暇なので、うつ伏せの時には見ることができなかった「刺されている針の分布状況」を思い切って見てみることにした。但し、針の移動による痛みを出来るだけ早く感じることができるように、頭を起こす動作を可能な限りゆっくりとすることにした。少しずつ…少しずつ…頭を起こしてみると「痛ッ!」、頭の針では無く首の両側に刺されている部分からの痛みだった。でも、我慢できる程度の痛みだったので、もう少し頭を起こしてみると…おぉ~これはまるで小学校の時に見た「昆虫の標本」のようであり、モンシロチョウの気持ちが分かったような気がした(なんてことは有り得ない)。

 

すると「すみませ~ん」と言ってみなさんが部屋に戻ってきた。まだ出て行って2分前後しか経過して無いのに…。「肝心なところを忘れていました」。道理で膝の周りが何も無いと思った。「最後にやろうと思って忘れてしまいました」。頭に針を刺してもらったことで結構な満足感に浸っていたとは言え、本来の目的が行われないのでは来た意味が無いので思い出してくれて助かった、と思った。こっちは全くの素人であり、膝痛の針治療というものは膝の周りには針を刺さないものなのかもしれない…と思っているのだから。

 

膝の周りに針を刺した時は急いでいたのか、痛いと感じたのが2~3本あった。そして「電気治療もします」と言って、部屋の隅に置いてあったその治療をするための設備をガラガラと移動し始めた。その設備には赤と黒の沢山のコードが繋がっていて、設備と反対側の各コードの先端にはワニ口(わにぐち)クリップのようなものがついていた。電気は身体へペタリを貼りつくパッドを介して供給されるものと思っていたが、そうでは無くそのワニ口を針へ噛ませる方法だった。針に余計な負荷がかからないのか、そのコードに誰かが誤って足を引っ掛けたりしないのか等の心配は取り越し苦労で、左右の各2ヶ所(ワニ口の電極として合計8か所)にワニ口が取り付けられた。結構な量の治療を忘れていたことが分かった…。

誰も居なくなった部屋でひとりうつ伏せになりながら、頭に針を刺されてないので「育毛治療はやってないな…」等と思いながら時間が経過するのを待った。針による痛みは全く感じない。刺されている針の分布状況を俯瞰的に見てみたかったが、うつ伏せになっているので残念ながらそれは仰向けになっての施術時までお預けだった。何もすることが無いのボーっとしていたら眠ってしまったようで、もう10分が経過したのか?という感じでみなさんが部屋の中に戻って来た音で目が覚めた。針を抜く時にも痛みは全く感じなかった。

 

身体を反転させて仰向けになっての施術が始まった。うつ伏せの時と同様に足先の方から順番に上へ向かって進めるようだ(ということは最後が育毛治療か…)。先ずは、足の親指と人差し指の骨の間隔が無くなる部分から少し指先寄りの辺りに刺した。刺した時は痛くなかったが、足の指を(手の場合として表現するとジャンケンの「グー」をするように)曲げた時に結構な痛みを感じた。恐らく指を曲げたことで刺していた針が指先側へ無理に移動したためだと思う。こんな感じなら針が刺されている間は1ミリも動けないかもしれない…と思った。

 

徐々に針が上の方に移動してきたが、不思議なことに膝の周りは何もしてないような感じだった。そして担当の方が仰向けになっている私の頭上に椅子を置いた。一日千秋の思いといえばかなり大袈裟だが「念願の育毛治療」の時がきた。頭には数針刺したが、その最後のひと針が結構痛くて思わず「痛ッ!」と声をあげてしまった。頭は頭皮から頭蓋骨までの距離があまり無いので、針先が頭蓋骨まで届いたから痛かったのか、刺した瞬間が痛かったのか、よく覚えていない。うつ伏せの時よりも若干早めに施術が終わり、再びみなさんは部屋から出て行った。ここからまた10分か…。

その方たちに続いて4畳程の細長い部屋に入ると、その後から「本日、一緒に見学させていただくメンバーです」と5人の生徒さんを紹介されたが、その人達は予想に反して全員が20才前後の若い人たちで女性が4人と男性が1人だった。みんな昼間は仕事をして、それが終わってからこの学校に通って頑張っている苦学生なのか、と思うと彼等のために少しでも力になることができれば自分の膝が治らなくてもそれで良いとさえ思った。

 

着替えた後にみんなの前に立って、言われるがままにその場で身体を捻ったり前屈をしたりして身体を動かした後は、私からこれまでの膝の状況をひと通り説明した。次に担当の女性から様々な質問があったが、初回であり授業の一環であることからか、膝には直接関係が無いと思われるようなものもありそこまでで既に30分弱が経過した。「他に何か悩んでいることはありませんか?」と聞かれたので、恥ずかしかったが意を決して「薄毛」と答えた。すると私のその雰囲気に気付いたのか「恥ずかしいことではありませんよ。”育毛”のツボもありますので、それをやってみましょう」と言ってくれた。おぉ~、言ってみるものだなぁ!と心の中で控えめなガッツッポースをした。

 

先ずうつ伏せになって、(見えないので感覚的ではあるが)アキレス腱の上辺りからふくらはぎと太腿部の裏側、そして腰から背中の中心付近まで何針か刺したと思う。針が細いのか(膝からの水抜きと違って)刺す時の痛みは殆ど感じない。刺してから、それをある程度の深さまで押し込むのであるが、その時に押し込み過ぎるとズーンというような痛みを感じる。担当者は私がその痛みを感じたことを察知してその針を若干戻すようである。慣れた先生であれば、恐らくこの戻し量が殆ど無く絶妙の深さで針を止めるのだろう。

 

このまま10分程放置します。私たちは外で打ち合わせをしてきますので、痛くなったとか何かあったら声を上げてください、と言って部屋には私一人になった。