米バイデン大統領が大統領選から撤退することを発表、後継の民主党の大統領候補としてカマラ・ハリス副大統領を支持するとした。ハリス氏が後継候補になることへの支持が民主党内で広がっているともされるが、一方で、トランプ氏に対する支持率は高く、ハリス氏が民主党候補になってもトランプ氏優位を覆すことができるのか不透明だ。

 

 民主党は大統領選での敗北を想定し、上院・下院での民主党の議席確保を重視してバイデン氏に撤退させたという見方がある。高齢不安が高まったバイデン氏が大統領選にとどまり続けると、上院・下院での民主党候補に対する投票行動に影響を与え、上院・下院の過半数を共和党に取られるとの懸念だ。最高裁は共和党が「押さえ」ているので、行政・立法・司法を共和党が掌握すると米国で三権分立は形骸化する。

 

 不人気だとされるハリス氏が大統領選でトランプ氏に勝つことは難しいと見られる中で、ハリス氏はどういう選挙戦を闘うべきだろうか。当選を目指して選挙運動を行うことは確かだろうが、負けるを覚悟で選挙戦を闘うという戦略もある。知名度や認知度を上げることと、政策を訴えることに注力し、次の選挙につなげる闘いだ。

 

 どんな選挙でも候補者は当選を目指して闘うのだが、いつか自分の主張が理解され、いつか自分が支持されると信じて闘うという闘い方もある。当選を目指しつつ落選をも想定し、自分の政策を訴えることを最優先し、対立候補に対する批判は重要視しない。それが信念のある政治家だというイメージにもつながる。ただし、独自の政策が希薄な候補者では、こうした選挙戦略は無理だろう。

 

 かつて自民党の総裁選で三木武夫氏は3回立候補して敗れたが、当時の田中角栄首相が金権批判で退陣した後、推されて首相に就任し、政治資金規制法の改正など政界のクリーン化に努めた。小泉純一郎氏は3回目の立候補で総裁に当選、首相となり、世論調査で80%という高い支持率を得て、構造改革を行った。

 

 三木武夫氏や小泉純一郎氏の施政には限界も偏りもあったが、何度も総裁選に立候補して負けるを覚悟で、その主張を曲げずに訴え続けたことが後の首相就任につながったことは否めないだろう。主流派派閥に適当な人材がおらず、党のイメージの刷新が求められている時に三木武夫氏や小泉純一郎氏の存在と起用は自民党にとって「最後の一手」だった。

 

 負けるを覚悟で闘う候補者の存在は ①次代の候補者の準備、②異論の確保・保存ーなどの意味がある。ハリス氏は当選を目指すだろうが、4年後を視野にトランプ氏とは異なる政策を訴えるという戦略もある。選挙運動を続けるには大金を必要とする米国の大統領選では、4年後を見据えた選挙などという悠長なことは現実に困難だろうが、ハリス氏が民主党候補としてトランプ氏相手にどのような負けっぷりを見せるか興味深い。