菅前首相「加藤勝信氏が意中の人」で号砲

1.岸田首相は11日、米シントンで開催していたNATO首脳会議にパートナー国として参加した。バイデン大統領とも短時間立ち話をして、連携強化を確認したという。ただ、岸田内閣への国民の評価は高くない。報道各社の世論調査では、内閣支持率は「危険水域」に沈み込んだままだ。次期衆院選での「自民党下野」を警戒する声も噴出している。党内では、党総裁選を見据えて、キーマンである麻生副総裁と菅前首相が駆け引きを激化させている。ジャーナリストの長谷川幸洋氏が「ポスト岸田」について分析した。

 

2.自民党総裁選が9月に実施される。日本を背負う「次の首相」は誰になるのか。情勢は流動的だが、「2人の本命候補と、1人のダークホース」の争いになる。岸田政権に対する逆風は収まるどころか、強まる一方だ。東京都知事選と同日投開票(7日)された東京都議補選では、自民党が「2勝6敗」だった。そのうち1勝は、無免許運転スキャンダルで辞任した議員の後釜なので、実質1勝と言っていい。いま総選挙をすれば、自民党の惨敗は必至だ。

 

3.となると、次の総裁は、少なくとも「これで自民党は変わった」とアピールできる候補であることが、絶対条件になる。即ち、「女性」か、誰もがあっと驚く「若手」だ。総裁選には、キングメーカーの存在がささやかれている。ずばり、麻生副総裁と菅前首相だ。2人は、それぞれ誰を担ぐのか。菅氏は、かねて萩生田光一前政調会長と武田良太元総務相、加藤勝信元官房長官の3人と定期的に会食を重ねてきた。6月6日の会合には、小泉進次郎元環境相が加わった。このうち、萩生田氏は旧統一教会と政治資金の問題で傷ついている。武田氏は首相への野心がない。小泉氏はマスコミの人気投票で常に上位に食い込んでいるが、首相には早すぎる。この夜の会合は、NHKと朝日新聞が動画と写真付きで報じた。菅氏の了解なしには、あり得ない。つまり、菅氏は「加藤氏こそが意中の人」として、政局の号砲をブチ上げたとみて間違いない。

 

4.麻生氏は誰を担ぐのか。当初は上川陽子外相を「あのおばさん、やるねえ」などと持ち上げていたが、肝心の本人は外務官僚の作ったペーパーを棒読みしているだけで、地金がバレてしまった。誰が見ても、難局を引っ張る求心力に欠けている。鈴木俊一財務相という声もあったが、「増税メガネの岸田首相から財務相への交代」では、政権と自民党の立て直しをあきらめたも同然だ。とても有権者の支持は得られない。ここへきて、小林鷹之前経済安保相の名前が浮上している。彼の強みは、何といっても49歳という若さだ。衆院当選4回という経歴は、普通なら閣僚にも早いが、東大、大蔵省(現財務省)、ハーバード大ケネディスクール出身という華麗な経歴にも助けられて、総裁候補のダークホースになった。


5.河野太郎デジタル担当相や石破茂元幹事長の名前も挙がっているが、小泉氏と合わせて「小石河連合」と称される2人は、菅氏が先の会合に小泉氏を呼んだ時点で、目が消えつつある。逆に、小泉氏は「加藤政権なら閣僚候補」に躍り出た。茂木敏充幹事長は党内人気がいま一つだ。加藤氏は、安倍派の多くと二階派、茂木派の一部、それに菅グループの国会議員票が見込める。精力的に地方で講演会を開いている高市早苗経済安保相は「党員票狙い」だろう。麻生氏が、高市氏を推す可能性もゼロとは言えない。ライバルの菅氏と距離がある高市氏は、いわば「敵の敵は味方」になる。


6.麻生氏が高市氏を推せば、一定の国会議員票を見込め、加藤氏といい勝負になるかもしれない。女性である点も有利だ。かくて、加藤、高市両氏が本命候補になる。その先に注目する。誰が「ポスト岸田」になろうと、来年10月の任期満了までには、必ず総選挙がある。そこで自公連立政権は過半数を獲得できるだろうか。いまの不人気を見れば、絶対確実とは言えない。そのときは、日本維新の会や国民民主党との連立が視野に入ってくる。日本の政治は再び、多党連立で流動化しそうだ。欧州の現状を見れば、それは激動する時代の潮流でもある。以上、
長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。