デマとは、①事実に反する噂、②悪口や根拠のない噂、③政治的な目的で相手を誹謗し、相手に不利な世論を作り出すように流す扇動的かつ虚偽の情報、④社会情勢が不安な時などに人心を惑わすような憶測や事実誤認による情報ーだ。デマはdemagogyの略で、古代ギリシアで扇動政治家が民衆を扇動するために用いた宣伝・扇動が原義だという。

 

 フェイクニュースは、①メディアやブログやSNSで公開されている本当ではない記事(総務省HP)、②政治的な目的で世論を操作するため、ウェブサイトのアクセス数を増やすため、センセーショナルで面白いからなどと発信・拡散される不確実な情報、③事実とは異なるが真実のように伝えられる情報ーだ。フェイクニュース=デマは確かな根拠がない情報で、フェイクニュースはネット時代の産物だ。

 

 トランプ氏の暗殺未遂事件では、▽シークレットサービスの長官が容疑者を倒す命令を出すのを拒否した、▽銃撃は大統領選に向けてトランプ氏の人気を高めるための演出だ、▽トランプ氏は「安倍元首相の声が聞こえて振り返った」、▽トランプ氏が事件の翌日に「ゴルフに行った」、▽バイデン大統領が暗殺を指示した、▽シークレットサービスがホワイトハウスの命令により意図的にトランプ氏を保護せず、セキュリティ強化の要請を断ったーなどのフェイクニュースが米国で流れたという。

 

 デマに浮き足だって踊らされず、冷静に関連ニュースを集めて検証すればデマだと見破ることは可能だろうが、自己の直感や政治的信条に合致するからとデマを信じたがる人やデマを面白がる人がいて、デマは拡散する。デマは人々の好奇心を刺激するのだが、時には人々に不安や怒りなどの強い感情を抱かせ、人々を行動に向かわせたりすることもある。

 

 政治が絡むと、政敵に不都合なデマを歓迎したり静観したりするが、自己に不都合なニュースならデマだと主張する人々が現れる。人間には知性と理性が備わっているはずだが、政治や利害が絡むと知性や理性は自己の利益のために働き、デマを許容したりもする。知性や理性は主観に影響され、デマの峻別に有効に働くとは限らないとすると、人はデマに無防備かもしれず、デマがあふれる状況が続くことも当然か。

 

 「嘘も百回言えば真実になる」はナチス・ドイツ宣伝大臣のゲッベルスの言葉だそうだが、今はSNSなどで「デマも百回見れば真実だと思う」か。ただし、真実だと思わせるには、デマを信じさせるために都合のいいニュースの断片を散りばめつつ特定の方向へと誘導する主張をさりげなく行う。全体の8〜9割が事実であることが残り2〜1割のデマを人々に信じさせる。

 

 トランプ氏の暗殺未遂事件であふれたフェイクニュースには、米国内の対立を煽る狙いでロシアなど諸外国が関与したものが含まれるだろう。言論戦には国境がなく、常に世界中で激しく展開されているのが現代だと認識するなら、トランプ氏の暗殺未遂事件はロシアなどにとって絶好のネタだ。日本でも大きな地震が起きるたびにフェイクニュースが流れた。国内外からデマは常に湧き出て、撒き散らされる。