トランプ発言で台湾有事まで〝あと一歩〟か 

1.習主席へ「力による現状変更」容認とも受け取れるメッセージと「チェンバレンの罠」。【八木秀次 突破する日本】 米大統領選に向けて10日夜(現地時間)に行われたテレビ討論会で、共和党候補トランプ前大統領は、司会者から二度にわたって「ウクライナの勝利を望むか」と聞かれたが、明言を避け「この戦争を終わらせることが米国の最大の利益だと思う」と強調した。

 

2.米紙NYTは、米国の軍事支援が停止されるのではないかとウクライナ側で不安が広がっていると伝えている。 ロシアによるウクライナ侵攻は「チェンバレンの罠」によって生じたとされる(細谷雄一氏「政治指導と軍事指導は車の両輪」『中央公論』9月号)。チェンバレンとは1938年、ナチス・ドイツによるチェコスロバキアのズデーデン地方の割譲を容認した英国首相チェンバレンのことだ。 チェンバレンは「はるか彼方の、われわれが何も知らない人たちの間の対立だ」と述べて、ミュンヘン会談でドイツのヒトラー総統の主張を認めてしまった。「チェンバレンの罠」だ。

 

3. ウクライナについても同様で、2014年にロシアがクリミア半島を奪取した際、当時のバラク・オバマ米政権は十分に強い抵抗を示さなかった。21年8月、現ジョー・バイデン米政権がアフガニスタンから米軍を撤退させ、同年12月にロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナとの国境に兵力を結集し始めたとき、バイデン大統領は「米国とロシアが撃ち合いを始めれば世界大戦になる」と述べた。これが22年2月にウクライナに侵攻する機会を与えた。侵攻後もバイデン大統領は「何としても第三次世界大戦を避けなければならない」と繰り返し、これがクリミア半島やウクライナ東・南部をロシアに譲ってでも戦争を避けなければならないという誤ったメッセージとなったと細谷氏は解説している。 

 

4.これらに加えて、今回のトランプ氏の発言だ。 戦争を止めるためにはウクライナ領土の一部割譲や中立地帯化もやむを得ないと言ったに等しい。「現代のチェンバレン」はバイデン氏であり、トランプ氏だ。これが中国の習近平国家主席にどのようなメッセージを発することになったか。 仮にトランプ氏が大統領になれば、米国は中国による東シナ海、南シナ海での「力による現状変更」を容認すると受け止めても仕方あるまい。そうなれば、台湾有事までは「あと一歩」だ。安倍晋三元首相が主張していたように「台湾有事は日本有事」だ。日本の次の首相は戦後初めて「有事」に対応しなければならなくなる可能性が高い。人気や若さ、見栄えの良さだけでは対応できまい。

 

■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、専攻は憲法学。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。

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