こんにちは。血液内科スタッフKです。

今日は腰椎穿刺の話です。

腰椎穿刺とは、腰から細い針を刺して脳脊髄液を採取する処置です。言葉が骨髄穿刺と似ているので、よく「骨髄ですか?」と聞かれることがありますが(逆もよくある)、全く違う処置です。

髄膜炎や神経疾患の診断のためにされることも多いですが、血液内科ならではのものとしては、白血病や悪性リンパ腫の患者さんで、検査と同時に抗癌剤を直接中枢神経に投与するために行うことがあります。

今回は、有名ではあるのですが、研修医やレジデントを指導していると意外に知らない人も多く、個人的にも教訓的な思い出のある腰椎穿刺の文献を2つご紹介します。

How Do I Perform a Lumbar Puncture and Analyze the Results to Diagnose Bacterial Meningitis?
Sharon E et al, JAMA. 2006;296(16):2012-2022.

Incidence of post-lumbar puncture syndrome reduced by reinserting the stylet: a randomized prospective study of 600 patients.
Strupp M et al, J Neurol. 1998 Sep;245(9):589-92.

腰椎穿刺の合併症として、処置後に頭痛がみられることがあります。主には髄液が失われ、低髄圧になることが原因のようです。これを防ぐために、処置後一定時間(術者や施設によって異なる)安静にするということがよく行われます。実際、私も研修医のころ上の先生からそう習って、ずっとそれを守ってきましたが、実は腰椎穿刺後の安静が頭痛を防ぐというエビデンスはありません。

JAMAに掲載されたレビュー(上のほうの文献です)を読んでみますと、むしろ安静にしないほうが頭痛が起こりにくい傾向が見てとれます。少なくとも、安静にしたからといって頭痛を減らすことはないと言えます。

「じゃあ、どうやったら頭痛を防げるの?」という話になりますが、誰でも簡単にできる方法が一つあります。

それは、処置が終わったときに内筒(スタイレット)を戻してから針を抜くことです。

「こんな簡単なことで?」と思いますが、これにはきちんとエビデンスがあります(下のほうの文献です)。腰椎穿刺が必要な600症例をスタイレットを戻す群と戻さない群に分けて、処置後の頭痛を前向きに比較した研究です。これによると、スタイレットを戻す群では頭痛が起こったのは300例中15例だったのに対し、戻さない群では49例と統計学的に有意に頭痛の頻度が増加しました。

はっきりした理由はよくわかっていませんが、スタイレットを戻さないと"strand of arachnoid (クモ膜の糸状の構造物)"が穿刺針の内腔に入り、針を抜くときにそれが硬膜の外に引き出されてしまうことにより、髄液が漏出するからと推測されているようです。

これに気が付いた人ってすごいですよね!?

当然の常識と思い込んでしまいがちなことでも、そこに疑問の目を向けて、一つ一つ検証していくって大切ですね。非常に臨床的ですけど、こういうことが本当のサイエンスだなぁと感じさせる素晴らしい研究だと思います。

腰椎穿刺でもまだまだ改善する余地があるのですから、自分たちの医療ももっともっと改善すべく日々精進していきたいものです。