1997年に発売された初代プリウスは世界初の量産ハイブリッドカーだ。「21世紀に間に合いました」のキャッチコピーで、「既存のガソリン車と同等の走行性能を保ち、約2倍の低燃費とCO2排出量半減などを実現した」(トヨタHP)ことを宣伝していた。EV普及の勢いに翳りが見え、HVが見直されているという現在、HVを実用化したプリウスの功績は大だ。

 

 ずんぐりとしたスタイルの初代プリウスは、低燃費を重視して空気抵抗を少なくする造形で空力性能Cd=0.30を実現したという。だが、ずんぐりして車高が高い4ドアセダンで、短いフロントノーズは前下がり、短いトランクがつく初代プリウスにはスポーティーというイメージは皆無だった。当時は車高が低くてノーズが長く、窓の上下の幅が短いスタイルがスポーティーとされていた。

 

 初代プリウスは、低燃費を実現するという目的を最優先にデザインされ、居住性を確保するために車高を高くした。セダンにこだわったのはセダンが主流だった当時の時代の制約だろう。スポーティーに見せることは放棄され、低燃費=CO2排出量減という先進的な目的に合理的に対応した造形だった。

 

 2003年に登場した2代目プリウスはセダンスタイルから、リアデッキを無くしたハッチバックに姿を変えた。「優れた空力性能とゆとりの室内空間の両立を実現」(同)したというスタイルは、前席乗員の頭部あたりをピークにルーフがなだらかに後部へ向かって下がり続けるデザインで、おそらく風洞実験から見いだされた最適なラインだったのだろう。

 

 SUVの流行もあって現在ではフツーになった5ドアハッチバックというスタイルを世界的に広く認知させたことには2代目プリウスの貢献があったもしれない。2009年にモデルチェンジした3代目プリウスは5ドアハッチバックというスタイルを引き継ぎ、「CD値はさらに向上して0.25となった」(同)。2015年からの4代目プリウスも5ドアハッチバックだが、「重心を下げてアグレッシブなデザインにチェンジ」「攻めのモデルチェンジ」(同)だったが、そのスタイルは好悪がはっきり分かれるものだった。

 

 そして2023年に登場した5代目プリウスはハッチバックスタイルを引き継いだが、各社の品揃えが増えてHVが一般化した状況を踏まえて、外観による差別化を重視して全高を少し低くした4ドアクーペに変身した。Aピラーがかなり寝ていて空力特性を重視するという方針は受け継がれたが、ずんぐりとか奇抜というイメージは払拭され、スタイリッシュとも見える造形に転換した。EVなどが増え、低燃費訴求のイメージをスタイルで表現することは重要視されなくなったか。

 

 歴代プリウスはデザインで先進性イメージを表現しようと模索してきた。低燃費=CO2排出量減という先進的な目的に合理的に対応した造形を続けてきたが、程度の差はあれ低燃費が珍しくなくなった現在、プリウスは低燃費以外の個性を示すことを強いられ、スポーティーさのアピールに転換した。低燃費であってもダルではなく、運転を楽しむことができてスポーティーだと示すことが現在の先進性だと主張しているようだ。プリウスのデザインの変遷には時代の色彩が反映している。