食用のために輸入されたチュウゴクオオサンショウウオ。逃げ出したのか放たれたのか定かではないが、やがて野生化して定着した。食用にならずにすんで日本に住み着き、子孫を残して生命のリレーを行っているのだから、静かに見守っていてもいいはずだが、日本在来種のオオサンショウウオとの交雑が問題視され、環境省はチュウゴクオオサンショウウオとその交雑種を、生態系などに被害を及ぼすとして特定外来生物に指定した。

 

 交雑できるほどに近い仲間である日本と中国のオオサンショウウオ。日本では特別天然記念物で絶滅危惧種、中国では重点保護野生動物で絶滅危惧種に指定され、どちらも希少な生物だ。報道によると見た目は「交雑個体や中国種は模様が大きめ、頭部のイボが少なく対になることが多い。在来種は模様が小さめ、頭部のイボが対になることはあまりない」そうだが、交雑種であっても希少なオオサンショウウオの種の保存にとって貴重だろう。

 

 中国では養殖のオオサンショウウオが食べられていて、高級食材になっているそうだが、日本でもかつては食べられていた。北大路魯山人は「山椒魚は珍しくて美味い。それゆえにこそ、名実ともに珍味に価する」「腹を裂き、肉を切るに従って、芬々ふんぷんたる山椒の芳香が、厨房からまたたく間に家中にひろがり、家全体が山椒の芳香につつまれてしまった」「すっぽんを品よくしたような味で、非常に美味であった。汁もまた美味かった」(青空文庫から)。なお天然記念物ではない小型のサンショウウオは唐揚げなどで現在も食べられている。

 

 一方、歓迎されているのが中国産のトキだ。日本産のトキは1952年に特別天然記念物に指定されたが減少は止まらず、1981年に野生のトキが捕獲されて人工飼育に移行した。だが、繁殖は成功せず個体数は減るばかりで、2003年に最後の1羽が死亡し、絶滅した。そこで日本にトキを「復活」させようと、1999年に中国産のトキを導入して人工繁殖に成功し、2008年から毎年のようにトキの放鳥が行われ、現在では野生下での繁殖が実現するなど中国トキは日本で増え始めた。

 

 中国トキと日本トキは、報道では遺伝子の違いは0.065%で個体差レベルとされ、日本トキのDNA型と中国トキのDNA型は共通のものがあり、両者に遺伝的な違いはなく、大陸と日本のトキが行き来して交雑していたことを示すとされる。それで中国トキを日本で人工繁殖で増やし、放鳥して野生に戻して増やすことが国策として続けられている。

 

 チュウゴクオオサンショウウオとその交雑種を特定外来生物に指定したのは日本のオオサンショウウオの「純血」を守るためだろうが、トキは日本で絶滅しているので「純血」を守りたくても、もう守ることはできない。それで日本産でも中国産でもトキには大して違いはないとして、中国トキの導入で、日本のかつての生態系を再現しようとすることが進められ、賞賛されるばかりで批判は封印される。

 

 中国トキは日本の固有種ではないが、日本における生存は歓迎される。中国トキが増えれば日本の生態系に影響を与えるだろうが、チュウゴクオオサンショウウオの存在のようには問題視されない。 ニッポニア・ニッポンという学名を持つからトキは政治的に特別扱いされるのかもしれず、おそらく潤沢な予算措置が続いていて、日本トキの保護から中国トキの繁殖へとトキに関わる人々が多く存在することもトキの「特別待遇」を支えているか。