“ほぼトラ”を視野に反攻作戦をうかがうウクライナ

1.プーチンの核の恫喝に対抗する無人機攻撃「次のターゲット」。ウクライナが「第二次反攻作戦」を仕掛けるタイミング  ウクライナのゼレンスキー大統領が、今年の秋に“第二次反攻作戦”を本格化するのでは、との憶測が軍事・国際ジャーナリストの間で流れている。 【写真11枚】ドローン攻撃されたロシアの「宝の山」である石油貯蔵タンクに、真っ赤な炎と黒煙が噴き上がる  

同国内外の政治事情が背景にあるようで、国内的にはゼレンスキー氏自身の支持率低下が挙げられる。ウクライナのシンクタンク「ラズムコフ・センター」の調査では、今年6月の支持率はついに6割を切り、開戦直後の9割以上と比較すると大幅に落ち込んでいる。  

 

2.国外的には、次期大統領選挙を控えた最大の援助国・アメリカが、候補者をめぐりドタバタを繰り返している点も、非常に悩ましいだろう。今年11月3日(現地時間)の大統領選まで約3カ月に迫り、再選に意欲的ながら“老害”を理由に「バイデン降ろし」の大合唱が民主党内部からも噴出。ついに7月21日(現地時間)、万事休すとばかりにバイデン米大統領が選挙戦からの撤退を表明した。民主党の後任候補はハリス副大統領が有力視されるが、党内では意見が分かれている最中で依然予断を許さない。  これに対し、ライバルのトランプは好調で、以前から「もしトラ」(もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら)が囁かれていたが、7月13日のトランプ暗殺未遂事件を機に共和党陣営はさらに勢いづき、今や「ほぼトラ」(ほぼトランプ氏で決まり)や「確トラ」(トランプ氏で確定)と報じるメディアも多い。  

 

3.「ウクライナ援助は即時中止し、24時間以内に戦争を終わらせる」が口癖のトランプの返り咲きは、ゼレンスキーにとっては“悪夢”だ。  そこで、「もしトラ」を念頭に、今のうちに第二次攻勢に打って出て既成事実をつくってしまえば、仮に「第二次トランプ政権」が誕生したとしても、侵略された祖国の領土奪還を行っているウクライナ軍に対し、「俺が大統領になったのだから、すぐ銃を降ろせ!」とは、さすがのトランプも言えないだろう──。そんな「読み」をゼレンスキーが巡らせてもおかしくはない。ウクライナ、ロシア両国の状況を比較しても「第二次反攻作戦」を仕掛けるにはいいタイミングと言える。昨年秋にアメリカの軍事援助がストップし、一時ウクライナ軍は弾切れ寸前に陥ったが、幸いにも今年春に援助が再開し、息を吹き返した。  依然として兵員不足に苦しむが、悲願の米製F-16戦闘機の第1陣が、今年7月にオランダとノルウェーから届く模様で、反攻作戦に不可欠な戦闘機・攻撃機による航空支援(エアカバー)も可能になる。

 

4.ロシアは軍用車両不足で四苦八苦の状態  一方、ロシア侵略軍の勢いは徐々に弱まっているようで、ゼレンスキー氏には好機と映っているだろう。  実際、侵略軍の攻勢は昨年と比べて全般的に低調である。東部ドネツク州の要衝チャシブヤールで攻勢を続けるが、相変わらず無茶なゴリ押しを続け、小さな集落の攻略に対して、将兵の損失を省みない人海戦術で挑み、数カ月間で数万人もの死傷者を出すありさまだ。  他の戦線では目立った動きもなく、むしろ陣地を固めて塹壕に立てこもっている状況である。  突撃一本鎗の戦法がたたってか、戦車、装甲車、軍用トラックなどの損失は総計2万台に達した模様で、大砲も1.5万門を喪失。「戦車の在庫は無尽蔵」と豪語したロシアも、軍用車両不足で四苦八苦の状態だ。  弾薬不足も深刻で、プーチン大統領は今年6月に北朝鮮と軍事条約(ロ朝間の包括かつ戦略的なパートナーシップに関する条約)を慌てて締結。「低品質でもないよりまし」とばかりに、北朝鮮製弾薬の安定供給を同国の最高権力者、金正恩総書記に念押ししたほどだ。  これらを踏まえつつ、ウクライナは「第二次攻勢」に先立って“露払い”として長距離攻撃を大々的に行うのではないかとの観測もある。すでにエアカバーを担うF-16を守るため、ロシア軍のS-300/S-400長距離地対空ミサイル(SAM)の陣地やレーダー施設をミサイルやドローンで撃破し始めている。

 

5.ウクライナが本格化させている「無人機を使った長距離攻撃」  ロシア情勢に詳しい国際ジャーナリストは、「今後ウクライナはドローンによる長距離攻撃のターゲットを、電力・物流インフラへとシフトする可能性が高い」と強調する。  実際、ウクライナは昨年末ごろからドローンを使った長距離精密攻撃を本格化。今年1月には前線から約900km北にあるロシア第二の都市、サンクトペテルブルクの石油積み出し港と石油精製施設を攻撃し、炎上させている。ここはロシア海軍バルチック艦隊の本拠地で、しかもプーチン氏の故郷でもあるため、強固な防空体制が敷かれているはずだが、やすやすと空襲を許している。  しかもドローンは前線よりさらに内陸部の奥から発射された模様で、実際の飛距離は1000km超と推測される。リーチの長さと正確さ、小型かつあまりの“鈍足”(巡航速度は150km/h前後)によるレーダーでの捕捉の困難さに、プーチン氏やロシア軍上層部は度肝を抜かれたに違いない。  使用したドローンは、市販されているスポーツ競技用の国産小型プロペラ機がベースとなっている。操縦席や胴体外に数百kgの爆薬を収め、遠隔/自動操縦用の各種装置をつけ、飛距離アップのため燃料タンクを拡大するなど改造している。いわば、低コストで量産も楽な“長距離精密誘導弾”と言える。見た目は全くの小型プロペラ機なので、ドローンよりはむしろ「無人機」と言ったほうがイメージしやすいだろう。  

 

6.無人機を使った1000km超の長距離攻撃は今年4月から本格化し、以下の施設などにそれぞれ損害を与えている。  ・4月上旬:前線の北東約1200kmのエラブガにあるイラン製ドローン「シャヘド」シリーズのライセンス生産施設 ・5月上旬:前線の東約1350km、ウラル山脈西麓のサラヴァトにある石油化学コンビナート ・5月下旬:前線の東約1550kmのカザフスタン国境付近、サラヴァトにも近いオルスクの早期警戒レーダー  特にオルスク攻撃の発射地点は、前線からさらに200km以上内陸の場所で、実際は目標から約1800km遠方から狙ったことになる。  これは既存の小型スポーツ機のほぼ最大航続距離に匹敵し、これ以上飛距離を稼ごうとして燃料タンクを増やすと、その分爆薬量を減らさなければならず、破壊力が小さくなってしまう。いわば実証試験とも言えるが、今後はより大型の市販機をベースに、爆薬搭載量を倍増した無人機を続々と実戦投入すると見られる。

以下、

https://news.yahoo.co.jp/.../0b31d311910a24f8161977b5f1cd...