1.著者は、明治大学のエコノミスト。本書は4章構成であり、第1章で交際の負担に関する理論的な整理をし、需給ギャップがあり需要が潜在供給力を下回るのであれば、国債発行による財政支出拡大は、現在世代だけでなく、将来世代に対しても決して負担にならないと主張。第2章では、金利操作による伝統的な金融政策とそれ以外の非伝統的な金融政策の違いについて否定的な見方を示し、金融政策に対する効果を投げれば、財政政策も同時に必要との結論に達している。そして、第3章が決定的に重要なのだが、財政政策と金融政策の両方の政策手段の連動により長期的な成長の達成が可能となる政策運営を明らかにしている。

 

2.即ち、狭義の政府と中央銀行を合わせた統合政府の債務総額は財政政策で決定され、その内訳、というか、構成を決めることに対して金利を割り当てる、という政策論議。そして、最後の第4章では、従来は短期的には需要を、長期的には供給を重視し、長期的に生産性を向上させる構造政策の重要性が指摘されてきたが、本書では、生産性向上や供給サイドの強化をもたらすのは需要であると結論。従来から需要サイドを重視するエコノミストでしたが、ここまでクリアに議論を展開する能力にかけていた。その意味で、本書で展開されている議論に感激した。少し前まで本書で指摘するような高圧経済はサステイナビリティがないような意見が主だったが、本書ではタイトル通りに経済政策の転換を主張。

 

3.特に、本書第3章で示されている統合政府による経済政策のモデルは極めてクリアであり、サムエルソン教授のような新古典派総合の easy money, tight budget とか、シムズ教授のような物価水準の財政理論(FTPL)なども視野にれつつ、逆に、現代貨幣理論(MMT)の財政政策に関するマニフェスト的な理論も必要とせず、主流派経済学の枠内で今後の財政政策と金融政策の連動による統合政府の政策の方向性を示す。特に、第3章のごくごく簡単な数式を展開した統合政府モデルは鮮やかとすらいえる。加えて、ムリな中央集権に基づく政府の産業政策的な産業選別政策、まさに、経済産業省が志向するような政策のリスクについても的確に指摘。ともかく、1年の半分もまだ経過していないが、ひょとしたら、今年の年間ベスト経済書かもしれない。新書といった一般に判りやすい媒体も結構だが、野口旭教授の『反緊縮の経済学』に次ぐような学術書に仕上げて欲しい。大いに期待する。