【お知らせ】
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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

今回は、BloodよりPOLARIX試験の追加解析で、患者が報告したアウトカムと臨床医が報告した有害事象とを比較した解析についてご紹介いたします。

 

PROs vs clinician-reported adverse events in a large clinical trial: findings from the phase 3 POLARIX study

Thompson C et al, Blood 2026, doi: 10.1182/blood.2025028848

 

【要旨】

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は、症例ごとに症状が多様であり、疾患そのものと治療効果との間に存在する複雑な相互作用が、health-related quality of life(HRQoL)に影響を及ぼすことから、血液学にとって重要な課題を突きつけている。第Ⅲ相POLARIX試験では、未治療DLBCL患者において、ポラツズマブ・ベドチンにリツキシマブ、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロンを併用したPola-R-CHP療法が、R-CHOP療法(リツキシマブ、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロン)と比較して、有意な無増悪生存期間の延長と同等の安全性プロファイルを示した。本報告では、POLARIX試験における患者経験をより十分に特徴づけるため、患者報告によるアウトカム(patient-reported outcomes, PRO)尺度を用いてHRQoLを評価した。

一般的な症状の頻度および重症度に加え、HRQoLのベースラインからの変化、リンパ腫関連症状、胃腸(gastrointestinal, GI)症状を評価し、PROsによる評価と臨床医が報告する有害事象(adverse events, AEs)とを比較した。PRO評価対象患者のベースライン特性(N=874)は両群で一貫していた。PROsと臨床医報告AEsの比較から、顕著な不一致が明らかとなった。患者は一般に、臨床医よりも高い頻度で症状を報告しており、患者経験を正確に捉えるためには、患者を主体とした評価ツールが必要であることが示唆された。

いずれの治療法においても、HRQoLおよびリンパ腫関連症状の迅速かつ持続的な改善が認められ、全体的な健康状態/QoL、リンパ腫関連症状、疲労、役割機能、感情機能、社会機能において、最も大きな臨床的に意味のある改善がみられた。GI症状(下痢、便秘、悪心、嘔吐)は概ね両治療群で同等であり、治療完遂後にはベースラインへ回復した。

これらのHRQoLデータは、Pola-R-CHPを含む新規治療の有効性および忍容性を評価する際に、臨床医が報告するAEsとPROsを併用することで相補的な情報が得られることを強調しており、未治療DLBCLにおける患者報告によるHRQoL評価の新たなベンチマークとなる可能性がある。

 

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化学療法において、有害事象を評価するのにCTCAEを用いてグレードを付けるというのは一般的な対応で、例えば治療の中断・継続を判断するなどの局面で非常に有用なことは事実なのですが、日々患者さんに接していると、CTCAEでは決して測ることの出来ない有害事象(というより「苦労」や「想い」などの言葉の方が近い)を抱えていらっしゃるのを感じます。PROは文字通り患者さん自身が報告する症状のツールであり、予想通り臨床医が報告する有害事象と比較するとかなりの隔たりがあります。これはどちらが優れている、というよりもお互いを補完する尺度なのだと思います。臨床試験的な視点でいうと、このような「違い」を数値化する重要性が示唆されますし、私のような臨床医からすると、CTCAEからこぼれ落ちる見えないニーズに目を向ける視点が必要なのだと感じました。

 

おまけ

 

 

白菜をベースに、鰹昆布の合わせだしで仕上げた(ほぼ)無水雑煮です。

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こんにちは。スタッフTです。
 

今回は年初めなので、明るい感じの論文をご紹介します。

Music therapy versus cognitive behavioral therapy via telehealth for anxiety in cancer survivors: a randomized clinical trial
Liou KT et al, J Clin Oncol 2026, doi: 10.1200/JCO-25-00726

【背景】

がんサバイバーにおける不安は放置されがちである。認知行動療法(CBT)がfirst-lineの治療だが、すべての患者がアクセスできる訳ではないし、全員に反応が良好という訳でもない。また、CBTへの偏見で希望されないことも多い。一方、音楽療法は短期間の不安を和らげる効果があることはわかっている。ただ、長期間の不安を和らげるかどうかはわかっておらず、音楽療法がCBTと比べて非劣性かどうか、今回のランダム化比較試験で調査した。

【方法】

英語話者orスペイン語話者のがんサバイバーを、CBTか音楽療法へランダムに割り付け、それぞれの治療をzoomで週1回合計7回行った。主要評価項目は不安・抑うつのスケール(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS)が8週後時点、26週後時点で改善したかどうかとした。


非劣性マージンは0.35標準偏差で、clinically important difference(MCID:臨床的に意味のある点数)は1.7点とした。副次的評価項目としては倦怠感、抑うつ、不眠、痛み、認知障害、健康関連QOLを評価した。

【結果】

300人の患者が参加した。うち74.7%が女性で、76.5%が白人、19%がヒスパニック系だった。8週目のHADS不安スコアの変化の中央値はCBTで-3.12点、音楽療法で-2.97点だった。グループ間の違いは-0.15点にとどまった(非劣性のマージンは1.20点)。
26週目のHADS不安スコアの変化の中央値はCBTで-3.00点、音楽療法で-3.31点だった(非劣性のマージンは1.28点)。
両方のグループともに不安が改善し、MCIDを上回る効果が得られた。

【結論】

音楽療法はがんサバイバーの不安においてCBTに対して非劣性だった。どちらの遠隔療法も臨床的に意味のある不安の改善をもたらす。

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今回採用された音楽療法は、音楽を聴くだけではなく、セラピストと一緒に曲を作るという内容なので、同じ治療を誰でもすぐに施行できるという訳ではありません(だからこそzoomでの開催なのでしょうが・・・)。
 

ただ、音楽の力を感じさせてくれる良い論文だと思いました(あと、このブログの初期を思い出させてくれる論文でした)。

おまけ
 

 

この前初めて「ビリヤニ」というものを食しました。特につけあわせのヨーグルトときゅうりのサラダ(ビリヤニの奥に見える白い物体)が気に入ったので、レシピを探してときどき家でも作っています。

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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

年末恒例?のNEJM論文を今回も紹介していきます。ついに、という気のする血友病Bに対する遺伝子治療の第Ⅲ相試験最終解析結果です。

 

Final Analysis of a Study of Etranacogene Dezaparvovec for Hemophilia B

Pipe SW et al, N Engl J Med 2025, doi: 10.1056/NEJMoa2514332

 

【背景】
血友病Bに対する予防的治療は、生涯にわたり定期的な第Ⅸ因子の経静脈的注入を必要とする。遺伝子治療は、持続的な内因性第Ⅸ因子の発現と疾患制御をもたらす単回治療となる可能性を有する。Etranacogene dezaparvovecは、adeno-associated virus serotype 5(AAV5)ベクターと、高活性なPadua第Ⅸ因子バリアントから構成される。本研究の一次解析において、etranacogene dezaparvovecは年間出血率を低下させ、有害事象の大部分は軽症であった。本稿では、観察期間5年の最終解析データを報告する。

【方法】
本非盲検第Ⅲ相試験では、男性の血友病B患者(第Ⅸ因子活性レベル2 IU/dL以下)を対象とし、AAV5中和抗体の有無にかかわらず、第Ⅸ因子による予防的治療のリードイン期間(6カ月以上)の後に、etranacogene dezaparvovecを単回投与した。事前に規定された5年後の解析には、修正年間出血率(治療開始後7カ月から遺伝子治療後60カ月と、リードイン期間との差)、第Ⅸ因子の発現、および安全性アウトカムが含まれた。

【結果】
全解析集団(54人)において、全出血イベントに対する修正年間出血率は、リードイン期間の4.16に対し、7カ月から遺伝子治療後60カ月では1.52となり、63%の減少が認められた(95% CI, 24–82)。5年間の観察期間を通じて内因性第Ⅸ因子の発現は安定しており、5年時点での平均(±標準偏差)第Ⅸ因子活性レベルは36.1±15.7 IU/dLであった。ルーチンの予防および出血イベント治療のための外因性第Ⅸ因子使用量は96%減少し、リードイン期間では年間257,339 IUであったのに対し、7カ月から遺伝子治療後60カ月では10,924 IU/年であった。ベースラインでのAAV5中和抗体の有無による有効性の実質的な差は認められなかった。6カ月以降に試験治療と関連する可能性のある有害事象はまれであった。

【結論】
Etranacogene dezaparvovecの投与後、5年間にわたり持続的な第Ⅸ因子発現と、低い年間出血率が観察された。

 

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先天性血友病Bは極めて稀な疾患で、血友病Aと同様に不足する第Ⅸ因子を補充していく以外に有効な治療選択肢が乏しいのが現状です。NEJMでも定期的に遺伝子治療の論文が掲載され、今までもご紹介していますが、今回は第Ⅲ相試験まで行ったというところで感慨深い論文になります。当初の報告通りに単回治療に関わらず、持続的な第Ⅸ因子発現と、それに伴い出血イベントを確実に抑制していることが証明されました。

 

遺伝子治療は投与そのものに厳重な管理が必要だったり、長期間の有害事象(ウィルスに起因する発がんなど)の検証など、まだまだすべきことはありますが、一般にも少しずつ広がっていくと良いなと思います。

 

おまけ

 

 

またしてもただの夕食ですみませんが、名も無き無水煮込みを作りました。根菜が美味しい季節になりましたね。