バングラデシュで直近15年間の長期政権を維持し、経済成長を実現するとともに強権的な統治を行ってきたハシナ首相が隣国インドに逃亡し、政権が崩壊した。反政府デモが再燃し、学生らのデモ隊が首相公邸などを占拠した。今回の反政府デモで学生らに300人を超す死者が出るなど警察は容赦ない鎮圧を続けたが、人々の怒りを増しただけだった。

 

 若年層の失業率が高い同国で、1971年の独立戦争の退役軍人の家族に公務員の採用枠の30%を割り当てるという優遇策に対する抗議運動が始まった。だが政府が暴力的に鎮圧し、多数の死傷者が出たため人々の怒りが高まり、反政府デモへと発展した。ハシナ首相はラーマン初代大統領の長女で、独立戦争の退役軍人の家族を優遇することに疑問を持たなかったのだろうが、軍は鎮圧に動かず、民意を見失っていた首相は国外に逃れるしかなかった。

 

 高い経済成長を続けて経済大国になった中国は共産党による独裁統治が続き、習近平氏が最高権力者になって以来、強権的な統治が強化されている。経済成長に伴って民主化が進むだろうという欧米諸国の期待は裏切られ、欧米に対し、かつてのソ連を大きく上回る「敵対国」が誕生、欧米主導の世界秩序に異議を唱え、欧米主導の世界秩序を揺るがしている。

 

 その中国では治安対策が強化され、共産党政府や習近平氏の「独裁」に対する批判は厳しく抑え込まれているようだが、稀に批判の動きが外国にも伝わってくる。最近では、湖南省の歩道橋に「独裁の国賊、習近平の罷免を」などと書かれた横断幕が掲げられ、「自由が欲しい、民主が欲しい、投票用紙が欲しい」とのスピーカーの音声が流れたり、北京の中心部で退役軍人が待遇の改善を求める垂れ幕を掲げた様子が伝えられた。

 

 厳しすぎる行動制限などが続いていた2022年11月には、「ゼロコロナ」政策に対する抗議活動が各地に広がり、参加者が無言のまま抗議の意思を示す白い紙を掲げ、白紙運動と呼ばれた。上海では「習近平は退陣せよ」などと公然と体制批判も行われるまでに発展し、中国政府は厳しすぎる「ゼロコロナ」政策の転換に追い込まれた。白紙運動は大規模な政権批判の抗議活動だったが、中国政府が統制を一層強化することにつながった。

 

 中国の民意が必ず政府に従うものではないとすると、政府の統制強化に対する不満・批判は何かのきっかけで噴出する可能性がある。その場合、中国政府はさらに厳しい治安対策をとるだろうが、それが人々の怒りを倍増させる事態になり、全国各地で政策や体制の転換を求める動きが拡大した場合、数千数万数十万の犠牲をいとわず鎮圧に動くことができなければ、習近平氏は国外に逃亡せざるを得なくなるかもしれない。

 

 ハシナ氏は隣国インドに逃亡できたが、習近平氏はどこに向かうか。民衆の抗議活動により出国を余儀なくされた独裁者を欧米など西側諸国は受け入れないだろうから、習近平氏の向かう先は上海協力機構の加盟国あたりか。ただ、習近平氏が去った中国の新政権が習近平氏の引き渡しを要求する可能性もあり、経済援助や貿易などのため中国との関係悪化を避けたい国は習近平氏を受け入れないだろう。とはいえ、中国に対して習近平氏の引き渡しを交渉材料にできるロシアやインド、イランなどなら、あえて習近平氏を引き受けるかもしれない。