料理撮影で学んだ料理のコツと、母の忠告 | 飯島 愛ちんのガッタス・オスピタル

飯島 愛ちんのガッタス・オスピタル

よちよちぶらぶらチ~ンブログ

〈住人プロフィール〉
カメラマン(女性)・35歳
分譲マンション・2LDK・東京メトロ東西線 早稲田駅(新宿区)
築年数約30年・入居5年・夫(会社員・39歳)と2人暮らし

    ◇

 台所の壁には、東北やベトナム、チェコで買ったざるがかかっている。野菜を載せたり、麺をさらすのに使うのだという。古道具店で買った茶だんすには、作家ものや海外の旅先で買った焼き物がびっしり。結婚5年目、35歳にしてはわりに渋い趣味で、長年生活になじんだように見えるそれらからは、独特の落ち着いた雰囲気が漂う。築30年のレトロなマンションだからだろうか。

 

 住人の彼女は、写真を学んでいたアメリカで、日本人の夫と知り合い2009年帰国。カメラアシスタントを経て、3年後に独立した。翌年、結婚と同時にこのマンションを買い、今に至る。

 

 会社員の彼とは、夕食だけはなるべく一緒に取るようにしている。
「夫の帰宅を待って23時頃から作ります。夜遅いので、なるべく野菜多めでおつまみが中心。炭水化物は減らしています。彼は外食があまり好きでないのと、私もいろんな地方や国のスパイスを使って料理をするのが好きなので。一日画像処理をしたあとなど、料理はむしろ気分転換になりますね。どうしても疲れたときは、知り合いのお店の冷凍定期便やUber Eatsを使います」

 

 アメリカでは日本料理店でバイトをしながら、一人のシェフを数カ月追いかけて撮るなど食に興味はあったが、実際に料理に目覚めたのは帰国してからだ。
「料理家の仕事を撮影することが多く、プロセスカットを撮っているうちに、自分も作りたくなったのがきっかけです。今日撮ったあの料理は、どうやって作るんだろうと、自宅で再現するようになりまして」

 

 しかし、レシピ通りに作っても、料理家のそれとはどこか違う。やがて、プロとの決定的な違いに気づいた。
「切り方と下ごしらえのひと手間が違うんです。どう切ったら、一番おいしくなるかを考え抜いている。なにか特別すごい調味料を使ったり、足したりするわけではないんですね」

 

 たとえば、ガパオライスに入れるパプリカは白い部分を丁寧に取り除き、斜め切りにする。これは舌触りを良くするためだ。また、料理にもよるが、トマトは湯むきをして食べやすくする。
「湯むきするだけで、トマトは絶対おいしくなると、料理の先生はおっしゃいます。なかには、きゅうりをバサッとぶつ切りにしたのは食べられないけれど、薄い斜め切りなら食べられるという料理家もいます。それを聞いて、同じ食材でも、切り方によって味が変わるんだなと知りました」

 

 もう一つ、プロならではのコツがある。それは、盛り方だ。
「日本料理は、上に盛り上げていくとおいしそうにみえます。なるべく大きなお皿の真ん中に、縦に積み上げて、余白を残す。天ぷらも上に積む。フレンチも余白を生かして中央に盛り付けますよね。私はフレンチでも段差をつけて、和食のように積み上げるスタイルが好きです」
 シンプルな食材と料理でも、切り方、盛り方一つでぐっと美しく、食卓に映えるひと品になる。

 

 こだわりの器選びも料理家の影響かと思いきや、こちらは故郷高知で4姉妹を育てあげた母のひとことにルーツがある。
 アメリカから帰国し、ひとり暮らしを始めたころのことだ。
「器は、なかなか壊れない。だから、けして衝動買いをするな、思いつきで100円ショップなどで買わず、いいものを選びなさいと。私たちが幼い頃、お誕生会で人からもらったキャラクターものが、今も壊れずにあって、捨てるに捨てられず、困ったらしいんです。母自身はキャラクターものやプラスチックは苦手なんですが。たしかに丈夫ですよね。だから、高くても一生愛せる好きなものを買えとよく言われました」

 

 その母は、「料理道具もいいものを」と、岩手のまな板と包丁をもたせてくれた。
 なるほど、それでわかった。
 レトロなマンションだからではない。母を通して、モノ選びのものさしを学んだから、独特の落ち着いた空気が醸成されているのだ。
 さて、もしも小さい家族が増えたら、彼女はどんな器を選ぶだろうか。また訪ねてみたい気がした。

 

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