イエスとその時代 (岩波新書)  荒井 献 (著)

1.イエスについての伝説はさまざまで互いに矛盾するものも多く、殆ど信用できない。本書は聖書を教典としてではなく史料として読む「史的イエス」の研究成果を解説したものだ。イエスについてわかっている史実は、紀元前4年ごろナザレに生まれ、ガリラヤを拠点として説教を続け、30歳位のときエルサレムに出てきて、神殿を壊そうとして逮捕され、十字架にかかって処刑されたことぐらいだ。その活動期間は1~3年程度と推定され、彼に帰せられる言葉伝承がどこまで彼自身のものかはわからない。

 

2.しかし共観福音書などの資料を詳細に検討した結果、浮かび上がってくるイエスの像は、パウロなどが神格化した「キリスト」ではなく、当時のユダヤ教の律法主義を批判して、貧しい人々や差別される人々を救おうとした一人の伝道者である。12月25日がイエスの誕生日だというのは、聖書のどこにも書いてない。これは民俗信仰の冬至の祭である。新約聖書の冒頭にはイエスの父ヨセフがダビデの子孫だという系図が書かれているが、イエスは処女懐胎で生まれたのだから、父親が誰の子孫だろうと意味がない。イエスは自分を「神の子」とも「キリスト」とも呼んだことがない。

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