米バイデン大統領がアジア系米国人らを招いた資金集めのイベントで、米国の「経済が成長している理由の1つは、移民を受け入れているからだ」とし、「なぜ中国の経済がひどく失速しているのか。なぜ日本は問題を抱えているのか。なぜロシアもインドもそうなのか。それは彼らが外国人嫌いで移民を望んでいないからだ」と述べたという。

 

 この発言は米国への移民を歓迎しているような印象を与えるが、現実の米国はメキシコ側から殺到する移民の対応に苦慮している。取り締まりを強化し、国境沿いに壁を作ったりしているが米国を目指す移民の波は続いている。殺到する移民を持て余したテキサス州などは移民に寛容なニューヨーク州などに移民をバスで送り込むなど移民受け入れをめぐって米国内で賛否の対立さえ起きている。

 

 バイデン氏の父方の先祖はイングランド系で、母方の先祖はアイルランドからの移民だというからバイデン氏も移民の子孫だ。だから移民を称賛するのかと早合点したくなるが、おそらく、移民の活力で米国経済は成長しているとアジア系米国人の歓心を買おうとしたリップサービスが脱線してしまったものか。ちなみにトランプ氏は父方の先祖がドイツからの移民、母親はスコットランド出身だという。

 

 米国の総人口3億3144万人(2020年時点)を人種別に見ると、白人が57.8%で最も多く、ヒスパニックまたはラテン系が18.7%、黒人またはアフリカ系が12.1%、アジア系が6.1%(ほかにアメリカインディアン・アラスカ原住民、混血=複数の人種など)。白人の割合は2010年には63.7%だったので10年間で6割を割り込むまでに低下した。ヒスパニックまたはラテン系は2010年には16.3%だったが2割以上も増加した。黒人の割合はほぼ横ばい、アジア系は2010年に2.8%だったから2倍以上に増えた。

 

 少し古いデータだが米国の総人口を出身民族別に見ると(2000年)、ドイツ15.2%、アイルランド10.8%、アフリカ系8.8%、イギリス8.7%、メキシコ6.5%、イタリア5.6%、ポーランド3.0%、フランス2.8%などとなり、白人が多いので欧州諸国が多い。ちなみに中国0.8%、フィリピン0.8%、韓国0.4%%、日本0.4%、ベトナム0.4%などとアジア系の存在感はまだ少ない。

 

 米国の先住民はアメリカインディアン・アラスカ原住民・ハワイ原住民など各地にいるが少数派となり、米国は移民が形成した国家で様々な出自の移民が時には摩擦を起こしながらも共存する社会となった。最近はメキシコ経由で米国へ入国しようとする中国人が増えているという。約14億人の人口を有する中国には、独裁政治の圧政を嫌って移民を決意した優秀な人材も多いだろうから、経済成長に寄与すると米国が歓迎するかというと、そうでもないようだ。

 

 受け入れた移民が増えると経済が成長するという相関関係は証明されていない。バイデン氏が例に挙げた中国、日本、ロシア、インドの経済停滞には、移民云々よりも個別の事情の影響が大きいだろう。移民が殺到し、受け入れ続けている欧州諸国も経済が順調に成長しているとは見えない。おそらく移民により形成された国家で伝統によるしがらみが薄い米国だから、様々な移民が競い合って活力をもたらし、経済成長につながっていると解釈したほうがいいだろう。つまり、移民で成長した米国は例外的な国家なのだ。