中国で“習近平政権”から脱出する学生が増えていた

1.今年も中国の高考(ガオカオ=大学入学統一試験)の季節がやってきた。全国各地で6月7日、8日(一部地域は9日まで)に実施される。「人生をかけた一発勝負」と呼ばれ、試験勉強の過酷さが日本でも知られており、今年は昨年より約51万人多い、過去最多の約1342万人が受験する。今年(2024年)の受験者数を省別でみると、最多は河南省で約136万人、続いて山東省(約100万人)、河北省(約88万人)、四川省(約83万人)の順となっている。河南省が「激戦省」なのは例年有名で、毎年「河南省に生まれた受験生は地獄」などといわれている。  

 

2.逆に受験者数が最も少ないのはチベット自治区で、約3万9000人。ほかに、上海市は約5万8000人、北京市は約6万8000人、天津市は約7万4000人などとなっている。  前編『じつはいま中国で“仮面浪人生”が増えていた…「受験戦争」に格差が広がる衝撃の現状』で見たように、ここ数年の傾向を見てみると、いくつか特筆すべき点がある。その一つは「復読生」と呼ばれる再受験生が増えていることだ。今年の復読生は約413万人で全体の3分の1近くを占める。日本の浪人生は中国では一般的ではなく、いったん、希望ではない大学に入学し、再受験する人が多い。現在、大学の合格率は70%を超えており、大学を選ばなければ、どこかの大学に入学すること自体は可能になった。  しかし、中国国家統計局のデータで若者(16~24歳)の失業率は14.7%(24年4月)と高く、就職難が続いている。そのため、少しでも自身の学歴を上げたいという学生が多いことが背景にある。また、それと関連して、大学院に進学する学生も増えている。有名大学卒というだけでは就職が有利にならないからだ。23年の教育省(日本の文科省)の発表では、大学院受験者は約400万人で、合格者は約130万人。  修士課程、博士課程の両方ともに前年より伸びていた。中国の保護者の中には、最初から子どもが大学だけでなく、大学院まで進学することを想定している人も多い。

 

3.大都市では海外に進学する受験者が増加

もう一つ、ここ数年の傾向だが、大都市の受験者数は、今年は昨年より増えてはいるものの、他省と比較して伸び率はそれほど高くない。その背景について、北京市で高校教師として働く知人の男性は次のように説明する。  「北京市内の有名高校の多くに国際部(高校の国際部門)があります。そこは、同じ高校の敷地内にあり、分校のような別組織ですが、最初から海外の大学に進学することを前提としており、そこの学生は、中国の大学はほとんど受験しません。また、高校の一学年、たとえば、10クラスあるとしたら、そのうちの2~3クラスが国際班(国際クラス)という高校も多い。  国際班に入ったら、欧米の高校を目指す生徒がほとんどです。必死になって勉強し、高考を勝ち抜いて国内の大学に入るより、欧米の一流の大学に入るほうが、将来の選択肢が多い、希少価値がある、国内の熾烈な競争に巻き込まれないで済む、というのが理由です」  上海市なども同様で、北京市、上海市などでは、保護者が子どもに「厳しすぎる高考を受験させたくない。英語も身に着けさせたい」との理由から、小学校からインターナショナルスクールに通わせるという選択も増えている。

5.地方都市の学生にとって、受験は負担が大きい

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そこには、『じつはいま「日本に移住を望む中国人」が激増している…富裕層がこぞって日本を絶賛するワケ』に書いたように、習近平政権下の思想教育(政治教育)を我が子に受けさせたくないという別の理由もある。  一方、内陸部の地方都市では、受験者が大幅に増えており、それが全体の受験者数の伸びにも影響している。地方都市も経済的に豊かになり、進学率が上がっていることが理由だ。地方都市から北京市や上海市の大学に合格することは、北京市や上海市の学生が同じ市内の大学に合格することよりも難しい。  さらに、地元を離れ、大都市の大学に進学すれば、保護者の経済的な負担も大きい。  中国の大学は全国ほとんどの大学が全寮制を取っており、住居は安く済むが、都市での生活は地方よりお金がかかる。  だが、国際部や国際班の数がまだそれほど多くなく、海外留学のハードルが高い地方都市の学生にとって、高考が「人生をかける一発勝負」「人生の突破口」であることは変わりないのだ。今年も一年に一度きり、高考の熱い戦いがまもなく始まろうとしている。  【もっと読む】『じつはいま「日本に移住を望む中国人」が激増している…富裕層がこぞって日本を絶賛するワケ』

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