日本の経常収支

1.日本の経常収支の黒字が史上最大を更新した。経常収支の黒字は単に「経常収支が黒字」という話であって、経済力がある、ない、黒字が良い、赤字が悪いの指標ではない。何しろ、世界最大の経常収支赤字国はアメリカなのだ。更に経常収支の黒字は「日本が生産する財・サービスの競争力が高い」といった指標でもない(そのケースもあるが)。日本の経常収支黒字の主役は所得収支(第一次所得収支)であり、貿易収支やサービス収支ではない

 

2.所得収支とは、日本の対外資産からの収入(金利、配当金等)から対内資産への支出を差し引いた収支。日本は世界最大の対外純資産国であるため、所得収支の黒字が巨額化している。日本の貿易収支は、2010年までは黒字だったが、翌年の福島第一原発事故により赤字化した。鉱物性燃料の輸入が激増したためだ。そこに、コロナ禍の反動、ロ・ウ戦争、円安で、輸入物価が急騰。2022年度の貿易赤字は史上最大になった。輸入物価の上昇が落ち着いたため、2023年度の貿易赤字は一気に縮小する。

 

3.2022年度の貿易赤字は17.8兆円、何しろ所得収支黒字が35兆円を超えているので、経常収支が赤字になることはない。別に赤字になったところで「だから何?」な話でもない。2022年の経常収支のデータが公表されている国々の総計は、186カ国。内、経常収支赤字国は130国。最大の赤字国はアメリカ(9430億ドル)、次いでイギリス(1214億ドル)、さらにインド(804億ドル)、フランス(597億ドル)と続く。

 

4.米英印仏について「経済力が弱い」と表現する人はいない。2023年度は貿易赤字が3.6兆円に縮小し、経常収支の黒字が過去最大を更新した。今後、円安で日本企業が生産拠点を国内に戻せば、その内、貿易収支も黒字化する。貿易収支が黒字になろうとも、GDPがマイナス成長を続けるのでは意味がない。貿易黒字はGDPの純資産になるが、純資産が増えてもそれ以上に内需が落ち込めば、GDPはマイナス成長になる。そもそも、短期的に貿易収支を改善したいならば、原発を全て再稼働すればいいことだ。輸入が一挙に減少するので、貿易収支は黒字になる。いずれにせよ、経常収支も貿易収支も「黒字でなければならない」という話ではない。最も重要なのは、GDPが堅調に成長しているか否かだ。

 

5.財務省では国際収支に関する有識者懇談会を開く。貿易収支の赤字基調やデジタル赤字の拡大といった構造変化をふまえ、日本経済の課題と処方箋をまとめた提言を公表する。成長分野への労働移動を通じた生産性向上が重要だとの認識を語る。そもそも、国際収支の「改善」って何だ? 貿易赤字を黒字化したいという話か? なぜ? アメリカは? インドは? イギリスは? フランスは? 四カ国とも巨額貿易赤字(経常収支が赤字だ)が、彼らにも改善を求めたら。ちなみに、全ての国々が経常収支や貿易収支の黒字になることはない。誰かの赤字は、誰かの黒字だ。経常収支、貿易収支の黒字は、単なる「経済構造の結果」であり、重要なのは「国民の所得(GDP)が増えているか、否か」なのだ。「貿易赤字を改善しなければならない。そのためには、規制緩和で生産性向上! 最エネ普及!」と、特定のビジネスのために経常収支を活用して煽りたいわけだ。指標について正しい知識を持たない国民はコロッと騙される。よく学び、騙されてはならない。

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