「…あのね、帰り道ね、いつもと違う道だったの」

「うん」

「…そしたらね、急にね、5人ぐらいの男の人たちに襲われて…」

「――――」

思考が止まった。

気付いたら、僕の視界が涙でくすんでいた。


まさかと思いながら、なんとなくそうかもと思いながら、
でも、そんなことはないと思っていたこと。

そんなことが本当にこの世の中でありえるのか…!!?

なぜ彼女なんだ?なぜ由里が?

茫然とする僕に、由里は嗚咽を漏らしながら続けた。

「…怖かったよおお!!!!」

そう言って、由里は号泣した。

「はじめてなんだよ!!なのに、なのに…!!!」



怒りとも悲しみともとれる彼女の号泣は、痛いほど僕に刺さった。

なんて声をかけたらいいのか、分からなかった。

ただ、今由里に何もできない自分が本当に悔しかった。

人生で初めて、こんなにも無力な自分を責めた。


傍で聞いてあげることもできない。


なぜ涙がこんなにも出るのか、
悔しいのか、
怒っているのか、
悲しいのか、

僕は分からなかった。


「つらかったよな、怖かったよな…」

そうちゃんと言えたのかどうかもわからない。

「怖かったよお…」

「もう大丈夫、大丈夫やから。な?」

泣き続ける由里に、大丈夫だよ、と声をかけることしかできなかった。

どう見たって、何がどう大丈夫なのか分からないが、僕にできることはたったそれだけだった。



ようやく、由里の泣きが少し収まってきたころに、聞いてみた。

「でも、なんでいつもと違う道で帰ったんや?」

危ない道草でもしたんだと思って聞いたことだった。

「翔にね、少しでも早く帰って電話しようと思ってね、近道したの…」





僕のせいだ。

僕がいなかったら、彼女は、由里は…!
こんなことにならなかったのに!!!





「ねえ、翔…助けて…」

「…」


僕は、無力だった。







この日から、僕たちの悪夢のような毎日が始まった。
その翌日、昼間に何通かメールした後、メールがしばらく返ってこなかった。

しかし僕は、友達と遊んでいるんだろう、勉強でもしているんだろう、と思い気にも留めなかった。


そして、夜7時ごろ。

自宅でテレビを見ていたら、突然由里から電話がかかってきた。

びっくりして僕は電話をとった。

「もしもし」

「…」

電話の向こうで、ずっと黙っている彼女。

直感的に何か嫌な予感がした。

いろいろと最悪のことを想定したが…どうしてこういうときの嫌な予感ってやつは当たるんだろう。


「由里、どうしたん?」


「…靴が片方なくて…」

「今どこにおるん?」

「…外だよ…。…探してくるね。」

そう言って、電話は切れた。


心なしか、由里が泣いているような気がした。
呼吸もおかしかった。

なんとなくただ事ではないと思った僕は、彼女に電話をかけなおした。

しかし、出ない。

「…?」

するとメールが一通。

「なんでもないよ!帰ったらまた連絡するね!」

さっきのテンションと違うメールの文面に、余計に心配が募った。

「気をつけて、はよ帰りな」

そう送った数十分後。

再び彼女から電話が。

「もしもし…?」

「…」

また何もしゃべらない彼女。

「由里、どないしたん?大丈夫?」

「…ねえ翔、聞いてくれる…?」

もう彼女の声は震えていた。泣いているのかどうかすら分からなかった。

「うん」

「…誰にも言わないって約束してくれる?」

「誰にもって言うたって、由里と僕の間には同じ知り合いおらんから大丈夫やで」

「そうだね…」

「誰にも言わへんよ」

「…あのね…」




彼女の話を聞いた僕は泣き崩れた。
ある日突然、mixiで女の子からメッセージが届いた。

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はじめまして♪

興味を持ったのでメッセ送りました!
良かったらお話ししませんか??

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何かの嫌がらせかと思ったが、少しやりとりしているうちに、そうではないと確信した。

しばらく女の子とメールなどしていなかったので、僕は嬉しくて仕方なかった。
誰だか分からないけれど、メールをしていてとても楽しかった。

正直、ネット上での繋がりなんか信じていなかったし、すぐに切れるだろうと思っていた。
だいいち、僕は東京に住んでいて、相手は山口なのだから。



…けれど、ここから僕の物語が始まった。それも、とんでもない方向に…




その娘の名前は 夏川 由里(仮名)。

当時高校3年生だった。
山口県のある高校に通っていた。

最初から、相手も僕のことを男として相手をしているというより、ただやりとりを楽しんでいるようだった。

お互いの学校の話、友達の話、好きなこと、嫌いなこと。
他愛もない話をしていたけれど、それがなぜか心地よかった。

よくある言い回しだが、昔からお互いを知っているかのようだった。


そんなこんなで、二日ほどメッセのやりとりをして、メッセだと面倒だから直接メールしようということになった。

そして三日目。
電話をしよう、ということになった。

緊張なのか、嬉しさなのか、よくわからない感覚に襲われながら、約束の時間がやってきた。




「もしもし…神崎です」
「あ、もしもし。はじめまして・・・夏川です」

相手も緊張しているようだった。
無理もない、地方に住んでいる女の子が、知らない東京の大学生と話しているのだから。

「なんて呼んだらええやろ?」

「由里でいいですよ。っていうか、本当に関西弁なんですね!
…あ、私こそ、なんて呼んだらいいですか?」

「翔でええよ」

彼女以外の女性に下の名前で呼ばれたことなんか殆どなかったのに、何を思ったのか、下の名前で呼んでいいよと言ったのだ。今思えば、この後、どうにかなるのかもしれないという期待がどこかにあったのかもしれない。


この後のやりとりは、もう3年も前のことなので、はっきりと覚えていない。
だけど、一つ確かなことは、僕と由里の距離が本当に縮まったということだった。




そして、ずいぶんと楽しい時間が続いたところで、気付けば深夜をとうに回っていたので、その日は電話を切ることにした。

「今日はありがとうな。」

「こっちこそありがとう。ねえ、また、電話してもいい?」

「もちろん!また、メールするな」

「うん!じゃあね、翔。おやすみ」

「おやすみ、由里」




そうして、初めての由里との電話は終わった。

なんてメールしようか。
彼氏とかいるんだろうか。
僕のことをどう思っているんだろうか。


気がつけば、僕は眠っていた。

一日後には、二人の関係に大きな変化があることなど、僕は知るよしもなかった。