ファースト・トリップ⑯ | 徒然ブログ

徒然ブログ

好きな事書いています。

ホテルの人達の言う通り、もう自分達じゃ何もできないので三浦さんを日本大使館まで連れて行った。ホテルのスタッフの女の子一人と一緒に行った。上海の領事館に行くまで三浦さんはタクシーの中で泣き続けていた。そしてひたすら文句を言い続けていた。

 

「中国は最低の国。」

 

とか言い出す有様だった。ホテルの女の子なので日本語はペラペラじゃなくてもそれなりにわかっている。だから中国人の女の子は、チラリと三浦さんを一瞥した後はタクシーに乗っている間もずっと窓から外ばかり見ていた。三浦さんの方を見ようともしなかった。三人で後ろの席に座っていたけど私がずっと彼女の話し相手をしていた。上海は当時から結構渋滞がすごかった。結構時間がかかってやっと領事館には着いた。

 

ホテルから連絡はしていて名前を言うと応接室みたいなところにとおされたけど、やはりもう一度状況を聞きたいと言うことで最初は中国人職員にホテルのスタッフの女の子が説明をした。次に日本人が出てきた。ところがこの出てきたデブの日本人男性職員というのが、

 

「こういうの本当によくあるんで困るんですよねぇ。」

 

とか椅子に座るなりに言い出して、最初からこっちを見下す野郎だった。

 

「はぁ…今晩の飲み代につられて通訳引き受けたのあたしがアホだった。。。」

 

とまた思ったけど、時すでに遅しだったし、そう言われたらまた三浦さんが泣きだしてにっちもさっちもいかなくなった。するともっとあきれたように、

 

「泣いてもしょうがないですよね。大体あなた一人旅で中国に来たようだけど中国語はそれなりに話すことはできるんですか?」

 

とか泣いてる彼女に詰問する根性の奴だった。

 

「うぜー、どうせこんなところにのこのこ出てくるんだから、一般職だろう?総合職からいつも見下されてイラついているのはわかるけど、お前みたいなデブの話は聞きたくねぇよ。」

 

と心の中で毒ついていた。その時三浦さんが鑑真号の中でみんなに言っていた話を思い出した。

 

「あたしのパパは防衛省の上の人なの。」

 

その時は佐藤君が、

 

「そうなんだ。俺の家は家族全員外務省。親父はこれからは中国の時代だとか言うんだ。それで俺は子供の頃から中国語を習わされた。」

 

と言っていた。私はバックパッカーやっている旅行先で親自慢なんか全然興味がなく、

 

「何もこんなところでパパの自慢話をしなくてもいいじゃん。」

 

と思って2人は無視してた。だけど領事館にいたあの時、

 

「そうだ。このカードを切ろう。」

 

と思った。

 

「三浦さん、お父さんに連絡取ってみたら?」

 

と言った。

 

「パパに?」

 

三浦さんがふと泣くのを止めた。

 

「そう、そう。防衛省の偉い人だって言ってたじゃない!」

 

「止めて、加藤さん!」

 

と三浦さんは慌てて私を止めたけど、デブはすぐに食らいついてきた。

 

「防衛省?」

 

「ええ、そうなんです。彼女のお父さんは偉い人みたいなんです。そうだよねぇ~。」

 

と答えたらデブは180度コロリと態度を変えた。

 

「そうなんだ。お父さんの名前を教えて。」

 

とニコニコ和やかに言ってきた。

 

「三浦さん、この方の言う通りお父様に連絡してもらった方がいいと思うよ。すぐに日本に帰りたいとかさっきタクシーの中で言っていたけどこのままじゃすぐには帰れないよ。」

 

と言ったら彼女も降参して父親の名前と役職名をデブに伝えた。

 

「すごいね。」

 

デブは彼女の父親の役職名を聞いて言い、部屋から飛び出していった。

 

「あぁよかった。長々あんな奴の事情聴取は絶対耐えられない。」

 

と思っていたら、

 

「パパきっと怒るよね。」

 

と三浦さんはしょげていた。

 

「そりゃそうだよ。」

 

と心の中では思っていたけど、

 

「お父さんには荷物を盗まれたとだけ言えばいいんじゃん。それ以外は何も言わなくていいと思う。」

 

と彼女に言ったら、

 

「そうだね。旅の恥は搔き捨てていうもんね。」

 

とか本人が言い出したので、

 

「お前が言うかよ。お前が…。」

 

と心の中では思っていたけど、何も言わなかった。

 

「それにしても...あのリて男は何でBarで大勢の人がいたのに私のところに一直線で来たのかしら。本当にわからない。」

 

と三浦さんがふと漏らした時、

 

「えっ…。」

 

と思ったけど彼女には、

 

「運が悪かったんだよ。それだけ。」

 

と言った。

 

「店に入ってきたらそのまま真っすぐ私のところに来たの。びっくりした。他の人には目もくれず。隣に座っていいですかとか聞かれてすごい勢いだったので、うんと答えたのが運の尽きだった。」

 

と私に説明した。

 

「もしかして…。」

 

と思ったけどもちろん彼女には何も言わなかった。

 

「三浦さんは小顔で目をひいたんだよ。きれいだからだよ。」

 

とだけ言った。