高市早苗氏〝逆転の戦略〟とは 

1.自民党総裁選、進次郎氏一歩リード 安倍元首相の〝遺志〟胸に「政界屈指の保守政治家」追撃なるか。高市氏の出馬表明で、総裁選の流れは変わるのか。自民総裁選の出馬会見。高市早苗経済安保相(63)が9日午後、党総裁選(9月12日告示、27日投開票)への正式な出馬記者会見に臨む。日本が未曾有の難局に直面するなか、豊富な経験と知識に裏打ちされた「政界屈指の保守政治家」の早期参戦が注目されていたが、10人以上が出馬に意欲を見せたため、立候補に必要な推薦人(20人)集めに苦労したようだ。総裁選は、高い知名度と菅義偉前首相らの支援を受け、小泉進次郎元環境相(43)が党員票や国会議員票でややリードしているとの見方がある。2021年の前回総裁選で支援を受けた安倍晋三元首相の〝遺志〟を胸に、「強い日本をつくることに全力を尽くす」という高市氏は逆転できるのか。

 

2.街頭演説を行う小泉進次郎元環境相。高市氏は先月末、保守系議員を前に、「『日本列島全体を強く豊かにする』という目的に向かって頑張っていく」「ぜひ、一緒に戦ってほしい」と決意表明したという。全国各地で頻繁に開催している高市氏の講演会には、自民党を長く支えてきたものの、LGBT法の拙速な法制化などで岸田文雄政権から離脱した「岩盤保守層」を中心に、多くの人々が押しかけている。

高市氏が編著者を務め、先月末に発売された新刊『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』(産経新聞出版)も話題だ。この序章には、高市氏の「今を生きる日本人と未来を生きる日本人のためにも、多様な分野において果敢に挑戦を続けていく」との決意と覚悟が記されている。

 

3.だが、総裁選には過去多数の候補者が乱立し、論戦が総花的になる可能性がある。高市氏はいかに戦うのか。ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「総理総裁の資質は『国家観』『国家像』に集約される。過去の総裁選や政治活動、直近の出馬会見など踏まえ、『わが国の針路をどうするか』というビジョンを明確に示しているのは高市氏と石破茂元幹事長(67)、河野太郎デジタル相(61)の3人だ。高市氏は非常に厳しい戦いだが、『女性初の宰相』という期待もある」と分析する。それだけに、9日の出馬会見で表明する「国家観」「政策論」は注目だ。

 

4.有馬晴海氏「『保守政党』『女性初』で存在感高まる」高市氏周辺は現状について、「強固な保守系議員に加えて、幅広い支持の浸透を模索してきた。出馬会見までに時間がかかったのも、高市氏本人の政策論に、支持者らの『意見』を加味し、丁寧に吟味してきたから。筋の通った議論を戦う準備は万端だ」と語る。

自民党は派閥裏金事件など、相次ぐ不祥事で、国民の信頼を失っている。メディアでは、「刷新」「世代交代」がクローズアップされ、若手の小泉氏の言動が報じられているが、新たな動きもある。

 

5.政治評論家の有馬晴海氏は「報道各社の世論調査は、『石破氏と小泉氏がトップ争い。少し離れて高市氏』という傾向で共通していた。国会議員票を加味すると、『石破氏と小泉氏の決選投票』という見方が多かったが、ここに来て高市氏の支持が着実に広がっている。自民党と他党の決定的な違いは『保守政党』であることだ。党が揺らぐいま、憲法改正や外交・安全保障で確固とした持論がないと『岩盤保守層』の支持は得られない。これに『女性初の宰相』という要素が強調されれば、高市氏の存在感は高まっていく」と語った。

 

6.自民党総裁選をあざ笑うように、中国軍の偵察機が先月26日、長崎県沖の日本領空を初めて侵犯した。中国海軍の測量艦も同月31日、鹿児島県沖の日本領海に侵入した。総裁候補には「親中派」や「知中派」議員が多々おり、これらに毅然(きぜん)と猛反発したのは高市氏ら数人だった。鈴木哲夫氏「政策論争で局面打開も」ただ、保守派議員は〝分裂模様〟だ。「刷新感」を期待する若手・中堅議員の支持は、真っ先に出馬表明した小林鷹之前経済安保相(49)に集まる。保守論客で多数の党員を獲得している青山繁晴参院議員(72)も出馬意欲を維持している。前出の鈴木氏は「自民党支持層の3割は『強固な保守』だ。本来なら高市氏支持に回る票が割れているのが高市苦戦の原因だ。ただ、過去最長の選挙期間(15日間)となる総裁選は、『地力』勝負だ。論戦になれば地金が出る。国内外が注目する討論会で、国家観と政策論に強みがある高市氏が力を発揮すれば、局面は開けるかもしれない」とみる。

12年9月の総裁選では、1回目の投票で2位だった安倍氏が、石破氏を破って逆転勝利した。当初、安倍氏は「決選投票に残るのも難しい」と言われていた。

 

7.有馬氏は今後の展開をこう予測する。

「本質的に『安倍路線』の継承もポイントといえる。高市氏は強固な保守系であると同時に、明確に安倍氏を継承するスタンスを示してきた。裏金問題で大打撃を受け、分散した最大派閥・安倍派(清和政策研究会)の支持は現状では割れているが、保守の埋没に危機感を強めた保守層の支持が高市氏に集まれば、新たな展開になるだろう」。