起立性調節障害は、立ちくらみ、失神、朝起き不良、倦怠感、頭痛などの症状を伴う、思春期(10―16歳)に好発する自律神経機能不全です。軽症例を含めると中学生では約10%の有病率で、重症例になると日常生活が著しく損なわれ、長期に及ぶ不登校や引きこもりの原因にもなります。
[症例]
中学生の男児。 もともとあった立ちくらみが、X年2月上旬より悪化した。朝はなんとか起きるものの、気分不良で遅刻するようになった。2月下旬には、気分不良、嘔気、頭痛が1日中持続して学校に行けなくなった。3月に小児科で内服治療、カウンセリングを開始したが改善しない。4月に当科を紹介受診。
[現症]
体格やせ型。起立すると立ちくらみと動悸。口渇があるが、飲水は1L/日未満。尿2-3回/日と少ない。幼少時から乗り物酔いしやすい。
[経過]
初診時:苓桂朮甘湯りょうけいじゅっかんとうエキス3包分3を開始した。
1週間後:漢方薬を飲み始めてから調子が良い感じ。
きついと言いながらも学校に行けるようになった。
元気と食欲が出てきた様子。
母に「おなかがすいた」「行ってきます」と言うようになった。
(これまでになかったことで、母が驚いている。)
1ヶ月後:遅刻せずに毎日登校できている。
2ヶ月後:梅雨に入って、ちょっときついけど大丈夫。
3ヶ月後:部活で県大会に出場。治療終了。
漢方ではめまいは水分代謝が悪い状態(水毒すいどく)が原因で起こると考えます。苓桂朮甘湯は、水分代謝を調節する漢方薬で、めまいの中でも特に起立性めまい、立ちくらみに頻用します。めまい以外にも頭痛、動悸、倦怠感が苓桂朮甘湯の使用目標となり、起立性調節障害の症状と類似しています。最近では、コロナ禍における自粛、学校や家庭でのトラブル、スマホやゲームへの依存など問題が複雑にからまった症例も増えていますが、体質的な問題が主体な上記のような症例では短期間で改善することも多いです。
また難治性であっても、症状にあわせた漢方薬の服用とともに適度な運動やスマホ・ゲームの制限などを指導しながら当科では治療にあたっています。
執筆:Y先生