定額減税で脱デフレは無理

1.内閣支持率の低迷が続く岸田内閣だが、巻き返せるのか。鍵になるのは「脱デフレ」だ。第2次安倍政権によるアベノミクスでも果たせなかった。岸田首相は今年に入って、ことあるごとに「デフレからの脱却」を口にしている。確かに、今はデフレ終結の条件が整ってきたかのように見える。春闘の賃上げが大企業では5・58%と1991年(5・60%、最終集計)以来33年ぶりの高水準だった。デフレの一般的な定義は物価が継続的に下がり続ける状態を指すが、実質賃金が下がり続け、需要が低迷するのが、日本型デフレだ。1990年代末以降、物価下落幅以上に賃金が下がる状態がしばらく続いた。ウクライナ戦争開始後の2022年3月以降には物価上昇率に賃上げが追いつかない。

 

2.実質賃金が上昇軌道に乗れば、めでたく1990年代後半からの慢性デフレの見通しが開けるというわけだが、現実はどうか。グラフは家族2人以上の勤労者世帯の収入の前年同期比の増減額と実質増減率、更に実質可処分所得の増減率の推移だ。総務省が実施している家計調査から作成した。同調査はサンプル調査なので、日本の勤労者世帯全てを網羅しているわけではないが、標準的な水準だとみなされる。最新のデータは今年4月で、それまでの12カ月合計の勤労収入は670万円弱で、1年前の681万円余を11万7000円も下回る。

 

3.それでも、春闘賃上げが反映し始めた4月単月でみると、前年同月に比べて1万7600円、3・7%増えた。物価上昇を加味した実質でも0・8%増だ。グラフが示す通り、ようやく押し込められてきたマイナス領域からやっと鼻先が上に出たという程度。当然、この程度で脱デフレが果たせるか、心許ない。注視すべきは実質可処分所得の増減率。可処分所得は総収入から社会保険料と所得税、住民税の直接税を差し引いたもので、消費税など間接税は対象外なのがくせ者だ。名目可処分所得が多少増えても、消費税負担でフトコロに残る正味分は減りかねない。更に物価上昇率がカウントされる実質増減率でみると、4月はマイナス2・6%だ。

 

4.では、今月から実施される一人当たり4万円の定額減税は実質可処分所得のマイナスをカバーできるのか。答えはノーだ。可処分所得は名目で年間で8万8500円も減っている。定額減税は2人家族の場合8万円、3人家族で12万円になるので、可処分所得の減少分をほぼ埋め合わせられるように見えるが、しょせん1度きりである。消費者は社会保険料負担増などが先にありそうだとなると、身構えるので、消費需要は増えそうにない。拙論は昨年秋、消費税減税、特に食料品税率をゼロにせよと論じた。標準世帯当たりの食料品消費は年間約100万円で、8万円分の消費税負担がなくなる。育ち盛りの子供を持つ家計は大いに助かるだろう。

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