受け継いだ「日本精神」

1.著書『頼清徳』によると、頼氏は生後3ヶ月で働き者の父を亡くした。母は30歳の若さで6人の幼な子を一人で育てることになった。「貧困の中で育った私たちは重労働も恐れず、きょうだいの関係は特に良好でした」と頼氏。「台風が来たら、屋根が飛ばされたものでした。台風が去った後は……」。苦しい生活の中で家族が団結して屋根を直したことを思い出した時、頼氏は感情があふれ出て絶句した。頼氏は選挙演説で語っている。「父は炭鉱の労働者だった。(中略)私は貧しさを理解し、台湾から貧困をなくしたいと思って医者になり、さらに政治の道に入った。そして今、炭鉱労働者の息子が総統になる時を迎えようとしている」。

 

2.頼氏の不屈の精神の源流は、親の世代から受け継いだ「日本精神」だと氏は語っている。2017年、日本記者クラブでも氏はこう語った。「私が小さい頃、大人たちは、大きな困難に見舞われそうな時には、常に『死んでも退かない日本精神を持て』と言っていたので、私はこの頃から日本に非常に関心を持っていました」。東日本大震災、熊本地震、安倍総理暗殺、いずれの時も信じ難いほどの早さで氏は日本に駆けつけた。

 

3.頼氏らが主導する台湾の戦いは世界の民主主義と平和の為の戦いである。台湾の戦いをあらゆる知恵と力で支援するのがわが国の国益だ。駐日中国大使の呉江浩氏は台湾総統就任式に合わせて鳩山由紀夫氏、福島瑞穂氏らを招いての座談会で、日本が「中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に引きずりこまれる」と発言した。こんな国の脅威に直面しているのが台湾だ。日台の国益は大きく重なる。台湾に力を貸すことが日本の国益であるのは明解だ。

 

4.5月20日、民主進歩党の頼清徳氏が台湾総統に就任した。副総統の蕭美琴氏と共に歩むこれからの4年間、彼らは中国共産党の最も厳しい圧力に晒されるだろう。どう乗り越えるか。頼氏を独立派だと敵視する中国共産党に侵略の口実を与えない為に、氏は蔡英文前総統の「現状維持」路線の継続を強調してきた。その上で就任演説では力強く語った。「(台湾は)高慢にも卑屈にもならず、現状を維持する」「中国と共に平和と共栄を追求する」、両手を大きく動かしながら、中国に呼びかけた。「中国は政治的軍事的恫喝を止め、台湾と共に世界に対して台湾海峡の平和と安定を維持し、誰も戦争勃発の恐れを抱かなくてよいのだと保証する責任がある」「中国による多大な脅威、浸透工作に対して台湾は祖国防衛の決意を示し、国防意識を高め、国家安全のための法的枠組みを強化しなければならない」具体策として、➀国防力強化、➁経済安全保障の構築、➂海峡の安定と原則重視の指導力、➃価値観外交の積極的推進の四原則を示した。