁じられている交際が、その教師と中学時代にあったからだそうだ。

要するに、元彼ということだ。(以下、その人を先生と呼ぶことにする)

僕は少なからず、やきもちをやいた。

僕にはできないことが、その人にはできたから。

悔しかったけれど、その時は彼に感謝の気持ちでいっぱいだった。
…その時は。




由里はレイプされたことを親にも友人にも言うことはできず、

学校に行くのすら怖かったそうだ。

電車の中で、男性の身体が少し当たっただけで、震えが止まらなくなる、と。


さらに悪いことに、フラッシュバックが起こる。

授業中、通学中、家で寝るとき、突如として。


「男の人が笑っている顔が頭から離れないの…」


由里はそう話した。

「頭の中で声が聞こえる…」



毎晩毎晩、僕は由里と電話した。
おそらく一日3時間以上はしていたに違いない。
高校生のときだって、彼女とそんなに電話をしたことはなかった。

時には、僕が学校に行っている時でも電話した。


ちょうどその頃が、実際に会いに行かないといけないと思い始めたころだった。

バイトもろくにしていなかった僕は、生活費を削ることで、お金を貯めた。
もちろん、体育会でありながら授業を週に20コマもとっていた僕は、体力的にすぐに限界を迎えた。

土日の一日練なんか、本当にいつも意識がもうろうとしていた。
昼飯なんか、食パンしか食べていなかった。



でも、頑張れた。




部活より、勉強より、なにより由里が大切だった。
なんとかして助けてあげたかった。

今月の電話料金なんて、どうでもよかった。
(恥ずかしながら、電話代は親に払ってもらっていた)

少しでも話していてあげたい。
こんな僕で気が紛れるなら、それで構わない。



僕が由里を助けるんだ。


そう思って毎日を過ごしていた。

近いうちに、山口まで行って由里に会う。
そして、精神的に解放してあげるんだ、と。








しかし、現実はあまりにも残酷なストーリーを用意していた。