1.編者は、キャノングローバル戦略研究所の研究者です。実は、同じ出版社から池田清彦『SDGsの大嘘』が本書のほぼ1年前の2022年に出版されている。その続編というわけでもないが、SDGs、特に、脱炭素に強い疑問を呈している。SDGsについて正面切って反対は難しいと感じるが、本書などでも強調されているのは、経済と環境のトレードオフ。SDGsは環境だけがコンポーネントになっているわけではなく、17のゴールと169のターゲットには、ゴール5のジェンダー平等、ゴール8の働きがいや経済成長、ゴール9の産業と技術革新の基盤などなど、モロに矛盾しかねないトレード・オフの関係にあるいくつかのゴールやターゲットが含まれている。

 

2.本書ではカーボン・ニュートラルという、ある意味でもっとも人口に膾炙した目標、ゴール13の気候変動に焦点を当てている。ただ、相変わらず、陰謀論的な色彩が強い。もっぱら、ステークホルダーのうちで「誰が得をするか」のトピックに終止している。科学的に脱炭素が必要かどうかについて議論することなく、現在の脱炭素の方向性についての損得勘定で議論しても、底の浅い議論にしかならない。米国 Committee to Unleash Prosperity のリポート "Them vs. U.S.: The Two Americas and How the Nation’s Elite Is Out of Touch with Average Americans" というのがあるが、一般国民とElite1%とIvy League Graduatesで気候変動に対する考え方にかなり乖離がある。これは、2016年の英国のEU離脱、いわゆるBREXITの国民投票と同じで、一般国民と高学歴層の間に乖離があった。米国の気候変動に関するアンケート調査では高学歴層が気候変動に強い関心を示し、$500のwill to payでも高い比率を示すなど、生活や経済に犠牲があっても気候変動に対処すべき、という考えが強いことが示されている。

 

3.英国のBREXIT国民投票でも年齢が低いほど、また、学歴が高いほど、leaveではなくremainに投票しているとの結果がLSE blog "Would a more educated population have rejected Brexit?"などで明らかにされています。ですので、カギカッコ付きの「意識の低い一般国民」に対しては、我が国でもSDGs、特に、脱炭素については反対意見が強い影響力を持つ可能性があります。私も、かねてより、省エネとかで経済的な利得を得られるのであればSDGsや脱炭素が進むのは当然なのですが、$500のwill to payなどといった何らかの敬愛的な犠牲やロスを受けてでも脱炭素を進めようという意見がどこまで一般国民の間で支持されるかは、何とも自信がありません。ただ、一昔前であれば、間接民主制というのは国民の意見、すなわち、民意にバイアスあるのであれば、民意をそのまま単純に国政や外交などに反映させるのではなく、専門家の知見に基づいて一定のバイアスの是正も考慮すべきと、私は考えています。経済政策においては金融政策がある程度そういった考えで中央銀行の独立性を認めているわけです。気候変動についても、本書の見方は国民一般にはあるいは受入れられやすいかもしれないが、一定のバイアスある。

脱炭素のまやかし

チョコレートバー、テキストの画像のようです