「世界を変えた8つの企業」東洋経済新報社/W・マグヌソン

1.企業は進歩のエンジンか、不幸や諸悪の根源か?古代ローマの「ソキエタス」から、現代の「フェイスブック」まで、8つの企業の功罪を通して知るこの世界の成り立ち。企業は世界の動向につねに多大な影響を及ぼしてきた。そして企業は、誕生した当初から共通善(社会全体にとってよいこと)の促進を目的とする組織だった。しかし今、企業はひたすら利益だけを追い求める集団であり、人間味などとは無縁のものであると考えている人は多い。では、企業はどこで、どのように変節してしまったのか?


2.時代を画した8つの企業の歴史を俯瞰しつつ、現代社会を読み解き、企業のあるべき姿を指し示す記念碑的な書。「企業が最後には必ず利欲に目がくらみ、悪徳の道に進んでしまうというのは避けられないことなのか。企業の歴史とは、結局のところ、大きな期待と失望の繰り返しでしかないのか。企業が世界という舞台で果たす役割について、社会はだまされるだけなのか。そんなことはない、という考えだ」(「序――企業の役割」より)
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3.本書では、企業と企業を支える人たち、つまり資金を提供する株主や、経営を手がける重役や、業務を担う従業員といった人たちの歴史が語られる。舞台は古代ローマの宮殿から、デトロイトの工場の組み立てラインにまで及ぶ。ビジネスがどのように成功し、どのように失敗するかや、優れたリーダーとそうでないリーダーとはどこが違うのかも目の当たりにするでしょう。

企業の歴史に一貫して見られる特徴がひとつあるとしたら、それは世界の動向につねに多大な影響を及ぼしてきたということだ。企業は善玉のこともあれば、悪玉のこともある。しかし、つねに舞台に立っているのが企業といえる。本書は8つの章からなり、各章でそれぞれ1社を取り上げて論じる。

第1章 「ソシエタ」-繁栄の源となった共和制ローマの企業

共和制の企業「ソシエタ」は、現在の企業法人と同じようなもので、個人ではできないような大事業を実施することを可能にした。

古代ローマにおいて企業は、問題解決をするために、国家の利益を促進するために作られた。

第2章 メディチ銀行-市場を機能させるハブ

銀行業は、「資本配分」、つまり資本の効率的な使い方を見つけることを可能にしたとともに、流動性危機、つまり銀行への取り付け騒ぎというリスクをもたらした。

メディチ家の銀行は、ヨーロッパ経済を農業封建主義から、金融と貿易を基盤とした近代資本主義へと移行させることに貢献した。

第3章 東インド会社-株式が解き放った力

東インド会社の繁栄の鍵は、株式にあった。株式は安定した資金源となるため、企業は事業の将来性を長期的に見ることができた。

しかし、株主の関心は、株式の価値よりも株価に向けられ、企業はより大きな利益を得るために、より熾烈な競争を強いられるようになった。

第4章 アメリカ大陸横断鉄道-成長と独占の問題

企業はつねに独占を目指すが、独占は社会に不利益をもたらすため、政府は独占禁止法で対抗してきた。

大陸横断鉄道の事例には、独占がどのように形成されるのか、独占からどういうことが起こるのかが鮮明に描き出されている。

第5章 フォード-消費主義の幕開け

フォードは近代資本主義における最も重要な革新の一つである大量生産を可能にするとともに、労働者の消費力を増やし、大量消費社会を築いた。

一方で、フォードの工場には、機械が人間に優るというよりも、人間を機械に変えるという、非人間的な側面もあった。

第6章 石油会社エクソン-多国籍企業の功罪

貿易障壁が撤廃され、大規模な国際経済条約が締結されたことで、多国籍企業が出現した。エクソンなどの多国籍企業は、国際経済システムから締め出されていた国々に、雇用、商品、専門知識、収益をもたらした。

しかし、安い税金や労働力、規制の緩い国を求めて、「底辺への競争」をもたらした。

第7章 コールバーグ・クラビス・ロバーツ-プライベート・エクイティ・ファンド(投資会社)の台頭

プライベート・エクイティは、過大な報酬を得た、あるいは無能なCEOが経営する肥大化した企業で溢れかえっている業界に、敵対的買収という解毒剤をもたらした。

しかし、プライベート・エクイティは、短期的な利益を得る一方で、レイオフなど、長期的な破壊をもたらすことがある。

第8章 フェイスブック-スタートアップの熱狂と闇

スタートアップ企業の台頭は、企業は世界を変えるような素晴らしい結果をもたらすことができることを教えてくれた。

しかし、シリコンバレーの文化は、過剰なリスクテイク、消費者操作、プライバシーの侵害、短期主義など、あらたな問題を生んでいる。

「まとめ」:共通善の促進のためにー企業は人々を協力させることができる。現在、企業の力は絶大だ。わたしたちが毎日をどう過ごすかから、何を気にかけ、何に価値を置くかまで、わたしたちの生活のありとあらゆる側面が企業の決定に左右される。しかし、本来の目的を見失った企業は、社会に大きな害を及ぼす可能性がある。共通善を促進する原動力として、会社の未来像を描き直したいというのが、著者自身の考えだ。企業は、その核心部分においては、協力の大切さ、つまり人々が同じ目標に向かって力を合わせることの大切さの証拠となるものだ。企業が経済的な奇跡を起こせるのは、人間はひとりで取り組むより、仲間といっしょに取り組むことでより大きなことを成し遂げられるからにほかならない。このことは人間の性質と資本主義の制度を賛美する理由にもなれば、その未来を楽観できる理由にもなる。(結論より一部抜粋・編集)