「〜〜させていただきます」との言い方が増殖しているが、「この言葉を聞くたびにイラッとする」と友人。「国会議員が質疑で、質問させていただきますなどと言っているのを見ると、国会質疑で質問するのは議員の責務であり権利だろうが。権利を行使するのに、なんで『させていただきます』なんて言うのか」と友人は怒る。

 

 「させていただきます」は「させてもらう」の謙譲語で、謙譲語とは「 話し手が、自分または話し手側にある所有物、動作、状態等を卑下して表現することにより、相対的に相手や話中の人に敬意を表わす語」だ。相手に対して自分などが相対的に下位にあるものとして、相手に敬意を示すために用いる言葉だ。

 

 友人は「議員は、ていねいで謙虚な言い方だと思っているのだろうが、いちいち相手に同意を求めているように聞こえる」とし、「質問させていただいた議員は、政府側が様々な理由をつけて『返答は控えさせていただきます』などと突っぱねると、質問させていただいた議員側は困惑するだけで、怒って見せるのが精一杯だ」と皮肉り、当然の権利の行使の意味を議員が考えていないと批判する。

 

 「させていただきます」は、自分が行うことを①相手側または第三者の許可を受けて行う、②そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われるーと文化庁の敬語の指針。「させていただきます」には、適切な場合と、あまり適切だとは言えない場合があるが、①②の条件を実際には満たしていなくても、満たしているかのように見立てて使う用法があり、それが「させていただきます」の使用域を広げているとする。

 

 相手などから許可を得ることがなく、恩恵を受けることもないのであれば「させていただきます」は、相手側に媚びている表現となる。与党議員なら政府に質問するときに、大臣連中は与党の実力者である場合が多いから、媚びてしまうのかもしれない。あるいは、与党の実力者や政府から恩恵を受けているという感覚があるから「質問させていただきます」との言葉が自然に出てくるのか。

 

 「選挙に立候補させていただきますとか言い出す候補者もいそうだな」と友人、続けて「当選すれば、己の名誉欲を満たしたり、利権に関与できたり、権力を振り回すことができると候補者が期待しているとすれば、立候補して当選することにより恩恵を受ける。立候補させていただきますという奴らは、己の欲や利益のためだけに動いているんだ」と断じる。

 

 自分の意思で行うことや自分の権利を行使する場合にも「させていただきます」を使う人は卑下して見せて、ささいなミスは見逃してもらえるようにと責任回避のための保険として使っている可能性もある。「させていただきます」が蔓延する社会は、皆が互いに媚びあっている社会なのかもしれない。