【お知らせ】
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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

年末恒例?のNEJM論文を今回も紹介していきます。ついに、という気のする血友病Bに対する遺伝子治療の第Ⅲ相試験最終解析結果です。

 

Final Analysis of a Study of Etranacogene Dezaparvovec for Hemophilia B

Pipe SW et al, N Engl J Med 2025, doi: 10.1056/NEJMoa2514332

 

【背景】
血友病Bに対する予防的治療は、生涯にわたり定期的な第Ⅸ因子の経静脈的注入を必要とする。遺伝子治療は、持続的な内因性第Ⅸ因子の発現と疾患制御をもたらす単回治療となる可能性を有する。Etranacogene dezaparvovecは、adeno-associated virus serotype 5(AAV5)ベクターと、高活性なPadua第Ⅸ因子バリアントから構成される。本研究の一次解析において、etranacogene dezaparvovecは年間出血率を低下させ、有害事象の大部分は軽症であった。本稿では、観察期間5年の最終解析データを報告する。

【方法】
本非盲検第Ⅲ相試験では、男性の血友病B患者(第Ⅸ因子活性レベル2 IU/dL以下)を対象とし、AAV5中和抗体の有無にかかわらず、第Ⅸ因子による予防的治療のリードイン期間(6カ月以上)の後に、etranacogene dezaparvovecを単回投与した。事前に規定された5年後の解析には、修正年間出血率(治療開始後7カ月から遺伝子治療後60カ月と、リードイン期間との差)、第Ⅸ因子の発現、および安全性アウトカムが含まれた。

【結果】
全解析集団(54人)において、全出血イベントに対する修正年間出血率は、リードイン期間の4.16に対し、7カ月から遺伝子治療後60カ月では1.52となり、63%の減少が認められた(95% CI, 24–82)。5年間の観察期間を通じて内因性第Ⅸ因子の発現は安定しており、5年時点での平均(±標準偏差)第Ⅸ因子活性レベルは36.1±15.7 IU/dLであった。ルーチンの予防および出血イベント治療のための外因性第Ⅸ因子使用量は96%減少し、リードイン期間では年間257,339 IUであったのに対し、7カ月から遺伝子治療後60カ月では10,924 IU/年であった。ベースラインでのAAV5中和抗体の有無による有効性の実質的な差は認められなかった。6カ月以降に試験治療と関連する可能性のある有害事象はまれであった。

【結論】
Etranacogene dezaparvovecの投与後、5年間にわたり持続的な第Ⅸ因子発現と、低い年間出血率が観察された。

 

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先天性血友病Bは極めて稀な疾患で、血友病Aと同様に不足する第Ⅸ因子を補充していく以外に有効な治療選択肢が乏しいのが現状です。NEJMでも定期的に遺伝子治療の論文が掲載され、今までもご紹介していますが、今回は第Ⅲ相試験まで行ったというところで感慨深い論文になります。当初の報告通りに単回治療に関わらず、持続的な第Ⅸ因子発現と、それに伴い出血イベントを確実に抑制していることが証明されました。

 

遺伝子治療は投与そのものに厳重な管理が必要だったり、長期間の有害事象(ウィルスに起因する発がんなど)の検証など、まだまだすべきことはありますが、一般にも少しずつ広がっていくと良いなと思います。

 

おまけ

 

 

またしてもただの夕食ですみませんが、名も無き無水煮込みを作りました。根菜が美味しい季節になりましたね。

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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

ASHからの論文を鋭意掲載しているところですが、今回は新規CAR-T細胞療法の第Ⅰ相試験をご紹介いたします。

 

Universal Base-Edited CAR7 T Cells for T-Cell Acute Lymphoblastic Leukemia

Chiesa R et al, N Engl J Med 2025, doi: 10.1056/NEJMoa2505478

 

【背景】
再発難治性T細胞リンパ芽球性白血病(ALL)のキメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法の標的として、CD7は魅力的である。TCRαβ、CD52、CD7の3つの分子を、脱アミノ化を介してシトシン(C)をチミジン(T)へとノックアウトした塩基編集抗CD7 CAR-T細胞(BE-CAR7)を用いた、ヒトを対象とした初の臨床試験において、有望な結果が報告されている。

【方法】
今回の第Ⅰ相試験では、再発難治性T細胞ALLの小児患者(16歳以下)を対象に、フルダラビン、シクロフォスファミド、アレムツズマブを用いたリンパ球除去化学療法を実施後、BE-CAR7 T細胞を投与した。成人患者では、compassionate-use access arrangement(訳注:他に治療選択肢がない重篤かつ致死的な患者を対象として、開発段階にある薬剤使用を許可する特別なプログラム)も適格とした。BE-CAR7 T細胞輸注後28日までに寛解が得られた患者は、同種造血幹細胞移植へと進んだ。主要評価項目は安全性である。副次評価項目には寛解持続期間、無病生存率、全生存率が含まれた。

【結果】
9人の小児患者と、compassionate-use access arrangementにより2人の成人患者にBE-CAR7 T細胞が輸注された。リンパ球除去化学療法およびBE-CAR7 T細胞の輸注により、許容できない有害事象は認められず、すべての患者でCAR7 T細胞の循環が検出された。合併症として、グレード1から4のサイトカイン放出症候群、一過性の発疹、多系統の血球減少、日和見感染が認められた。すべての患者で、28日目の時点で血球回復が不完全な形態学的完全寛解が得られた。

9人(82%)で深い寛解(フローサイトメトリーまたはPCR検査による)が得られ、造血幹細胞移植へと進むことができた。一方、2人では骨髄で定量可能な微小残存病変を認めたため、緩和ケアが行われた。移植により残存するBE-CAR7 T細胞は駆逐され、ドナー由来の多系統血球再構築を補助した。ウイルス再活性化の頻度は高く、3人の患者が移植後に臨床的に有意なウイルス関連合併症を発症した。全体として、試験治療を受けた11人のうち7人(64%)で、移植後3〜36カ月時点で寛解が継続しており、2人の患者ではCD7発現を欠いた白血病細胞が検出された。

【結論】
一般ドナー由来のBE-CAR7 T細胞は、再発難治性T細胞ALL患者において寛解を誘導し、その結果として多くの患者で造血幹細胞移植を成功させることができた。

 

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今回の論文は2023年に発表されたものの続報になります。ブログ記事も貼っておきます。

 

 

非常に素晴らしい技術を用いて作成されたCAR-T細胞を用いた治療で、是非第一報の方もご覧いただきたいですが、症例数を増やしての第二報となります。第一報に引き続き、厳しい患者群に対して驚異的な効果をもたらしております。一般に行き渡るまでどのくらいか分かりませんが、CAR-T細胞療法が苦手とするT細胞性悪性腫瘍に対する大きなブレイクスルーになることが期待できます。

 

おまけ

 

 

ただの夕ご飯ですみませんが、鶏とキャベツと山芋などをニンニクとごま油で無水煮込みしたものです!

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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

NEJMの第三弾ですが、再発難治性多発性骨髄腫に対するテクリスタマブーダラツムマブ併用療法の第Ⅲ相試験をご紹介いたします。

 

Teclistamab plus Daratumumab in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma

Costa LJ et al, N Engl J Med 2025, doi: 10.1056/NEJMoa2514663

 

【背景】
第Ⅰ–Ⅱ相試験において、T細胞表面のCD3と骨髄腫細胞のB-cell maturation antigen(BCMA)を標的とする二重特異性抗体であるテクリスタマブは、濃厚な前治療歴のある再発難治性多発性骨髄腫患者において持続的な奏効を示した。CD38蛋白を標的とするモノクローナル抗体であるダラツムマブは、多発性骨髄腫患者の生存に有益であることが示されている。

【方法】
本第Ⅲ相試験では、1~3ラインの前治療歴を有する多発性骨髄腫患者を、テクリスタマブ–ダラツムマブ群、またはダラツムマブとデキサメタゾンに試験参加医師が選択するポマリドミド(DPd)もしくはボルテゾミブ(DVd)を併用する群(DPdまたはDVd群)にランダム化割付した。主要評価項目は、独立した評価委員会による無増悪生存期間であった。

【結果】
合計587人がランダム化された(テクリスタマブ–ダラツムマブ群291人、DPdまたはDVd群296人)。観察期間中央値34.5カ月時点で、無増悪生存期間はDPdまたはDVd群と比較してテクリスタマブ–ダラツムマブ群で有意に延長していた。36カ月時点の推定無増悪生存率は、テクリスタマブ–ダラツムマブ群で83.4%、DPdまたはDVd群で29.7%であった(ハザード比 0.17;95% CI 0.12–0.23;P < 0.001)。DPdまたはDVd群と比較して、テクリスタマブ–ダラツムマブ群では完全寛解以上(81.8% vs. 32.1%)、全奏効率(89.0% vs. 75.3%)、微小残存病変陰性化率(10⁻⁵;58.4% vs. 17.1%)が高かった(すべての比較でP < 0.001)。

重篤な有害事象は、テクリスタマブ–ダラツムマブ群で70.7%、DPdまたはDVd群で62.4%に認められた。有害事象による死亡は、それぞれの群で7.1%および5.9%であった。

【結論】
1~3ラインの前治療歴を有する多発性骨髄腫患者において、テクリスタマブ–ダラツムマブは、DPdまたはDVdと比較して無増悪生存期間を有意に延長した。

 

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今回のASHでも特に注目度が高かった演題だと思うのですが、再発難治性多発性骨髄腫においてテクリスタマブ–ダラツムマブがDPdまたはDVdに圧勝の結果を残しました。DPdやDVdの効果に驚いていたのも今や昔という感じでしみじみしました。サブグループ解析を見ても、どのサブグループでもテクリスタマブ–ダラツムマブ群で良好な成績が出ております。欠点はやはり合併症で、感染症を中心に注意が必要だと思いましたが、この結果が得られるであればしっかり管理して乗り切っていきたいですね。今後の動向にも注目したいと思います。

 

おまけ

 

 

白菜をカツオ昆布の合わせだしで煮たものです。