3分間隔の陣痛が始まってから、3時間が経った。
汗ぐっしょりになり、スポーツドリンク4本を飲みきった。
もう、力みたいのを我慢するのがつらい。
テニスボールでお尻の穴付近を押さえると少し楽になった。
看護師さんが様子を見に来た。
オムツをはずし、指をつっこまれる。
そして、「まだかなぁ」と言った。
去ろうとする彼女の腕を掴み、必死に訴える。
一度、離れると10分は戻って来てくれないのだ。
「行かないで!見て!もう一度ちゃんと見て!」
看護師さんからしたらもう一度見ようが、
まだなものはまだなのである。
私の泣きの頼みは虚しく、
「もう少し頑張る」ことになった。
力んではダメと言われたが、
もう何回か力んでしまった。
そのうち、おしっこをもらしてしまった感覚になった。
「おしっこ出た。」と目を白黒させて、
お義母さんに言うと、
お義母さんはじーっと私を見てから、
「そろそろね」と言ってナースコールを押した。
看護師さんが確認すると、どうも破水しているようだった。
「では、移動します」
ヤッター!心の中でガッツポーズをした。
ゴールまであと少しだ。
ゆっくり歩いて隣の分娩室へ。
分娩室は寒く、乗せられた分娩台も冷んやりしていた。痛みでほとほと疲れ果てているのに、
暖房くらい入れといてほしいと怒りが湧いた。
さらに、分娩室には私と看護師さんが一人。
私に点滴したり、機械を用意したり、全部一人で行なっている。
手袋をし、ぼうしをかぶり、エプロン結ぶ。
そのエプロンを結ぶことの遅さったらない。
早く!早くして!
普段はのんびり屋の私も、
痛みで短気になってイライラした。
ようやく私の股の方へ移動して、
管を尿路に通された。
すると、意図せずに私の尿は排泄された。
「はーい。
では破水しますね。」
直後、股から温かい水がバシャバシャと流れて出た。
「では、一番痛い時にりきんでね。」
そう。何度も言うが、陣痛の痛みには波がある。痛い時は100%痛いが、痛くない時は0%痛くない。
この0%の時に目をつぶって、うまく休憩しなくてはいけない。
くぅーキタキタキタキタ!
「うーーーーーん!」
この時、口をふくまらせてはいけない。
マタニティスイミングの先生に言われたのだが、
口の周りの血管が切れて、産後猫の髭のような痕が残ってしまうとのこと。
また、声も出してはいけない。力が逃げてしまうらしい。
その点を意識して、
息を止め、思いっきり力む。
出ていけ!全部!出ていけ!
1.2.3.4.5.6.7.8.9.10...
ぷはぁ!ふぅー!ふぅー!
力を込める時はできるだけ長いほうがいい。
そのためにはやっぱり体力と腹筋が大事だ。
「上手ねぇ。」
へへへ。
マタニティスイミングでレッスンした甲斐があった。
一度、タイミングを失敗して、弱い陣痛の時に力んだ。
しかし、それだと、全く力がはいらない。
明らかにからぶった感じだ。
「今は無理よ。」
看護師さんにもバレてしまった。
ここはやっぱり赤ちゃんと息を合わせないとならないのだ。
「頭が見えてきたよ。」
出てきている感覚はまったく分からない。
とにかく、ピーク時に力む!それだけだ。
約10回目。
うーーーーん!!!
もう体力の限界。
そろそろ出てきてほしい。
すると、男の先生が入ってきた。
「〇〇の〇〇です。今日、担当させて頂きます。」
なんて丁寧に自己紹介しているがそれどころではない。
どうやらクライマックスはこの先生が対応してくれるらしい。
そして、さらりと会陰切開をされたらしい。痛みなんてない。
うーーーーん!!!
本当に便秘のときの固いうんこをしている感覚だ。
すると、するんと何かが出た。
出た。出た。
やっと出た。
先生はすぐに処置をしてくれている。
胎盤を出したり、会陰を縫ったり。
私はぐったりしていて、何とかホルモンのおかげで何をされても痛くも痒くもない。
「赤ちゃん、指5本あります。目も鼻も口もありますよ。」
と看護師さん。
そうして、私の顔元にぐちゃぐちゃに濡れてる赤ちゃんを置いた。
頭がイビツで、顔が真っ赤だ。
ようやく、
ああ、ちゃんと産まれてきてくれたんだと思えた。
妊娠中に
赤ちゃんに最初にかける言葉を考えていた。
「ようこそ!素晴らしい世界へ!」とか。
だけど、出てきた言葉は、
「やっと出てきたね。」
素直な気持ちだった。
無事に1時間半の分娩が終わった。
陣痛は死ぬほどつらかったけど、
産む時は痛くなかった。
その後約1ヶ月はトイレで大便をする度に、
出産時を思い出し、
痛みやら感動やらで涙ぐんでいた。
おわり