中国で過剰生産されたEVなどが欧州市場に大量に輸出されて問題となっている。中国には年間4000万台の自動車生産能力があるが、中国国内での販売台数は2200万台程度という。品質向上もあってか中国車は徐々に世界各地で受け入れられるようになって輸出台数は増え続け、2023年には約500万台に達した(EVは4分の1)一方で、稼働していないガソリン車工場は多いという。

 

 過剰生産は鋼材でも同様で、2023年の生産量は国内消費量(約9億トン)を1億トン超も上回ったが、不動産販売の低迷などで内需が低迷し、国内では膨れ上がった在庫を処分するため価格が急落した一方、輸出ドライブに拍車がかかっている(中国は世界の粗鋼生産の半分を占める)。過剰生産はソーラーパネル、リチウムイオン電池、アルミなどでも指摘されている。

 

 中国国内の過剰生産が問題になるのは、第一に過剰に生産された製品が世界市場にあふれ出て、安値で各国市場を侵食する、第二に中央政府や地方政府が各種の補助金によって工場建設や設備投資を促した結果、設備過剰となって過剰生産になっているーからだ。中国の過剰生産には政治主導の側面があり、EUや米国が中国に過剰生産の是正や政策転換を求めても中国政府は反発するだけだ。

 

 過剰生産は資本主義につきものの病だとするのが共産主義だ。もっと多くの利潤を得ようと資本家たちは過度の投資を行い、やがて過剰生産から過剰供給になって景気低迷、時には恐慌に至るとする。かつての共産主義国では生産は国家に統制され、旧ソ連などのように日用品を買うためにも人々が行列を作ったように、計画経済国には過少生産が多かった。

 

 中国は1992年、計画経済に資本主義を取り入れた社会主義市場経済を導入すると決定した。改革開放以来の経済発展に伴い市場主義の比重が大きくなっていたが、習近平体制になって計画経済(社会主義)の比重が大きくなっているようだ。そうした中で中国の様々な業種における過剰生産は、市場経済(資本主義)による資本家たちの過度の投資と、計画経済による中央・地方政府の投資奨励策が重なって起きている現象だ。

 

 市場経済(資本主義)と中国共産党による計画経済のメリットが重なって成長が続いた中国で、過剰生産となっているのは市場経済(資本主義)と計画経済のデメリットが重なって生じている現象だ。過剰生産は中国政府の政策の結果でもあるため簡単には軌道修正できず、過剰生産の抑制に動くことは欧米の批判に「負けた」ことにもなるので中国政府は、過剰生産だという指摘を受け入れることができない。

 

 中国が世界経済と切り離されていたなら、過剰生産は供給過剰となって国内市場に襲い掛かり、景気低迷が長引いただろうが、中国は世界市場に参入しているので、過剰な生産物は世界市場にあふれ出る。皮肉なことに、欧米が中国に大々的に投資して製造業を育てた結果として現在の過剰生産がある。だが、欧米が自国の製造業の衰退を座視してきたため欧米の供給力は減り、中国の過剰生産が続いても世界恐慌にはつながりそうにない。