自然人は権利義務の帰属主体であるというが、死亡してしまえば帰属主体としての存在で
はなくなる。生前の意思表示としての「遺言書」ないし「遺言」は、生前の行為であるから有効
となるにすぎない。現行民法の規定からはそう理解する事になる。しかし、一般的な通常の理
解からすれば、死後の現状変更は、生前当事者の意思表示の結果というよりは、現在存在す
る人間の行為によってこそ実現される。つまり、「遺言書」ないし「遺言」の実現は、たとえ生前
の意思表示があるにせよ、現在存在する人間の理解と協力なしには実現不可能であると言え
る。本来、最大限度尊重されるべき主体である意思表示をした本人の力がその程度であると
言ってしまうのは何か少し悲しい感じがする。私は、本人意思を最大限度尊重したいとする立
場であるから、本人意思の実現に軸足を置いた考え方をする傾向が強いと思っている。その
方が正義にかなっていると考えているからである。現行法も少しづつであるが改正され、「遺
言書」が残りやすいような施策が実現されている面はある。しかし、必ずしも絶対というわけで
ないのと、やはり実現に現在存在する人間の理解と協力が非常に大きく関わる点においては
従来同様である。私見からすれば更なる改正も必要なのではないかと思われる。例えば、専
門の保存機関・執行機関の設置であるとか、遺言者の「遺言書」ないし「遺言」の作成方法の
多様化等も考えられうる。今後の展開しだいであると思っている。